廃部寸前だった本庄第一高校卓球部が"普通の講習会"を開催し、出られなかったはずの団体戦で優勝するまで | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:講師・参加者の集合写真/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 廃部寸前だった本庄第一高校卓球部が“普通の講習会”を開催し、出られなかったはずの団体戦で優勝するまで

2024.05.07

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

2024年2月25日、埼玉県本庄市にある本庄第一高校でとある講習会が行われた。

講師はTリーグでも活躍する出澤杏佳(専修大)に加え、直前まで群馬県高崎市で開催されていた全国卓球選手権大会に参加していた多田浩嗣(京都大学卓球部監督)、堀本真之介(Rallys営業担当)。


写真:講師を務めた多田浩嗣、出澤杏佳、堀本真之介/撮影:ラリーズ編集部

参加者は本庄第一高校女子卓球部員の2人と、近隣や関東近郊から集まった小中学生だ。講師陣のトップレベルの技術やわかりやすい指導に、参加者も取り組み、時折笑顔も見られた。


写真:講習会の様子/撮影:ラリーズ編集部

よくある普通の講習会の光景にも思えるが、この場所で卓球の講習会が行われるのは、“奇跡”と言っても過言ではなかった。

実は本庄第一高校卓球部は、2024年3月末で廃部になることが学校側に決められていたのだ。


写真:王子サービスを指導する多田浩嗣/撮影:ラリーズ編集部

廃部寸前まで追い込まれたところから、存続が決まり、豪華講師陣での講習会が開催されるまでの奇跡の物語を、部員の父・半澤康さん視点の手記で振り返る。

「署名活動しませんか?」1本の電話

2022年9月29日の夜19時頃、本庄第一高校卓球部のOGの保護者・松村さんから一本の電話がありました。

「署名活動しませんか?」

本庄第一高校の卓球部は2024年3月末で廃部になる事が決まっていました。

私の娘は卓球部の1年生(当時)。2年間しか部活ができない事はわかっていましたが、それでも娘はこの学校を選び、もう一人の同期・鈴木さんと卓球部に入部しました。

私自身、中高と卓球を続けたことでたくさんの事を学び、大人になってからもその経験が人生の大きな支えとなっています。

「娘にもなんとか高校3年まで卓球をさせてあげたい」。以前から部活動存続のために何かできないかと考えていたので、松村さんの電話に即答しました。

「すぐ始めましょう!ありがとうございます!」

松村さんからの電話の翌々日には部活動存続のための請願書や署名用紙が完成し、署名活動を開始しました。

理事長に卓球部の存続を訴えるも

人脈のある松村さんは多くの方々への声がけで署名を集め、私はTwitter(現X)を活用して署名活動を行いました。

卓球部の卒業生らの協力もあり、全国各地から寄せられた署名は約1ヶ月で2,216人分にもなりました。


写真:集まった署名/提供:半澤康

僕と松村さん、卓球部OGの橋本さんの3人で署名を提出する為に学校へ出向き、理事長に卓球部の存続を訴えました。

しかし、「理事会で決まった事なので今からそれを変えることはできない」との返答。

署名を寄せていただいた方々や応援していただいた方々からの温かいお気持ちは、涙が出るほど嬉しかっただけに、本当に残念な結果となりました。

「廃部から救えないのか」何もできないまま時間だけが過ぎる

「もうこのまま本庄第一高校の卓球部は廃部になってしまうのかな…」。

インターハイダブルス準優勝、関東大会での優勝…数え切れないほどの輝かしい実績を持つ卓球部が廃部にされ無かったことにされてしまう。


写真:練習場の壁には過去の輝かしい実績が貼られていた/撮影:ラリーズ編集部

「先輩達が築き上げた伝統のある素晴らしい卓球部を廃部から救えないのか。まだ何かできるのではないか…」。

そう思いながらも時間だけが過ぎていました。

2023年6月には1つ上の先輩(男子6人、女子2人)が引退し、私の娘と鈴木さんの2年生女子部員2人だけが残されました。人数不足で団体戦では戦えず、試合中に観客席から応援してくれる仲間もいませんでした。


写真:練習場に貼られた紙には「1+1は2以上になる」の文字/撮影:ラリーズ編集部

廃部まであと4ヶ月のタイミングで鳴った1本の電話

署名提出から1年近く経った、2023年12月3日。顧問の新井先生から一本の電話ありました。

「卓球部の廃部が白紙になりました!」

何が何だかすぐには理解できませんでした。話を聞くと、管理職会議で署名の話が出て、部の存続について話し合われた結果とのこと。

署名提出からずいぶんと時間が経過していましたが、卓球部が存続できる道を学校側が考えてくれたようでした。廃部まであと4ヶ月というぎりぎりのタイミングでの出来事でした。

