【卓球・神巧也#1】吠える男ジンタク Tリーグ参戦!「僕はエリートじゃない」  | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:神巧也(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 【卓球・神巧也#1】吠える男ジンタク Tリーグ参戦!「僕はエリートじゃない」 

2019.02.16

文:大塚沙央里(ラリーズ編集部)

実業団の日本リーグか、Tリーグか、それとも個人でのワールドツアー参戦か・・・選手のキャリアが多様化する日本卓球界で、また一人、人生を変える決断をした男がいる。2019年1月23日T.T彩たまへ加入、Tリーグ参戦を表明した神巧也(じんたくや)だ。

これまで名門実業団シチズン時計の看板選手として活躍し、2018年夏には全日本実業団選手権で団体戦優勝を飾った。

その矢先の退職、プロ転向である。順風満帆、上り調子の環境から、なぜいま新天地での挑戦を選択したのか。

ジンタクの愛称で親しまれ、フットワークを活かしたドライブに、よく響く吠える声。熱いプレーが人気のこの男だが、そのルーツを辿れば、意外なほどクールな一面や、雑草魂ともいうべき内なる炎を垣間見ることが出来た。

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単なるラッキー チーム最弱で始まった卓球人生

青森県出身で、小学校時代は強豪校青森山田の下部組織でプレーしていたという神巧也。こう聞くと、幼少期からエリートコースだったのかと思うが、実は小学校時代は特に有名というわけではなかった。

それでも青森山田の卓球部に入部できた理由を聞くと、驚きの答えが返ってきた。「一言でいうと人数合わせです(笑)」。

「自分が中学一年生の時、翌年に入部する人数がすごく少なくなるという話があって。それで、団体戦に出るために今年追加で誰か有望なやついないかということで、声をかけられたんです。だから自分が青森山田の卓球部に入部できたのは、巧かったからではなくラッキーなんです」。

あっけらかんと答えるその姿からは、自ら他のエリート達と一線を引く冷静な自己分析と、掴んだチャンスをものにしてきた積み重ねの歴史がうかがえた。

青森山田の卓球部は、今も昔も全国のトップ選手からなるエリート集団。入部当初、神巧也は部内で最弱だったという。

「最初から、周りには自分より強いやつしか居ませんでした。なので、自分には変な見栄やプライドは無い」。

だからだろうか。この男からは、堂々と我が道を行く強さを感じる。そしてその強さは、彼を常に新たな挑戦へと掻き立ててきたのではないだろうか。実力主義の厳しい環境のもと、親元から離れての寮生活で、着実に卓球選手としての実力を高めた彼は、全国中学校卓球大会でシングルスベスト8まで登り詰めた。

しかし、ここ青森の舞台では、卓球人生で最初の転機となる試合も訪れた。

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ベスト16が悔しい いつの間にか上がっていた「基準」

「中学校3年生の時に全国中学校卓球大会が青森で開かれたんです。自分は生まれも育ちも青森県だったので絶対優勝してやろうという気持ちで臨みました。しかし、結果はベスト16止まりで敗退・・・。それがものすごく悔しくて。絶対に這い上がってやろうと思いました」。


写真:神巧也(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

客観的に見ればこの成績は決して悪いものではない。しかし、優勝して当たり前の卓球エリートが集う強豪校での毎日は、神巧也にハングリー精神を与えたのだ。エリートでなかったと自らを揶揄する彼の、雑草魂ともアウトロー魂ともいえそうな「内なる炎」は、この時代に育まれたのかもしれない。

ちなみに、この全国中学校卓球大会で敗れたあとリピートして聴いていたのがMr.Childrenの『終わりなき旅』であり、神巧也は大のMr.Childrenファンである(第2回で詳細に述べる)。

この曲のタイトル通り、悔しさをバネに旅を続けた彼は、青森山田高校時代にはインターハイでシングルス3位という結果を残すまでに成長する。

しかし、彼が本当に自分らしい卓球をプレーできるようになるのは、もう少しあとのことだ。

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明治大学で「らしさ」開花 シチズン時計でチーム優勝へ

中学高校ではハングリー精神が大きな力になっていた神巧也だったが、明治大学への入学を機に、彼らしさが開花する。環境の変化がプレーにも良い変化をもたらした。

「厳しかった青森山田の環境も大切でしたが、明治大学では伸び伸びとした雰囲気のもと羽を伸ばせたことが、プレーにいい影響を与えたように思います」。


写真:神巧也(明治大学時代)/撮影:アフロスポーツ

結果、1年生で全日本大学総合選手権大会(全日学)単複2冠王、全日本学生選抜選手権大会での優勝をいきなり成し遂げるなど、これまで小中高と培ってきた実力が、彼らしい伸び伸びとしたプレーに結び付いて大きく開花した。

その後、明治大学を卒業して名門実業団シチズン時計に入ってからの看板選手としての活躍は、多くの卓球ファンの知るところである。

実業団を志望する際にシチズン時計を選んだ理由を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「シチズン時計に入ることしか考えていませんでした。チームの雰囲気が良かったのと、ここ近年優勝から遠のいているチームだったので、自分が入団することで結果を出したいとも考えていました」。

シチズン時計サイドからもラブコールを受け相思相愛で所属が決まったとのことだが、その決断の迷いの無さと、自らの力で活躍の舞台を盛り上げたいという攻めの動機が印象的だ。この入団当時の強い想いは、4年後の2018年夏、全日本実業団選手権での団体戦優勝という形で実を結んだ。

その僅か6か月後の2019年1月、彼はTリーグ参戦という新たな挑戦へと突き進むことになるわけだが、彼の根底にあるのは当時と変わらず「己の活躍の舞台は自分で決める、自分でつくる」という精神かもしれない。

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なぜ、吠えるのか

神巧也の「らしさ」は、こういった強い想いの表れであるプレースタイルからも紐解くことができる。気迫を前面に出して吠える彼のプレースタイルは、相手を圧倒するだけではなく、味方チームの選手に力を与え会場を盛り上げる力がある。

これについて彼が語ったとき、意外な一面・・・いや、あえて言わせて頂くならば今はもう合点のいく、彼らしい一面が見えた。

「自分は優れたテクニックで相手をかわしていくというタイプの選手ではない。自分より上手い選手ばかりの中でどう勝っていくかというと、どんどん声を出して気持ちを乗せて、自分やチームを鼓舞して押し切るスタイルというのが合っていたんです」。


写真:神巧也(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

ただ熱くなって吠えるのではなく、自分を客観的に冷静に分析したうえで、勝つために吠えるというのだから、これはもう立派な戦術である。

自分より強い者たちを相手にハングリーに青春時代を過ごし、成長とともに自分らしいプレーで実力を開花させてきた彼だからこそ、気持ちを出して自分を高め、会場のエネルギーを自分に持ってくる重要性を知っている。

そしてこの、自身に対してひたむきで、会場をも巻き込んでいくキャラクターは、彼のプレーがエンターテイメントとしても優れているという評価を生む理由のひとつだろう。

それにしても、神巧也のような華のある選手がTリーグに行くということは、「実業団からTリーグへ」という大きな流れが生まれつつあるのでは?などと思ってしまう。

昨年、名門実業団の協和発酵キリンを退職しTリーグに参戦した上田仁(岡山リベッツ)の姿とも、つい重ねてしまう我々だが、彼の口からは予想外の言葉が綴られた。(次回に続く)

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