過去の経験を糧に 26歳・若き卓球コーチの個性を活かす指導論【姫野翼#2】 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:姫野翼(クローバー歯科カスピッズ)/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 過去の経験を糧に 26歳・若き卓球コーチの個性を活かす指導論【姫野翼#2】

2020.03.21

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

丹羽孝希世代の青森山田高で団体全国制覇を果たし、ダブルス全国3位の実績を誇った姫野翼は、若気の至りで高校を中退した。

一時期卓球界の表舞台から姿を消しながらも、現在は卓球実業団・クローバー歯科カスピッズに所属し、「選手」としてではなく「コーチ」として戦う。

23歳と異例の若さでコーチに就任した姫野は、2度の日本卓球リーグ1部昇格、全日本卓球選手権でも江藤/松下ペアがダブルス3位と、創部3年のチームの実績に貢献してきた。

今回は、「青森山田での経験は間違いなく活きている」と語る26歳の若き指導者の指導論を聞いた。

>>若気の至りで高校中退 卓球界に返り咲いた青森山田丹羽世代“幻の4人目”【姫野翼#1】

“尖っていた”過去の経験を今の糧に


写真:コーチになったばかりのときを振り返る姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

姫野は「探り探りだった」と就任当初を振り返る。だが、クローバー歯科もまだ創部3年目の若いチームだ。持ち前の人懐っこいキャラクターと若さを活かし、すぐにチームで信頼される指導者としての地位を築いた。

他のチームと決定的に違うのは選手との年齢の近さ。プライベートの付き合いも平気でできるので、信頼関係も楽に築ける。そこがすごい助かっています」。


写真:チームメンバーと信頼関係も築いている/撮影:ラリーズ編集部

他の実業団では、大抵そのチームで現役を引退したOBOGが指導者となり、年齢も選手たちより上であることが多い。

クローバー歯科では、選手と年齢差はそれほど大きくなく、主将の江藤慧に至っては姫野の1つ上だが「全然僕気にしないんで」とあっけらかんと話す。

高校時代、間違ってるなと思ったら先輩にも関係なく言えてた。若くても社会人チームでコーチできるのは、そういう部分が意外とプラスに活きてるかな」と尖っていた過去の経験を今の糧にしている。

一方で「練習中、顔色見てると今悩んでるのかなとだいたい分かるので、『どうした、なんか気になるか?』と聞くと、大概『これどうしたらいいですかね?』と聞いてくる。昔の尖っていた自分を知っていて、100で聞いてくることはないので、自分から寄るようにもしてます」と指導者としての気遣いももちろん忘れない。

「個性をなくさない」シンプルな指導方針


写真:姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

姫野が大切にしている指導方針は「個性をなくさない」というシンプルなものだ。

繋ぎの球に課題がある一方で、ブンブン両ハンドを振り回し威力あるボールを放つスタイルの江藤や松下には「振りに行けるボールは全部振りにいけ」と単純明快なアドバイスを送る。

彼らの選手寿命も考えた上で一番良いのは、短所をなくすでなく、個性が活きる長所を伸ばすことだと思ってます」と個性を活かす指導方針の根拠を語った。毎日のように練習する学生アスリートや世界のトップを目指すプロ選手とはまた異なり、働きながら限られた時間で卓球をする実業団選手ならではの方針だ。

また、姫野は「選手が髪色を明るくしても全然いいなと思ってます。他でやってないからやればいい。そういうのも全部うちの色」と卓球面以外での“個性”も尊重する。現にクローバー歯科では、全日本ダブルス3位に入賞した江藤は派手な金髪でプレーしていた。


写真:姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

未だに日本のスポーツ界では、アスリートの染髪や化粧で物議を醸すことがあるが「他のチームと比べたら練習環境も悪い中、これだけの成績も出している。周りからは批判もありますけど、選手には好きにやってほしい。高校の時に自分が失敗して、親や周りの人らが頭下げて今の自分がある。別に自分が頭下げてなんとかなるんだったら頭下げます」と選手が個性を殺さず、伸び伸びと卓球人生を全うできるよう姫野は陰ながらサポートしていくつもりだ。

心底「ようやったなお前」と言うところまでやって欲しい


写真:指導論を語る姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

名門・青森山田高を中退した姫野だが、「青森山田での経験は間違いなく活きている」と語る。細かな技術の話もそうだが、卓球への潜在的な意識面が大きい

青森山田高では優勝を宿命づけられ、卓球漬けの毎日を送ってきた。姫野同様に、明豊高出身の江藤、愛工大名電高出身の松下大星、卯木将大は高校時代からインターハイ“優勝”を目標に日々卓球に向かい合ってきた。

一方で、京都・龍谷大平安高出身の加藤駿や青森・東奥学園高出身の工藤真弘は、それぞれ東山、青森山田と絶対王者のいる府県で、インターハイ“出場”が目標となっていたことは否めない。

“優勝”側で戦ってきた姫野は、“優勝”と“出場”という見てきた景色の差を埋めるべく、意識面やモチベーション面を口酸っぱく言い聞かせる。


写真:姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

「意識の違いは練習の内容に出るので、『上を見てやれ』とは選手に言ってます。それをスタンダードにして欲しい。絶対高校大学の時より練習量は落ちてるんで、よりモチベーションを上げて、もう一つ上のことをどんどん周りから吸収しないと強くなっていくのは普通に考えると難しい」。

これも実業団でプレーする選手たちの限られた選手寿命を見据えてのことだ。「社会人で卓球していると全員引退まで見据えてるんですよね、この歳までかなって。なので、そこまでどれだけやらせてあげられるか、どれだけ自分が目指しているもの達成させてあげられるか」とコーチして自らの使命を口にした。


写真:「後悔なくやってほしい」/撮影:ラリーズ編集部

コーチとして“第2の卓球人生”を歩む姫野は、最後に優しい顔つきで選手たちに語りかけるように呟いた。

引退するなら心底『ようやったなお前』と僕が言うところまでやって欲しい。後悔なくやってくれればいいですね」。

志半ばで青森山田高を2年弱で中退した姫野だが、選手をコーチとして支える一方で大きな夢も抱いている。それは「大阪、関西の卓球界を盛り上げる」という地元への恩返しだ。

【姫野翼#3】「恩を返せるのはこれくらい」 地元・関西卓球界を新時代へ に続く)

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