なぜ、松島家は強くなれるのか。
後編は松島家の父・松島卓司さんが指導で意識する「立体的な卓球」について、詳しく話を聞いた。
写真:田阪卓研/撮影:ラリーズ編集部
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卓球における“男子の女子化”
輝空の場合は“よっしゃ、根性!”とかで通じたんですが、やっぱり美空はちょっと僕が強く出ると、もうあっち向いて、僕がイライラしたり。この一年くらいは、根性論を言うと“熱い、めんどくさい、キモい”とか(笑)。
でも、僕の考えでは、卓球という部分では、男女を変えたくないんです。女子だからこういう卓球、男子だからこういうプレー、とは全く思わないんですよね。
ただ、いつでも回り込めるという準備は必要で、そのためのフットワーク力はつける必要がある。でも、試合の中では無理矢理回り込む必要はないよ、だって回り込んだらフォアサイドが空いちゃうから。バックの威力を上げれば良いだけ、と輝空に言いました。
写真:松島輝空/撮影:ラリーズ編集部
新しい技術が出てきたとしても絶対対応できるようにしておかないと、といつも思いながら育ててきました。
松島家の卓球の特徴は“立体的”
でもそれだと卓球が狭くなってしまうので、美空にはなるべく立体的に見るように、というのは言ってますが、まだ難しいですね。
写真:松島美空/撮影:ラリーズ編集部
後ろで俺も本気で戦ってるぞ
僕自身が選手のときも、自分が「よっしゃ」って言ったとき、後ろで“よーし!”って監督が言ってくれたほうが“俺のこと見てくれてる、一緒に戦ってくれてる”って思って嬉しかったですから。
一番近い真後ろで、俺も本気で戦ってるから、ビクビクする必要ないぞって伝えたいんですよ。
写真:松島卓司氏/撮影:ラリーズ編集部
輝空のときまでは、一緒にトレーニングも練習もやってました。今はさすがに倒れそうなんで、相手をするのが中心ですけど。
僕自身も“見てるだけやしな、先生は”って思っていた時期がありましたし(笑)、やっぱり僕が一緒に頑張っていれば、子どももサボれないんです。
あと、僕自身がすぐ太るので、ダイエットも兼ねられて一石二鳥なんですよ(笑)。
7、8月は子どもの人生がかかっている
あ、でも夜は中学生の生徒さんが大会前だったので、僕は練習を見に行きましたね。美空たちは2日間休みました。
7、8月は子どもたちの人生がかかる大会が多いので、休んでる場合でもないんです。そこだけは勝たせないと、子どもたちの人生を左右してしまうから。
写真:松島卓司氏/撮影:ラリーズ編集部
輝空がいたから来てくれて、教えてほしいって言ってくれる子どもたちに、僕は責任がある。強くなりたくてついてきてくれる子が結果を残し、トップ選手になっていってほしい。
全国大会への帯同とかで抜けるときもあるから、見られるときは全部見る。少なくとも僕が休んでる場合じゃないんです。
写真:田阪卓研出身で活躍中の髙橋慶太(育英)/撮影:ラリーズ編集部
「お前はもっとできるやん」
でも、練習場で僕は9割方、ブツブツ怒ってるんですけどね。
“お前はもっとできるやん”って思うんです。
例えば中学生なら日本トップは名電、野田。強いのはわかりますが、最初から諦めていたら前には進みません。
だから、選手たちには『名電や野田を倒さないと一番はない!あそこは僕らよりもっともっと練習の質が高く、もっともっと環境が良い。少しでも近づくには一人一人の意識を高めて練習の質を上げ、もっと良い練習しようぜ』って常に思うから、ここで満足するなって厳しくなっちゃうんです。
写真:松島由美(田阪卓研)/撮影:ラリーズ編集部
でも、パパの「決めたことは絶対やり抜く気持ちの強さ」は大事で、すごいと思ってます。子どもたちだけじゃなくて、自分にもストイックですから。伏見稲荷まで往復5キロを1年で100回とか、毎日腕立てや、腹筋300回とか、絶対やりますからね。
写真:松島卓司と松島愛空(田阪卓研)/撮影:ラリーズ編集部
松島美空、史上最年少9歳でTリーグ参戦
地元の京都でTリーグチームの立ち上げに関われるのは嬉しいことですし、美空にとって、馮天薇や杜凱琹、シャン・シャオナのように世界を渡り歩いてきたトップ選手と行動を共にし、一緒に練習できる機会なんて、もうプラスしかありませんから。
写真:杜凱琹(京都カグヤライズ)/撮影:ラリーズ編集部
美空が感じられるもの、得られるものはとても大きいと僕は思っています。
カグヤライズの選手たちはみな世界を渡り歩いた選手ばかりです。
その選手たちと一緒に練習したり行動することは、世界を目指していこうという美空にとってはとてつもなく大きな刺激と勉強になります。
試合や練習前の準備の仕方、試合態度や心のコントロール。どれをとっても僕が口で言うより、目の前でスター選手がやっているのを見るほうが自分自身に入ると思うんですよね。
五輪メダリストが勝つために必死になって戦う。
その姿を見て学んでほしい。
写真:松島美空(京都カグヤライズ)/撮影:ラリーズ編集部
意外だった写真のこと
思っていたよりずっとフランクで、思っていたとおり真っ直ぐな一家だった。
ひとつ意外だったことがある。
これまでの松島家、田阪卓研の写真がもしあれば貸してくださいとお願いすると、卓司さんは意外なほど多くの写真を撮りためていた。
“あれだけ忙しいのに”と、松島一家のスポンサーを務める「みんなのおもいで.com」を展開するハッピースマイル佐藤堅一社長も、舌を巻く。
写真:これまでもたくさんの思い出を写真に残している/提供:松島卓司
理由を聞くと、卓司さんは笑って「記憶はいつかなくなっちゃうので」と笑った。
「いま、子どもも生徒も、僕とぶつかったり、葛藤したり、嬉しかったり、悲しかったり、その瞬間瞬間を生きてます。写真に残しておいて、いつか振り返って“こういうときあったなあ”とか“あれは惜しかったなあ”とか、いろいろ話したいんですよ」
少し間を空けて、こう言った。
「頑張った証、ですかね」
いつか必ず巣立っていく子どもたちに懸ける男の感傷を少しだけ見た気がした。
写真:松島卓司/撮影:ラリーズ編集部