エース水谷との激闘で挙げた64年ぶりの快挙 そして「ゾーン体験」

【連載企画】世界で戦う卓球アスリートに迫る 森薗政崇編 #2


文:武田鼎(ラリーズ編集部),写真:伊藤圭

2017年卓球世界選手権ドイツ大会、男子ペアでメダルを獲得した森薗政崇・大島祐哉ペア。

決勝で惜しくも敗れたものの、銀メダル獲得は「48年ぶり」という快挙を達成した。本連載では森薗政崇の半生を追う。

第2回は森薗が全国区へと名を馳せていく軌跡だ。

第1回:「恐怖のオヤジの指導」1日7時間以上の練習…「俺は卓球マシーンか!」

水谷を破り64年ぶりの快挙 森薗の迎えた“ゾーン”体験

2014年、森薗は青森山田の2歳下の後輩である三部航平とペアを組んで出場した全日本卓球選手権男子ダブルスで優勝を果たす。

現役高校生のペアが優勝するのは64年ぶりのことだった。

水谷隼・岸川聖也ペアを破ったとあって、卓球界の快挙と湧いた。

当時のことをこう振り返る。

「2人とも優勝するなんて全く考えていなかったんです。やっていたらすごく調子が良くて、あれよあれよと言う間に勝ちあがっちゃった」。

優勝を意識したのは準々決勝からだったという。それでも気負うことはなかった。

「『優勝したい!』って入れ込むことはなくて。それがいいリラックスを生んだのかな。ただ試合にグーッと集中して何も考えずに、来たボールをただ打ち返している。それだけでも勝っちゃう。そういう時があるんです」。

俗にいう“ゾーンに入る”という状態だろう。

3年以上前の大会にもかかわらず、いまだに鮮明に覚えているワンシーンがあるという。

「僕がバック前にストップされたときに、それまでは何もすることはなくて、ストップかツッツキかで返していたんです。でもなんかわからないけど、あの時はガンガンガンガンチキータが入っていって、それもクロスじゃなくてストレートに入っていくんです」。

この快挙を見ていた人物がいた。それが全日本の監督を務める倉嶋洋介だ。全日本選手権から8カ月後のチェコオープンでの会場でのことだ。

「大島と今回一緒に出るから」とだけ告げられた。

それが大島祐哉との出会いだ。初の大島とのペアを迎え「準備は会場でちょろっとだけ」だった。

それでも大島・森薗ペアはチェコ大会で優勝をかっさらう。

試合後、突然の采配について森薗は試合後に倉嶋に質問した。すると倉嶋から返ってきたのは

「(相性が)悪いわけないでしょ」

という一言だった。

左利きで台上の技術に秀でる森薗と右利きで豪快なフォアドライブの大島はガッチリと噛み合った。

「上田・吉村っていう中国オープンを優勝したペアがいるんですけど、それも、倉嶋さんが2017年のジャパンオープンで初めて組ませて、出ていきなり優勝したんですよね。倉嶋さんの見抜く力ってホントすごいんすよ」

と森薗は全幅の信頼を寄せる。

大島とのペア結成から4年後、2017年に2人はドイツ世界選手権へ出場、男子ペアとしては48年ぶりに世界選手権で銀メダルを獲得することになる。

数々の記録を打ち立て、幼少期から順風満帆なキャリアを歩んできたように思える。

だが、目下、森薗は課題感を持っている。それはシングルスだ。

森薗の世界ランクは現在66位(2017年8月1日現在)。

2020年、日本代表入りを確実にするためには「個」の力の向上は至上命題だ。

「シングルに関しては。本当に自信が無いし。シングルに関しては何をやっていいかわからない」

トップアスリートとは言え、悩む表情はまだ21歳の若者の顔だ。

ブンデスリーガでの激闘

いい刺激になっているのがドイツでの武者修行だ。森薗は中学1年から経験を積むために毎年単身、ドイツへ渡りブンデスリーガで修行を行っている。

「中1、中2は練習だけ。中3からブンデスリーガの4部からはじめました」。

ブンデスリーガは1960年代に始まったドイツ固有の卓球リーグだ。ワールドクラスの選手が集う1部を頂点に2部3部…と続き、10部以上にも及ぶ巨大組織だ。

「4部にもかなり強い選手はいるんですよ。何よりも勉強になったのはいろんな選手と戦ったこと。名も知らぬおっちゃんが異常に強かったりするんですよ。年齢層も下は10歳から上は60歳以上までいて。色々とやりづらい選手と経験させてもらった」という。

開始時のタイミングを外してくる老獪な中年プレーヤーや勢いに任せてガツガツと打ち込んでくる10代のプレーヤーと戦うことは森薗にとって代えがたい学びになった。

やがて高1で3部、高2で2部へと昇格を続け、ついに大学1年生で1部へと昇格、ブンデスリーガで個人成績トップに相当するプレイヤースランキング※1位(最高得点選手)を叩き出した。
※勝利数-敗戦数のランキング

学んだのは卓球の技術だけではない。ドイツで送った日本人選手との共同生活も糧になった。

「ドイツには現地に何人も日本人選手がいるんです。先輩たちと一緒に暮らして自炊して。卓球だけじゃない『生きていく強さ』もあるんだって知りました」。

4歳から始めた卓球は森薗にとっては文字通り、「生活の一部」だ。

「本当に怖かった」

というコーチである父親の元を離れた今、父に対してどのような思いを抱いているのか。


「やっぱり今の俺があるのは、あの時親父がすごく厳しくしていたおかげだと思う。それに親父、練習場では厳しかったんですけど、家ではまったく怒らないんです。そのオンオフも学びました。もし子供のときのあの辛い時代がなかったら、僕は多分他の多くの学生と同じように意味のない時間を過ごしながら『大学だりー』ってなっていたと思うんです」

ラケットを見つめながらゆっくりと話す。その眼差しは21歳とは思えないほど成熟している。

だが、そんな森薗が「トラウマになるほどの」敗戦を迎えることになる。

2015年、蘇州で開かれた卓球世界選手権での1試合だ。

(続く。第3回:2年前のトラウマを超えて。卓球森薗・大島ペア、「卓球の閃き」とは。)

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  • 撮影協力:Shakehands

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