「100メートル走をしながらチェスをするスポーツ」と言われる卓球。
野球のピッチャーが高さ、コース、球種を無限にある組み合わせから配球し、1人のバッターを打ち取るためのストーリーを描いていくのと同様、大島祐哉がラリーの最後に決め球であるフォアハンドを繰り出す時、そこに至るまでの布石と緻密なシナリオがあるという。
現在25歳とキャリアの中盤に差し掛かる大島に、その戦い方を聞いた。
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「勝負の1球」から「確率の1球」へ
写真:大島祐哉(木下マイスター東京)/撮影:伊藤圭
――張本選手ら若い世代が出てきて、年齢的にも中堅になってきている。年齢を重ねることで、戦い方の変化はあるものですか?
大島:いろんな試合、緊張感を経験させてもらっているので、戦い方はうまくはなって来ているかなと思います。この場面はこうした方がいい、ああした方がいいというのが若い頃よりも頭の中に出てくる。
――それは閃(ひらめ)きのようなものでしょうか?
大島:若い頃はそれを閃きと言っていました。今でももちろん閃きはあるんですけど、閃きより「経験に基づいた考え」になってきていますね。
――複数ある選択肢の中で、どういう意思決定をしていくんですか?
大島:直感で自分が信じるものを選ぶことももちろんあります。でも、今この場面で自分はこれをしたいけど、違うパターンの方が相手に効いているな、と冷静に判断できる時もあるので、そこは年齢を重ねたことによる成長ですね。
――ちょっと前だったらやりたいことをやっていた?
大島:そうですね。このパターンで点数とれなかったら仕方ないという勝負のプレーも昔はあったんですけど、ここ1年は「勝負の1球」じゃなくて「確率の1球」というのも出てきたかなと思います。
「最後はフォアハンド」までのストーリーが重要
写真:大島祐哉がフォアハンドで動き回る時、そこには張り巡らされた伏線とストーリーがある。 /提供:西村尚己/アフロスポーツ
――今、課題としていることは何でしょうか?
大島:「大きく」動くのではなく、「速く」「強く」動くことですね。今はより前陣でのテンポの早い卓球が主流になっていて、素早く動いて台上やバックハンドができないと(得意の)フォアハンドまで繋がらないので。そこが一番の、そして永遠の課題です。
――一方で、例えば世界選手権3連覇中の中国の馬龍(マロン)は、大事なところは大きく動いてフォアハンドで仕留める。大島選手も豪快なフォアが印象的です。
大島:「最後はフォアハンドで」と皆さん簡単に言うんですけど、そこまでにいろんなストーリー、シナリオがあった中での最後のフォアなんですよね。ただサーブを出して、(バックサイドに来るボールを)フォアハンドで回り込めば良いってものではない。そこが卓球の奥深さです。
――なるほど。フォアで勝負行く1本にストーリーがあると。
大島:相手にもフォア側にチキータやストップをするなどいろんな選択肢がある。そんな中で、最後に僕がバック側で回り込んでフォアを振るためには、それまでの布石がなければ、絶対に攻められない。そういう戦術、勝負勘が必要なんですよね。
見ている方にはなかなか伝わりづらいと思いますが、回り込んでフォアを振っている時は、常に勝負をかけているんです。
――Tリーグが始まって卓球を生で観戦する方も増えました。
大島:木下の試合には水谷さんや(張本)智和がいることもあって、毎回1000人以上の方が入って下さっていて、それだけの方に見ていただいてて凄く嬉しいです。皆さん見てて楽しいのはラリーだと思うんですよね。僕もラリーを主体にしてますし、更にプレーの中にあるストーリーを見て想像して楽しんでいただけたらなと思います。
――大学を卒業してプロ卓球選手になってみて、変化はありましたか?
大島:毎日毎日練習して、ワールド・ツアーもTリーグもあってオフシーズンもない。とにかく必死です。今は奥さんもいて子供も生まれている中、日本一の環境で卓球に専念させて貰えていることに感謝してます。そこが一番かなと思います。
――現在地としては日本選手の中で世界ランキング4番目(※)。東京五輪は3人行けるので手の届くところにいるのでは?
大島:今世界ランキング4番目ですが、4年前も4番目だったんで、結局自分のポジションとしては変わってない。張本君が出てきて、丹羽君、水谷さんの上に僕は立ったことはないし、甘くないことは自覚している。
でもやっぱり東京五輪が第1の目標としてあって、その過程でワールド・ツアーもTリーグもどの試合も精一杯やることを目標にしてます。1戦1戦自分ができることをやって、それが良い結果になればいいと思ってます。
※注:文中の世界ランキングは取材日(2019年6月19日)時点でのもの。大島選手の最新(8月1日付)世界ランキングは49位で日本人6番手。