SNS上での温かい声

私はすぐにTwitterでこの件を報告しました。ありがたいことに、たくさんの方々から祝福の声がどんどん寄せられ、嬉しいDMもたくさん届きました。

「本庄第一高校の卓球部のために何か協力したい!」と申し出てくれる方もいました。

そのDMの中には、今回の講習会を企画してくれた多田さんからのメッセージがありました。


写真:王子サービスを指導する多田浩嗣。多田の父が講習会を企画した/撮影:ラリーズ編集部

卓球部の存続の活動に共感してくれた多田さんは新入部員募集のためのイベントを考え、今回の豪華講師陣の講習会を開催してくれたのです。

ついに迎えた講習会当日

ついに講習会当日。受講生は中学生がメインで25名ほどでしたが、本庄第一卓球部の卒業生も手伝いに来てくれ、盛況となりました。

出澤選手と堀本さんの模範試合のあと、部員2名がダブルスの試合をしていただきました。


写真:ダブルスでの対戦の様子/提供:本庄第一高校卓球部

2人にとっても、親の私にとっても一生忘れられない最高の思い出となりました。

しばらくすると、群馬県で開催されていた新体連全国大会の帰りの王子サーブの名手・多田浩嗣さんが到着しました。


写真:王子サービスを指導する多田浩嗣/撮影:ラリーズ編集部

滑らかな美しいフォームから繰り出されるキレ味鋭い王子サーブに参加者全員が驚いてました。ちなみに多田さんはこの日の全国大会で3位に入賞したそうです。講習会の参加者からも祝福の拍手がありました。


写真:全国卓球選手権シングルスでは3位入賞した多田浩嗣(泉壱番館)/撮影:ラリーズ編集部

堀本さんにはカットマンの選手の指導をしていただきました。長身でイケメンの堀本さんのプレーに、子供達みんな釘付けになってました。質問に対して実際にプレーで分かりやすく説明をしてもらい、とても分かりやすい指導でした。


写真:指導する長身でイケメンの(?)堀本真之介/撮影:ラリーズ編集部

出澤選手には7対7からのチャレンジマッチをしていただきました。最後は終了予定の時間を少し過ぎてましたが参加者全員との勝負が終わるまで試合を続けてくれました。


写真:アドバイスを送る出澤杏佳(専修大)/撮影:ラリーズ編集部

楽しい時間は早く過ぎるもので、あっという間の2時間が過ぎました。記念に参加者全員で集合写真を撮影。あとで先生から送っていただいた写真を見ると、子供達も大人もみんな笑顔で写ってました。


写真:講師・参加者の集合写真/撮影:ラリーズ編集部

自然と涙が溢れ出た

署名活動開始から1年4ヶ月。3月には廃部予定だった本庄第一高校卓球部。

講習会を開催した卓球場は4月から他の部の練習場になります。32年間、卓球部の練習を支えてきた卓球場で最後の大きなイベントとなりました。


写真:講習会の様子/撮影:ラリーズ編集部

出澤さんにお礼を伝えた際に自然と涙が溢れ出ました。


写真:中学生にゲーム形式で講習した出澤杏佳(専修大)/撮影:ラリーズ編集部

「こんな夢のような事が本当にあるんだな、諦めないで良かったな」。

そう思うと同時に、署名をしてくれた皆様や応援してくれた本当にたくさんの方々に感謝の気持ちでいっぱいになりました。

本当に本当にありがとうございました

2年前の2022年4月、鈴木さんと私の娘の2人の女子が入部。男子の入部はゼロ。

この2人が入部してなければ、2023年6月に先輩達が引退した時点で部員はゼロになり卓球部は廃部になっていたはずです。

全国の皆様から寄せられたたくさんの署名と応援の温かいお言葉、卓球部卒業生の皆様、署名活動のきっかけをくれた松村さん、そして女子部員2人が本庄第一高校の卓球部を守ってくれました。

本当に本当にありがとうございました。これからも卓球部の応援をよろしくお願い致します。

半澤康

廃部危機を乗り越えた2人の部員

本庄第一高校卓球部員の2人にも話を聞いた。

部長を務める鈴木ここみは語る。


写真:指導に耳を傾ける鈴木ここみ(本庄第一高)/撮影:ラリーズ編集部

「たくさんの方の署名をいただき部活存続が決まりました。新一年生も入部してくれる予定なので、新しい本庄第一高校卓球部を作りたいです。一度途絶えた団体戦を再開できることはとても嬉しいことです。全員で声を出し、練習してきたことを十分に発揮できるチームにしていきたいです」。

先輩が引退後は部員は2人。ようやく戦える団体戦への思いが溢れ出た。


写真:半澤里咲(本庄第一高)/撮影:ラリーズ編集部

半澤里咲も「自分達の代でも、後輩達が入ってきて団体戦に出場できる事になりました。まずは県大会出場を目指して、この高校生活に悔いが残らないように頑張りたいです」と同じく団体戦への思いを一番に口にした。

ようやく出場できた団体戦で優勝

この奇跡には続きがあった。

2024年4月20~22日の関東大会北部支部予選会。

3年生2人と新たに入部してきた1年生2人で組んだ団体戦で、本庄第一高は優勝を飾ったのだ。


写真:会場前で笑顔を見せる本庄第一高メンバー/提供:本庄第一高卓球部

部長の鈴木は、講習会後にこう語っていた。

「私たちが大会に出れるのは当たり前のことではなく、たくさんの方々の協力があって成り立つことです。私をここまで成長させてくださった中学、高校の顧問の先生、先輩方、チームメイト、支えてくれた家族などたくさんの方々に感謝の気持ちを言葉だけでなく 結果でも伝えられるように頑張ります」。

なくなるはずだった卓球部が、周囲の尽力で存続し、出られなかったはずの団体戦で、優勝を果たした。

「引退するときに『卓球人生が楽しかった、卓球を続けてよかった、人として成長することができた』と思えるように努力し続けたいです」。

廃部危機を乗り越えた3年生2人が、“優勝”という大きな経験を後輩たちにバトンとして託した。先輩から後輩へ着々と受け継がれ、これからも引き継がれていくであろう本庄第一高卓球部の伝統がそこにはあった。