坂本竜介に聞く「現代卓球のトレンド」 5年後伸びる日本選手とは | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:坂本竜介(T.T彩たま監督)/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 坂本竜介に聞く「現代卓球のトレンド」 5年後伸びる日本選手とは

2020.04.13

取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)

10代で“卓球界の怪童”と呼ばれた坂本竜介氏。岸川聖也、水谷隼らとドイツリーグで腕を磨いた同氏は、世界の先端テクニックを次々と取り入れ、日本の卓球のスタンダードを変えていった。

35歳となった今は、TリーグT.T彩たまの監督として、将来性のある選手のスカウトを行い、自ら若き才能を育て続ける。

「選手の目利き」には絶対の自信を持つ坂本氏に、現代卓球の潮流と今後伸びそうなプレーヤーについてお話を伺った。

>>【予告・特集】坂本竜介に聞く「世界卓球の潮流」

ボールタッチだけではダメ、心のセンスが無いと

ーー東京五輪代表選考レースが終わり、次の五輪に向けた新しい戦いや未来の卓球界が気になるところです。

坂本竜介監督(T.T彩たま、以下坂本):そうですね。今から2024年のパリ、そしてその先を見据えることも重要です。

卓球界では10代から一線で活躍するのが当たり前。急に伸びる選手も多いので、将来予測は結構難しいですが、まず今の状況で行けば宇田(幸矢)や戸上(隼輔、ともに明治大学)が強くなってくれないと日本男子としては厳しい。

今、若手で勢いのある宇田も戸上もパリ五輪を迎える頃には22歳ですから、卓球界でいけば若手には入らない年齢になっていますよね。


写真:2019世界ジュニア選手権の戸上隼輔(右)と宇田幸矢/提供:ittfworld

男子では、16歳の張本(智和)が頭ひとつ抜けていますが、丹羽(孝希)も今まだ25歳。パリのときにまだ29歳なので充分チャンスがある。

そう考えても3番手、4番手のレベルがもっともっと上がって来ないと今後の日本男子は厳しくなる。

ーー注目している選手はいますか?
坂本:
松島輝空(JOCエリートアカデミー/星槎)はこのまま順調に伸びるかが見もの。それから面白い選手でいけば篠塚(大登。愛工大名電高)。フィーリングでいうとかなり天才的なものを持ってるんですけど、早くは化けないタイプでしょうね。まだ心がついていってないですから。逆にああいうタイプは20歳すぎくらいから一気に上がって来るかもしれない。まだ17でしょ。そういうポテンシャルでいくとピカイチですよね、ボールさばきというか。

ーーポテンシャルのある若手選手が伸びるのに大切なことは?
坂本:
絶対勝ちたいという欲。これに尽きます。戸上はそういう欲が高校1年で既に備わってたんで伸びた。それも才能だから。

僕が嫌いなのは、多くの指導者が卓球選手を見て「センスいい」「センスある」って言いがちなこと。センスってなにを言ってるの?って話なんですよ。みんなボールタッチのことをセンスっていうんだけど、心もセンスだから。

「あいつセンスがあるから今後伸びる」とか「あいつはセンスないから伸びない」っていうんですけど、ボールタッチのフィーリングだけで卓球は勝てないから。心のセンス、勝ちたい気持ちが強いか、勝負どころで頑張れるかの方が大事。センスっていう言葉の使い方を見直したいですね。

ーー「心のセンス」と「ボールタッチのセンス」の両方が揃っているのは?
坂本:
中国では許昕(シュシン)でしょうね。樊振東(ファンジェンドン)、馬龍(マロン)は特別フィーリングがいいわけじゃない、でも心が強すぎる。自分の戦術を絶対に最後まで遂行できる心を持ってる。

ーー日本選手についてはいかがですか?
坂本:
(水谷)隼って言いたいんですけどやはり1番気持ちが強いのは張本(智和)だと思います。でももちろん隼も心が強いからここまで成績おさめられてる。フィーリング良い選手でいうと代表的なのは(松平)健太ですよね。日本ではダントツ。(岸川)聖也もいいですね。(吉村)真晴も(丹羽)孝希もセンスマンと言っていい。(田添)響とか(吉村)和弘もそういう系統に入る。

世界のトップは「ハイリスク・ハイセーフティ」

ーー海外勢で注目している選手は?
坂本:
中国以外だとダントツで林昀儒(リンインジュ、チャイニーズ・タイペイ)でしょ。彼を見て今の最先端を行っている卓球だと思いました。キーワードは「ハイリスク・ハイセーフティ」。分かります?(笑)


写真:林昀儒(チャイニーズタイペイ)/提供:ITTFWorld

ーーすみません、あまりピンときません(笑)
坂本:
ハイリスクなんだけどハイセーフティーなんですよ。今、世界のトップを走る樊振東(中国)も林昀儒もブロックしないじゃないですか、全部打ちにいくんですよ。

今までの指導者は「打てないボールはブロックしなさい、繋ぎなさい。打てるボールは打ちなさい」ってのがセオリーだった。でももう今は違う。

なぜ宇田が勝てるようになったのか?宇田は今まで勝ったり負けたりだったけど、最近勝つようになったじゃないですか。これは、ハイリスクをやり続けた結果、入り始めたってことなんですよ。戸上もそうです。

「ハイリスクだからハイリスクなプレーをしちゃダメだよ」って指導者が今まで言ってきた。でも「そんなん入るわけねーだろ、一球つないで次待とうぜ」というマインドの卓球は今世界では流行ってないんですよ。

ハイリスクを練習し続けて、それをハイセーフティーに変えるってことが重要。だから今の卓球は「ハイリスク・ハイセーフティー」だよというのを現場の指導者は絶対分かってないといけない。

