「今日は出られただけで良かった」被災地・石川県の卓球は今<全農杯2024年全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部 石川県予選会> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:田中琉聖(穴水真名井)/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 「今日は出られただけで良かった」被災地・石川県の卓球は今<全農杯2024年全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部 石川県予選会>

2024.07.12

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

<全農杯2024年全日本卓球選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部)石川県予選会 5月12日(金)石川県白山市若宮公園体育館>

能登は本来、金沢より卓球の盛んな地域であった。
今年の3月も、奥能登の玄関口である穴水町立穴水町中の女子卓球部が、全中選抜に県代表として出場した。

過疎が進行するなかで能登半島を襲った震災は、“卓球能登”の復興を厳しくさせるものでもある。

一方、金沢には多くの観光客が戻り、活況を呈している。そこから車で15分ほど行った内灘地区では、いまも液状化被害が甚大で、地面が波打ったまま人の立ち入りを拒絶する。


写真:液状化被害の大きな内灘町を車内から撮影(2024年5月現在)/撮影:ラリーズ編集部

子どもたちは元気いっぱいで卓球の試合に臨んでいるが、話を聞くと、県外に避難して戻ってこないチームメイトのことを思っていたりする。

被災地といっても、一様ではない。
取材者の憶測で物語を押し付けないこと。現地にある葛藤や、言葉にしづらい心境に耳をすませること。そう言い聞かせながら、全農杯全日本ホカバ石川県予選会に臨む子どもたち、指導者、保護者を取材した。


写真:全農杯全日本ホカバ石川県予選会場の様子/撮影:ラリーズ編集部

バンビ台は用意できるか

能登半島地震発生以来多くの対応に追われた石川県卓球連盟の稲垣裕理事長だが、ホカバ県予選について頭をよぎったのは、バンビ台の手配だったという。

例年、ホカバ石川県予選会は七尾総合市民体育館で開催しており、七尾市の松平スポーツにあるバンビ台も含めて準備ができていたが、いまは避難所となっている。県内でバンビ台の数は多くない。避難所となっている金沢市内の体育館からの運び出しの許可が行政から出て、開催にこぎ着けた。

「今日は、能登から穴水の子どもたちも参加しています」開会の挨拶をする稲垣理事長の声に熱がこもっていた。


写真:石川県卓球連盟理事長・稲垣裕氏/撮影:ラリーズ編集部

被災地・穴水地区から兄弟で

震災発生から約3ヶ月間、練習のできなかった穴水真名井スポーツ少年団の子どもたちは、いまも穴水中学校の体育館を週2回借りて練習する日々だ。かつての施設は避難所として使用されている。

“そのかわり、一球一球、課題を持って集中して練習してきた”と、ホープス男子に出場した田中琉聖(穴水真名井)は、安定した両ハンドを武器にホープス男子2位入賞、全日本ホカバへの切符を手にした。


写真:田中琉聖(穴水真名井)/撮影:ラリーズ編集部

そのベンチには、全中石川県選抜メンバーにも入った穴水中学三年の兄・大輝が入り、懸命に弟にアドバイスを送っていた。


写真:弟のベンチに入った兄・田中大輝(穴水中学3年)/撮影:ラリーズ編集部

「的確にアドバイスをくれて、やりやすかったです」と素直に兄への感謝を口にする弟の様子に父は驚きつつ「長男にベンチに入ってもらって良かった」と、言葉を詰まらせた。

「今日は出られただけで本当に良かったと思っていて、結果はその次でした。震災以来何ヶ月ぶりかの試合だったので、少しでも次男が伸び伸びしてくれたらと思って、長男に入ってもらいました」

震災直後10日間、田中一家は安否確認の電話さえ繋がらない避難場所で過ごした。知り合いは、同じ年代の子どもを震災で亡くしている。

ホカバ県予選を長男と次男で力を合わせて戦う姿に、こみあげる思いがあったのだろう。「出られてだけで良かった」という言葉の実感が胸に迫る。


写真:田中琉聖(穴水真名井、写真右)と兄・大輝(穴水中)/撮影:ラリーズ編集部

地元の卓球関係者たちの助け合い

液状化被害の大きな地区から、内灘宮坂ジュニアクラブも参加していた。町の子を教え続けて40年以上の伝統あるチームで、クラブ卒業生たちが全国中学選抜3位になったこともある。内灘は下水道が復旧していない家もまだ残っている。

