「初めて卓球の楽しさに気付けた」卓球人生変えた恩師との出会い<森さくら・中編> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:森さくら(日本生命レッドエルフ)/撮影:ハヤシマコ

卓球×インタビュー 「初めて卓球の楽しさに気付けた」卓球人生変えた恩師との出会い<森さくら・中編>

2020.04.20

この記事を書いた人
Rallys編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

高校2年生で、ロンドン五輪銀メダリストの平野早矢香、福原愛を下し全日本準優勝を果たした森さくら。世界でも結果を出し、次世代の日本卓球界を担う存在として脚光を浴びた森を“全日本2位”の呪縛が蝕んでいく。

翌2016年の全日本は初戦敗退に終わり、本来のプレーを見失いどん底まで落ちてしまう。しかし、日本生命の竹谷康一コーチとの出会いが森の卓球人生を大きく変える。

>>森さくら前編はこちら “高2で福原愛下し卓球全日本2位” 森さくらを苦しめた呪縛

森に芽生えた「卓球が楽しい」という感情

森が竹谷コーチの指導を受けたのは19歳のとき、初戦敗退に終わった2016年の全日本からだ。「全日本から見てもらってて、卓球に対する考え方が徐々に変わっていきました」。


写真:竹谷コーチとの出会いを語る森さくら/撮影:ハヤシマコ

まず初めに突き付けられたのは、森の卓球選手としての立ち位置についてだった。

「竹谷コーチからは『自分の位置を分かってない』『それを自分ができると思うからイライラするんだ』と何回も言われました。『自分は今そういうレベルだとちゃんと理解した方が良い』って」。“全日本2位”や“世界卓球勝利”など森に重くのしかかるレッテルを少しずつ剥がしていった。

「結構ズバズバ言われたんですけど、その分話し合って向き合ってくださった」と森も恩師に全幅の信頼を寄せるようになり、二人三脚で卓球に取り組んだ。技術面ではスイングやフォームを一から見直し、戦術面では真正面から戦うことだけでなく相手の裏をかくことを学んだ。


写真:森さくら/撮影:ハヤシマコ

「15年ぐらい卓球やってて全日本でも2位になって、自分の中に固定観念が結構ありました。でも竹谷コーチはそういうことを全部覆してくれた。現実を突きつけられて、下から始めることができたから、上手くなっていくのが楽しかった。初めて卓球の楽しさに気付けました」。

「卓球が上手くなることがただただ楽しい」。卓球を始めた頃に忘れてきた感情が森の中に芽生えた。

呪縛から解放された森さくら

“全日本2位”の呪縛から解き放たれ、再スタートを決めた森。「めちゃくちゃ努力しないと」と意気込むもすぐには結果が出せずまた焦りの色が見え始める。そこでも恩師は優しく森に言葉をかけた。

「『そもそもすぐ結果が出ると思ってスポーツをやるのが間違ってる』と言われました。言われてみれば確かにそうだなと思えた。それからもめげずに努力を続けてると、ちょっとずつ結果が出てくる。するとまた卓球すごい楽しいなと思えて、練習でもこうしたいとかああしたいとかが出てきました」。

全国大会で軒並み上位入賞を果たした小中時代を苦しそうに語った森は、結果の出ない中努力を続けた社会人序盤を嬉しそうに振り返った。


写真:森さくら/撮影:ハヤシマコ

徐々に本来の勢いを取り戻した森は、2016年11月のオーストリアオープンU21女子シングルスで優勝、2017年2月のインドオープンではU21と一般の部両方を制覇し、再び輝きを取り戻しつつあった。


写真:インドオープンで優勝を果たした森さくら/提供:ittfworld

しかし、同時期に日本女子卓球界では大きな変革が起きていた。2000年生まれの“卓球黄金世代”を含む若手の台頭だ。

“黄金世代”の台頭による焦り

2016年のオーストリアオープン、20歳で出場した森がU21を制す中、一般の部で優勝を飾ったのは当時16歳の伊藤美誠だった。2017年にも当時17歳の平野美宇が中国選手を3連破しアジアの頂点に立つなど、日本女子卓球界に急激な若年齢化の波が訪れていた。


写真:“黄金世代”の台頭など不安を口にした森さくら/撮影:ハヤシマコ

「全体的に若い選手がぐいぐいくる時代で、私は若手でもなくベテランでもない中堅みたいな領域にいる。どうしたら良いだろうと精神的に悩む部分が増えてきた」。

森が良い成績を残すも、それ以上に周りの若手選手が結果を出していく。焦りからネガティブな気持ちが先行し、怪我も重なり「卓球あんまりやってる意味ないな」とモチベーション維持に苦しんだ時期もあった。

そんなとき、またしても恩師・竹谷コーチの言葉が森の心を繋ぎ止めた。

「本当に辛かった時期、竹谷コーチに『スポーツ選手には誰しも波がある。でも1回ガクッと落ちると戻るのは難しい。だからどんなに卓球が嫌だと思っても徐々に気持ちを下げていった方が良い。いつまた自分が卓球やりたいと思うか分からないんだから』と言われて、確かにそうだなって」。

自暴自棄になる寸前で踏みとどまった森は自分自身、そして卓球と一から向き合い直した。「これでも辞めたいと思うんだったらもう辞めたらいいと思って、ゆっくり時間をかけて考えました」。


写真:森さくら/撮影:ハヤシマコ

自分は何のために卓球をするのか。何を目的に戦うのか。葛藤の日々の中、森に大きな転機が訪れる。異国の地・インドリーグへの挑戦だ。

(森さくら後編 転機は「インドの“さくら”コール」 Tリーグ最多勝・森さくら誕生秘話 に続く)

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(取材・2020年3月初旬)