東京一極集中を覆せ〜北陸大学卓球部 学生スポーツ界の新たな挑戦者たち〜 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:北陸大学卓球部/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 東京一極集中を覆せ〜北陸大学卓球部 学生スポーツ界の新たな挑戦者たち〜

2020.07.18

取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)

金沢駅前から南東に車で20分。丘の上にあるキャンパスの中に北陸大学卓球部の練習場はある。今年で創部11年目となるこのチームには、東証1部上場企業をはじめ複数のスポンサー企業が学生アスリートを支援する。

選手は国内大会での活躍に加え、中国・北京チームでの強化やスペインリーグへの参戦など目線をグローバルに向けている。また、課外活動の一環として雪かきや清掃といった地域ボランティアに精を出すなど、その活動ぶりは地域密着のプロスポーツチームさながらだ。


写真:北陸大学卓球部のシーズンポスター/提供:北陸大学

地方から学生スポーツを変革し続ける、北陸大学卓球部のユニークな活動実態に迫った。

全国から金沢へ 高校卓球界から北陸大が人気の理由

北陸大学卓球部には全国の強豪高校生からの練習参加依頼が後を絶たない。

天井が高く、14台の卓球台を広々と設置できる全国有数の卓球練習場の存在が、その理由の一つだ。

だが本当の理由は別にある。

うちの学生は手を抜かないから」。


写真:木村信太監督(右)と中陳辰郎選手/撮影:ラリーズ編集部

そう話すのは創部以来監督を務める木村信太氏(40)だ。現役時代には学生アスリート、実業団選手として全国で名を馳せた名将は、高校生が大学チームの練習に混ざるとき、そのチームの姿勢が如実に現れるという。

「遠方から時間とお金をかけて金沢まで来て頂いている。本学の場合、高校生であっても隅っこではなくセンターコートで。エースやレギュラーの選手が全力で練習します。試合でも常に全力でストレート勝ちで倒しに行く。そういう真剣な姿勢が相手に伝わって、全国から高校生が集まってくれています」(木村監督)


写真:取材日には岡山の高校生が練習に参加。センターコートで北陸大レギュラー勢と質の高い練習をしていた/撮影:ラリーズ編集部

取材中にもエースの中陳(なかじん)辰郎選手(経済経営学部3年、神奈川・湘南工大高出身)が高校生を相手に公式戦さながらの集中力で練習試合をし、試合後には高校生にアドバイスを送っていた。

企業が応援したくなるチームとは

北は北海道、南は九州と16都道府県から総勢28名の選手が集まる北陸大学卓球部の今年のテーマは「練習場を出る」だ。


写真:全部員の集合シーン。「感謝」と「リスペクト」という単語が何度も飛び交っていた/提供:北陸大学

もちろん屋内スポーツである卓球アスリートは、練習の時は体育館内で過ごす。

「練習や試合が出来るのも地域、大学の協力があってこそ。ラケットを握らない時間、練習場の外にいる時間にチームとしてどんな貢献が出来るかを常にみんなで考えています」(木村監督)

選手たちのウェアやバッグにはスポンサー企業のロゴが並ぶ。プロアスリートにとっては当たり前だが、アマチュアの学生アスリートでは非常に珍しい光景だ。

「企業のロゴを付けてプレーするのって憧れるじゃないですか。台に向かう時に気持ちが引き締まりますし、高いモチベーションに繋がります」(中陳選手)


写真:学生チームながら企業ロゴを胸に練習する/提供:北陸大学

東証一部上場のドラッグストア「クスリのアオキ」、地元石川県の不動産会社「アーバンホーム」に加え、全国・北陸エリアの保険薬局「アルプ」「アポロメディカルホールディングス」「トモコメディカルエージェンシー」の5社がスポンサーに名を連ね、トレーニングウェア、遠征用バッグ、サプリメントに至るまで、アスリート活動に必要なグッズを提供している。学生にとっては金銭的負担が減り、アルバイトの時間を減らして、学業と卓球に集中出来る要因となる。

選手たちは、全日本選手権を含めた全国大会はもちろんのこと、キャンパス内や地域ボランティア活動でもスポンサー企業のロゴを身に着け、歩く広告塔の役割を果たす。卓球部の練習場は薬学キャンパス内にあるため、卓球部の学生が通るたびにドラッグストアや薬局のロゴが露出され、薬学部学生に認知される効果は抜群だ。

また、金沢市とは「雪掻きボランティア協定」を結び、降雪のある金沢ならではの地域交流を9年前より継続している。


写真:9年間継続している雪かきボランティアの様子/提供:北陸大学

「社会に出る前にいかに社会人と交流出来るかは大切です。有り難いことに本学卓球部は1年生のうちから『社会に出たらどうするか』を意識させられる環境にあります」(木村監督)

スポンサー企業のロゴをつけて活動することで、会社を背負って働く社会人生活を一足早く体験しているようだ。

また、部員の多くは経済経営学部に在籍し、教職課程(体育)を取得している者もいる。巣立った卒業生が静岡県、鳥取県で教員として活躍し、早くもその高校から北陸大に入学するといった好循環も生まれつつある。

目線は全国、そしてグローバルへ

北陸大は、あの孔子の論語の教えを広める提携校(孔子学院)に認定されており、中国との交流を積極的に行っていることでも有名だ。

その縁で、卓球部員たちも、世界チャンピオンの馬龍(マロン)や中国代表の王楚欽(ワンチュチン)らを輩出している北京チームへ毎年遠征に行き、強化の機会を得ている。

更に今年からはエースの中陳選手がスペインリーグ(2部)へ参戦し、来季は複数名の選手が参戦を計画中だ。


写真:スペインリーグに挑戦したエースの中陳選手(右から2番目)/提供:北陸大学

チームの目標は北信越での学生王者とインカレ(全日本大学総合卓球選手権大会・団体の部)上位進出だが、各選手は海外にも目を向けている。

卓球を通じて海外に触れた経験は、人生の視野を広げ、血となり肉となって財産となる。金沢から全国そして世界へ。北陸大卓球部が地方から学生スポーツ界を変える挑戦は始まったばかりだ。


写真:北陸大学卓球部練習場は足を踏み入れると熱気に満ちていた/撮影:ラリーズ編集部

(第2話「スペインリーグ挑戦秘話」、第3話「6つの肩書を持つ男」に続く)

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