震災後、練習場所の体育館は無事だったが、公民館へ支援物資運搬のトラック通行道路を確保するため、練習は休むことになった。約1ヶ月間、北陸大学や金沢学院大学附属高校、そしてご自宅に卓球台がある有志のお宅でも練習をさせてもらえたことに、代表の井上豊さんは感謝している。

「おかげさまで、久しぶりに体育館で練習再開したとき、子どもたちが嬉しそうな顔で卓球してました」


写真:練習場でボール拾いをする内灘宮坂ジュニア代表の井上豊さん/撮影:ラリーズ編集部

多くの卓球関係者たちの助け合いのおかげもあってか、内灘宮坂ジュニアからは4人入賞、うち3人が、県代表として全日本ホカバへの切符を勝ち取った。


写真:県予選会で入賞した内灘宮坂ジュニアの子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

指導者の喜びでもある

子どもたちがはつらつとプレーする様子は、他県となんら変わらない。指導者もまた、子どもたちと密にコミュニケーションを取りながら、卓球できる喜びを確認しているようにも見えた。


写真:エンデバー・メイト/撮影:ラリーズ編集部


写真:羽咋クラブジュニア/撮影:ラリーズ編集部


写真:かほくジュニア/撮影:ラリーズ編集長


写真:松平スポーツ/撮影:ラリーズ編集部


写真:大宗クラブ/撮影:ラリーズ編集部

私たちは何度も忘れてしまうが、親がいて、子どもがいて、指導者がいて。卓球の練習ができて、試合に出られて、喜怒哀楽を表現できて。

そんな平凡で大切な日常のために、小さな石川県の卓球人たちの復興への歩みは続く。

石川県予選会 結果

※各カテゴリー3名が石川県代表(3位の上位表記まで)

ホープス男子

1位 岡部獅央(大宗クラブ)
2位 田中琉聖(穴水真名井)
3位 荒尾陽里(PEACE)
3位 山崎航弥(津幡クラブ)


写真:ホープス男子1位 岡部獅央(大宗クラブ)/撮影:ラリーズ編集部


写真:石川県予選ホープス男子の部 入賞者/撮影:ラリーズ編集部

ホープス女子

1位 西川椿姫(PEACE)
2位 塩崎愛梨(かほくジュニア)
3位 川島絆愛(松平スポーツ)
3位 松川彩夏(川北ジュニア)


写真:ホープス女子1位 西川椿姫(PEACE)/撮影:ラリーズ編集部


写真:石川県予選ホープス女子の部 入賞者/撮影:ラリーズ編集部

カブ男子

1位 藤永誉(Practice Jr)
2位 櫻井亜蓮(大宗クラブ)
3位 初見優(内灘宮坂Jr)
3位 川島優直(川北ジュニア)


写真:カブ男子1位 藤永誉(Practice Jr)/撮影:ラリーズ編集部


写真:石川県予選カブ男子の部 入賞者/撮影:ラリーズ編集部

カブ女子

1位 渡会梛都(大宗クラブ)
2位 横浜聖夏(羽咋クラブJr)
3位 山下里紗(PEACE)
3位 川辺実莉(PEACE)


写真:カブ女子1位 渡会梛都(大宗クラブ)/撮影:ラリーズ編集部


写真:石川県予選カブ女子の部 入賞者/撮影:ラリーズ編集部

バンビ男子

1位 井上大和(内灘宮坂Jr)
2位 飯田健生(内灘宮坂Jr)
3位 久田晴翔(エンデバー・メイト)
3位 奥大真(能美Jr卓球クラブ)


写真:バンビ男子1位 井上大和(内灘宮坂Jr)/撮影:ラリーズ編集部


写真:石川県予選バンビ男子の部 入賞者/撮影:ラリーズ編集部

バンビ女子

1位 宮西桜(川北ジュニア)
2位 川島絆瑞(松平スポーツ)
3位 櫻井花凛(大宗クラブ)
3位 櫻谷仁菜(内灘宮坂Jr)


写真:1位 宮西桜(川北ジュニア)/撮影:ラリーズ編集部


写真:石川県予選バンビ女子の部 入賞者/撮影:ラリーズ編集部

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特集「ふるさとホカバ2024」