2019シーズンを終え、チームを引っ張っていく大きな“覚悟”を決めた選手がいる。関東学生卓球リーグを19年ぶりに制覇した青山学院大学の3年・熊中理子だ。
彼女は同じく3年の三條裕紀とのペアで、今年行われた令和初の全日本大学総合卓球選手権大会(以下、全日学)の女子ダブルスで初優勝を果たし、今やチームに欠かせない中心選手へと成長を遂げている。
エースで主将を務めた石川佳純の妹・梨良(4年)は今シーズンを持って引退。新キャプテンには、熊中が任命された。次期エースとしての活躍が期待されるパートナーの三條と共に、青山学院大を“常勝軍団”へと導いていく。
今回は「全日学ダブルス女王」までの道のり、そして連覇を狙う来季について、熊中に話を聞いた。
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学生界屈指のペアワークを生んだ“原点”
写真:練習に取り組む熊中理子/撮影:佐藤主祥
福岡県で生まれた熊中は、早田ひな(日本生命)らを輩出した石田卓球クラブから、中学は高知県の名門・明徳義塾中に進学。中高一貫の同校で6年間寮生活を送りながら卓球に打ち込んでいた。
中学2年時には全国中学校卓球大会でシングルスベスト8、全国カデット卓球大会ではシングルス3位、ダブルス1位の好成績を残している。
両大会のシングルスで敗れた相手が、なんと当時ミキハウスJSC所属の三條だったというから驚きだ。
中学時代からのライバルが、現在は共にチームを引っ張る「全日学ダブルス優勝コンビ」なのだから、彼女たちの関係性はおもしろい。
熊中は、中学時代から「ダブルスの方が得意だった」と話す。卓球のダブルスは、右利きよりも左利きの方がレシーブをしやすく、本人もレシーブには大きな自信を持っているようだ。
ダブルスでタイトルを獲得した全国カデットは、卓球人生の中でも大きなターニングポイントとなっている。
写真:中高時代を振り返る熊中理子/撮影:佐藤主祥
「中学1年から6年間、小脇瑞穂(現・関西学院大)とペアを組んでいたんですけど、中学2年時の全国カデットは初戦から競り合う試合が続いていて、監督からめちゃくちゃ怒られたんです」と当時の状況を説明すると、続けて「準決勝で橋本帆乃香(現・ミキハウス)/塩見紗希(現・同志社大学)ペアと戦ったんですけど、怒られて気合が入ったというか、強い気持ちで臨めた結果、勝つことができた。その勢いのまま優勝できたので、自分の中では大きかったです」と振り返った。
実は決勝戦では、当時、静岡県・豊田町卓球スポーツ少年団所属の伊藤美誠(現・スターツ)/桑原穂実(現・正智深谷高)ペアと対戦し、見事なストレート勝ちも収めている。
高校進学後もインターハイダブルス3位入賞の成績を残すなど、世代を代表する強豪ペアとしのぎを削り、乗り越えてきた。その経験が、現在の学生卓球界屈指のペアワークを生み出した熊中の原点なのだろう。
“唯一無二のコンビネーション”で初の「全日学ダブルス女王」へ
写真:熊中理子/撮影:佐藤主祥
青山学院大に入り、対戦相手として向かい合ってきた三條と再会した熊中。大学1年時からダブルスを組み、コンビネーションを高めるべく、行動を共にしてきた。
だが、熊中が左シェーク裏裏ドライブ型の戦型に対し、三條はバック面にツブ高ラバーを使う“異質攻守型”。ラバーの特性の違いに対応するのに苦労したと吐露する。
写真:全日学での三條裕紀。バック面は異質ラバーを使用する/撮影:ラリーズ編集部
「三條のラバーが異質なので、彼女が返球した後はゆっくりとボールが返ってくることが多くなる。難しいボールなので、なかなか思うように打つことができなくて…。逆に三條も、自分が打った後は速いボールが返ってくるので、それに対応するのに苦しんでいた。最初はお互いうまくいかないことが多くて、『もう無理かな…』って思う時もありましたね」。
異質ラバーは変化や回転量が読みにくく、対戦相手がやりづらさを感じる一方で、ダブルスパートナーにも影響が出る。熊中は緩いボールが返ってくることを想定し、一球一球、ダブルス練習に取り組んだ。
その中で臨んだ昨年の全日学ではベスト8。満足できるものではなかった。
「大学生のうちに1回は優勝したいね」。
この2人の言葉がさらなる成長への糧となった。
以降、他大学の練習に参加する機会を増やし、より実戦的な練習をこなすことで徐々に弱点を克服。「(自分で)決めにいこうというよりかは、しっかりコースを大事にしながら1本入れることを心がけるようにしました。ボールを繋げて、次のパートナーに任せる感じで」。
この意識を持ったことにより、ペアとしての信頼関係がより強固なものとなっていった。つねに「どういうボールを打ったらパートナーがやりやすいか」を考え、ラリーを展開。三條もその意図に呼応するように、次々と連携プレーを生み出していった。
写真:全日学での熊中理子(写真左)、三條裕紀(写真右)/撮影:ラリーズ編集部
そして、今年の全日学、ダブルスペアとして大輪の花を咲かせる。
第2シードとして臨み、三條の異質ラバーによる変化でチャンスを作り、熊中の鋭いコースをついた攻撃でポイントを奪っていく。熊中と三條にしかできない“唯一無二のコンビネーション”で、念願だったダブルスでのタイトルを獲得した。
写真:表彰式での熊中理子(写真左)、三條裕紀(写真右)/撮影:ラリーズ編集部
熊中は「今までは点差が離れたら諦めてしまう時もあった。今回は『挽回できる』という気持ちを持てて、2人とも最後まで崩れなかったことが大きかった」と栄冠を掴んだ全日学を振り返った。
>>青山学院大・熊中/三條、女子ダブルス優勝 「練習が自信につながった」
来季は「ダブルスペア」でチームを導く
写真:熊中理子/撮影:佐藤主祥
来季は、チームが「秋季リーグ女王」として臨むと同時に、熊中と三條は「全日学ダブルス女王」として連覇を目指すシーズンにもなる。
加えて、キャプテンの座を引き継いだ熊中は、より大きな“覚悟”を背負うことになるかもしれない。だが彼女には、ダブルスを通じて絆を深めた「最高のパートナー」がいる。
熊中も「三條は頼れる次期エース。いつも誰よりも練習している姿をこの目で見てきた。彼女と2人で1年間チームを引っ張っていきたい」と絶大な信頼を置く。
彼女たちのお互いの喜びや悩みを分かち合う「思いやりの心」があれば、チーム全体の絆をさらに深めていけるだろう。“学生卓球ラストイヤー”での2人の飛躍に注目していきたい。