森薗政崇流"高校卓球恩返しプロジェクト"始動 「居ても立ってもいられなかった」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

卓球×インタビュー 森薗政崇流“高校卓球恩返しプロジェクト”始動 「居ても立ってもいられなかった」

2020.06.26

この記事を書いた人
Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

史上初のインターハイ中止。この決定に誰よりも心を痛めた男がいる。卓球日本代表の森薗政崇(BOBSON)だ。

僕の卓球人生、どこがターニングポイントかと言われたら確実に高校生のとき」と森薗は自身の高校時代を振り返る。

高3でのインターハイシングルス優勝を皮切りに、大学時代にはユニバーシアードでの金メダル、世界卓球ダブルスで日本勢48年ぶりの銀メダル獲得。そしてプロ選手となった現在も2年連続で世界卓球代表入りするなど、今や日本卓球界をリードする存在となった。

そんな森薗のキャリアの原点は、大きな挫折をきっかけに誰よりも練習し、誰よりも卓球について考えた「熱い高校時代」にあった。

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高1で初の代表落ち。どん底からのインターハイ優勝秘話

「高3のインターハイは、頭がおかしくなるんじゃないかと思うぐらい自分を追い込んだ。(シングルス7連覇中だった)青森山田高校は優勝して当たり前と周りから言われて、絶対勝たないといけないと思っていたから、捨てられる物は全て捨てて挑んだインターハイ。優勝したときは最高の気分でした」。シングルス王者に輝いた高校3年時のインターハイを懐かしむ。


写真:高校時代を振り返る森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

だが、歩んできた道は決して平坦ではなかった。

中学入学当初は、1学年上の丹羽孝希、町飛鳥、吉田雅己という“青森山田三枚看板”の高い壁に阻まれ、部内の練習試合ですら勝てない日々が続いた。

さらに高校1年では「世界で戦えるプレースタイルではない」と、小学生から入り続けていたジュニアナショナルチームを外された。こうして直面した厳しい現実が森薗を突き動かした。

森薗を支える“独自の卓球思考法”

自分を変えなければ今後生き残れない。ただ、どう変えればいいのかわからない。

「初めて卓球について深く考え始めたのがこの時。本を読み漁って『考えるとは』を勉強した。そして『自問自答し続ける』というスタイルに行き着いたんです」。


写真:森薗政崇(BOBSON)は変化を余儀なくされた/提供:伊藤圭/Unlim

それまでの森薗は元卓球選手である父親の厳しい指導を受け、幼少期から言われるがまま、がむしゃらに努力し結果を出してきた。

その分「自分で考えて卓球をしてこなかった」という森薗が、この時初めて“自ら考える”ことを覚えたのだ。


写真:「なぜ自分は勝てないのか?」自問自答を繰り返した。/提供:伊藤圭/Unlim

「森薗政崇はなぜ勝てないのか?バックハンドが下手だから。それはなぜ?ミート打法で安定性がないから。安定させるには?回転をかけて弧線を描くべき。でも試合では相手の回転の影響で上手くいかない。なら、どうする?バウンドする瞬間の回転が少なくなるところをライジングで打てばいい」。

こうして自らのプレーを1つ1つ咀嚼し、理解し、整理し、更新していった。実に1年以上の歳月をかけ、卓球台に張り付き早い打点で攻める今のプレースタイルを作り上げていった。


写真:「なぜ?」を繰り返す思考法を身に着けた。/提供:伊藤圭/Unlim

「どんなにわかってると思っていることでも『なぜ?なぜ?』とずっと深堀りしていくと、絶対どこかで『やるべきこと』というゴールに到達する。その到達したゴールを自分なりに実践して、成功したら問題解決。失敗したら『なぜ失敗したか』から考え直して、自問自答で深く掘り下げていく。この繰り返しです」。

もがき苦しみ、思考し続けて手にしたインターハイのタイトルで、森薗は世界で通用するプレースタイルだけでなく、「思考」という武器を手に入れた。

森薗流恩返し コロナ禍に全国の高校生とZoom交流を開始

森薗は自ら考えることの大切さに、高校1年生で気づけた。だが、ふと思うことがある。

もしもっと早く気づけていたらどうなっていただろうか?