ーーなるほど。ただ、全てを無理に打ちに行くとミスが多くなって相手に得点が行ってしまうのでは?
坂本:
そこです。相手が打ってきたときにこっちが無理に打つとミスっちゃうから守ろうではない。

打つんだけども、もうちょっとこのボールに対してはガーンと思い切り打つんじゃなくて、ちょっと弱めに打とうぜ。「止めようぜ」じゃないんですよ。「弱めに打とうぜ」って言わなきゃいけないんですよ。

考え方を変えなきゃいけない。でも一番問題なのは日本にそういう指導者が少ないっていうことじゃないですか?多分「ハイリスク・ハイセーフティー」って言う人がいないのが問題。

だからどうしても安定、安定でミスをまずしないって方法をとるけど、でも今その方法だと最後世界ではぶち抜かれるんですよ。

だからハイリスクをずっとやり続けながらそれをハイセーフティーにどう変えてくかってのを教えていかなきゃいけないってのが現代卓球。樊振東とかモロにそうですよね。だからそれが今自分が思ってる卓球の一番最先端のスタイルですね。

新しいスタイルを作り続ける中国

ーー中国はそうやって新しいスタイルを作り続けてきたということなんでしょうか?
坂本:
そうですね、歴史的に見て多いです。まぁだからずっとトップにいるんでしょうから。樊振東なんて異常じゃないですか、もう変態だと思ってるから。あんな強いのあり得ないっしょってくらい強いから。


写真:樊振東(ファンジェンドン・中国)/提供:ittfworld

林昀儒もそうですよね。でも林昀儒はちょっと種類が違って。

ちなみに張本と林昀儒の違いって分かります?どっちも強いですよね。しかもどっちが勝つかやってみないと分からないじゃないですか。でも、ひとつだけ張本がもってなくて林昀儒が持ってるものがあるんですよ。

ーーすみません、またわかりません(笑)
坂本:
日本の選手は、バーンバーンと自分から強く打ってる最中に、いきなり逆襲された時にピタッとブロックでしのぐことってできるんですよ。でも、そうなった場合、ブロックしはじめたらずっとブロックしてません?

ーー言われてみればそうかもしれません。
坂本:
林昀儒だけは違うんですよ。林昀儒は守備してて、いける瞬間に攻撃に変える能力が極めて高いんですよ。でも林昀儒は相手にガーンって打たれて一球守備から入って相手の攻撃の威力が弱いと思ったらすぐ逆襲モードに入るんですよ。一方、日本の張本は止めまくるんです。水谷隼もそうです。止めだしたら止め続ける。

だからそういう意味では林昀儒がそこが長けている。世界であのレベルで出来ているのは彼だけかな。だから強い。僕は日本一の分析家なんでいっぱい見てるんです。

ーー中国選手はどうなんですか?
坂本:
今の「守りから攻めへの切り替え」というテーマで行くと、中国選手よりも、林昀儒の方が長けてます。僕から見てて、樊振東はその攻守の切り替えじゃなくて、ずっと「攻」なんで、「守」がない。

ーー攻守の切り替えって難しいテーマですね。
坂本:
そうそう。やっぱり攻めてる時って絶対足が動いてるんですよ。守備の時ってブロック止めるから足が止まるんです。1回止まったものを動き出すのって難しいじゃないですか。後ろから走ってきてそのまま加速してる場合はいけるけど。林昀儒は、本来難しいはずの「止まってるのにすぐ加速する」という能力が高い。つまり初速が早いんです。

ーーなぜ林選手はそれが出来るんでしょうか?
坂本:
次のボールを読む力が長けていますね。目がいいのもあるし、自分が送ったボールに対して、次のボールがどうくるかの予測能力が高い。日本の選手はもう守備になったら守り切る練習をしてるんで、そこから攻撃に行けると思ってももう体が動かない。だから一度ブロックし出した時ってブロックし続けちゃうんですよ。

ーーそれはトレーニングしたら変わるものなんですか。
坂本:
そう思いますよ、やっぱ練習方法で変わると思います。それで話しは戻るんですけと、今その1番の方法は打ち続けてセーフティーにしていくってことじゃないですかね。

指導者の我慢が大器を生む

ーーそれを宇田選手や戸上選手は多用していると。
坂本:
宇田や戸上はそういうタイプですね。だからベンチで見てて正直イライラする時もいっぱいあるんですよ(笑)。

なんでそれ打ちに行くの?みたいな。ミスしちゃうじゃないですか。でもそれをあいつらに「やめろ」って言う指導者はダメですね。

「やり続けて入るようにしなさい」っていうのが多分正解なんですよ。勝てない時が長くなる時もあるんで、そこをどれだけ指導者は我慢できるかっていうことなんですよね。


写真:坂本竜介(T.T彩たま監督)/撮影:ラリーズ編集部

ーーハイリスクがハイセーフティに達するまで我慢が必要だと。
坂本:
そうそう。その代わり宇田や戸上は入ったボールはバウンド後にめちゃくちゃ速いし、伸びるんですよ。この2人のノータッチ率はすごい高い。フルスイングが基本だから。今季、戸上をベンチで見てましたがノータッチ率はめちゃめちゃ高いですね。

でもまだ全然入らなくなるっていう時もある。だからこの2人がセーフティーにどう持ってけるかじゃないですかね、まぁ戸上も宇田も時間の問題で世界ランク30位内くらい入るんじゃないですか。そこにジンタク(神巧也)が泥臭く立ち向かってるって感じですよ。面白いでしょ(笑)。

(第2話 ドイツ卓球、選手寿命が長いワケ に続く)