写真:自らを育てた高校卓球界への思いを口にする森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

「今、高校生という大切な時期を、その大切さに気付かずに浪費してるかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなって」。

森薗は新型コロナウイルスによる自粛期間、Zoomを用いたリモート講演会で高校生相手に話す機会を自ら設けた。


写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:伊藤圭/Unlim

「今回インターハイがなくなってプロ卓球選手として高校生に何かできないかと思っていたので、すごく有意義な取り組みだった」。

最終的には計15校総勢400名程の高校生と生の声で語り合った。改めて森薗が感じたのは「インターハイがなくなった」という辛い現実だった。学生からの質疑応答では「インターハイという大きな目標がなくなり、どうしたらよいかわからない」という声も聞かれ、森薗も「経験したことがない辛い現実を正直想像できない」と困惑した表情を見せる。


写真:森薗政崇が立ち上がった。/提供:伊藤圭/Unlim

幸せな高校時代を過ごさせてもらった恩を高校卓球界に返すという意味で、何かできないかなと常に模索していた」。こうして森薗は“高校生プレーヤーの強化の場”を作ることを決意した。

「ファンとともに」 高校生強化プロジェクトを始動

「各学校の監督と話して、どこも強化の場が欲しいと話されていた。僕が高校生の時、もっと強いやつと試合がしたい、もっと試合で色んなことを試したい思っていた。でも国内の大きな大会、強豪校が集まる試合は数少ない」と自らの経験を基に課題感を口にする。


写真:得意のチキータを披露する森薗/提供:伊藤圭/Unlim

もちろん、勝利至上主義からなる一発勝負のトーナメントで得られる経験はたくさんある。だが、その環境で育ってきた森薗は「視野が狭い、遊びがない、とナショナルチームで監督コーチ陣から言われてきた」と目先の勝利にこだわることの“負の側面”もあると語る。


写真:並々ならぬ決意を見せる/提供:伊藤圭/Unlim

インターハイがなくなった今だからこそ、森薗は一石を投じる。「合宿か試合か練習会かどんな形になるかわからないけれど、強化の場を僕の方で作り、僕が行ってアドバイスをする。1回じゃなくて2ヶ月に1回、3ヶ月に1回定期的に入れていって、壁に当たったとき乗り越えていけれるような“自ら考える力”を教えられたら。その1つ1つの積み重ねが日本の高校卓球界のレベルの底上げになるんじゃないか」と構想を明かす。


写真:「日本の高校卓球界のレベルの底上げに」と意気込む/提供:伊藤圭/Unlim

「僕1人ではどうしようもない部分がたくさんある。可能であればみんなにも協力してもらって、インターハイがなくなってしまってやり場のない高校生たちのエネルギーをぶつける場を作っていきたい」。森薗はスポーツギフティングサービスを利用してファンから寄付を募り、ファンとともに高校生の場を作り上げる決意をした。

育ててもらった高校卓球界へ恩を返すべく

「ドイツのブンデスリーガに10年間行って、『選手は試合、ファンは応援』ではなく、選手とファンが一緒になって試合を作っていた。今回、『みんなで一緒に1つのことを作り上げる』というシステムに感動して、良いものが作れたらどんなに楽しいんだろうという気持ちでいっぱい。ぜひ皆さんと良いものを作っていきたいと思っています」。


写真:若きアスリートのため、そして高校卓球界への恩返しのために/提供:伊藤圭/Unlim

現役卓球日本代表として世界の頂きを目指す傍ら、高校卓球界へ恩を返すべく動き続ける。どうしてここまで本気になれるのだろうか。

「全ては自分に還元されるものだと思ってる。しんどい時間を積み重ねて積み重ねて最後に報われる瞬間が来るんですよ。やっぱり目標を達成したとき、試合に勝ったときというのは苦しかった時間が長ければ長いほど喜びも大きい。その一瞬のために僕は常に自分を厳しい環境に置いてるんだと思います」。

そう笑う森薗の姿に真のアスリートを見た。

森薗選手をUnlimで応援しよう

「今の自分があるのは高校時代のおかげ。高校卓球界への恩返しのため、継続して支援活動を行います。卓球を頑張る高校生のために、一緒に応援を宜しくお願いします」。

森薗政崇選手の取り組みへのギフティング(寄付による支援)は下記の「Unlim」より実施可能です。ご支援宜しくお願いします!


Unlimについて


※スポーツギフティングサービス「Unlim」とは…①競技活動資金に充て新たな挑戦をしたい、②自身の活動だけではなくスポーツや競技そのものを盛り上げていきたい、③スポーツを通じて社会に貢献したい、といったさまざまな思いを持つアスリートやチームに対して、金銭的に支援するサービスです。

【動画】森薗政崇、高校卓球界への恩返し