写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
卓球×インタビュー 「ヨガで勝つ!」インド卓球のエースに学ぶ “印度式”成功哲学とルーティン<S.グナナセカラン#3>
2020.12.12
取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
今季から日本のTリーグに参戦したインド卓球の第一人者、サティアン・グナナセカラン(27)。
身長約170センチで細身、卓球弱小国だったインドに生まれた彼はどうして成功できたのか?
グナナセカランのインド式成功哲学とルーティンに迫った。
>>グナナセカラン第2話はこちら 「日本に勝ったら首相に呼ばれた」インド卓球の歴史が変わった瞬間
このページの目次
物事の順番とスケジュール
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
Tリーグ参戦が決まった後、グナナセカランが新たに始めたルーティンがある。
それは「ヨガ」だ。インドでは多くの人がヨガを楽しむ文化があるが、意外にもこれまで取り入れていなかったという。
グナナセカランは新しいことをスタートする時、その投資が本当に必要かをシビアに見極め、やると決めたら順序立てて進めていく。
「まず何に投資するかを決めること。僕の場合は卓球に投資をすると決めた。卓球が好きだし、自分には可能性があると確信しているから。
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
次は順番。どんなことでも順番を間違えると失敗する。
卓球の場合は、まず楽しいと思えるようにテクニックを身につけることだよね。どんなボールが来ても相手のコートに返せる技術を身につけば楽しくなる。その後で、体力、筋力をつけてスピードや回転を上げていく。最後にタクティクス(戦術)を勉強するんだ。相手を倒すための作戦も大事になってくる。
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
でもいきなり作戦から入るのは駄目。この「技術」「体力」「戦術」という順番が何より大事だと思う。
僕の場合は5歳で卓球を初めた小さい頃から、本当に卓球が楽しかった。その後でサーブ、レシーブ、フットワークを身に着けたし、今はトレーニングや戦術を組み合わせて世界で活躍できるようになった」。
週6のルーティンにはSNSとネットフリックスも
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
「やると決めたらルーティンに落とし込む。僕の生活リズムは全て決まっているんだ」
グナナセカランの月曜から土曜のスケジュールは毎日同じだ。
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
「7時から8時はヨガ。スポーツヨガと言う表現が正しいかもしれない。その後、南インドの美味しい朝食を食べて9時半から11時はフィットネス。スポーツダイナミクスの専門家がトレーナーとして来てくれる。重いウェイトを持ち上げるのではなくて、卓球の動きの改善にフォーカスしている。そして11時半から1時は短めの練習。サーブ練習や多球練習などシドニー五輪に出ていたオリンピアンのラマンコーチと一緒にメニューを決めている。そしてランチと長めの休憩を取った後、4時半から8時まではLong Practiceの時間だ。フットワークやゲーム練習など何でもここでやる」。
一日のトレーニングや練習が終わった後も全てルーティンが組まれている。
「練習が終わった後、夕飯を食べて、9時からは大好きなSNSタイムだ。30分おきにSNSをチェックして友達とメッセージをやりとりする。僕のソーシャルメディアチームにはデザイナーと投稿担当がいるから、自分でも投稿するけど、試合で忙しい時は任せたりもする。そして一日の最後には必ず深呼吸をして寝る。ね、毎日一緒でしょ(笑)」
週6でプロフェッショナルなアスリート生活を送るグナナセカランだがが、完全オフの日曜日だけは普通の20代の若者に戻る。
「日曜だけはゆっくり起きて、母と食事をしたり。ネットフリックスを見たり。今はスペインのドラマ『Money Heist』(日本名:ペーパー・ハウス)にはまってる。あとはもちろんボリウッド(インド映画)も好き。『ダンガル』は日本の人にもぜひ見て欲しい名作だよ」。
試合に向けたルーティンも
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
試合が近づくと少しだけやることが変わる。
「僕の場合、ゲーム練習を子供たちともやる。特に試合前にはシチュエーションゲームを多くやる。5-8から7-9からなど、相手にリードされたシチュエーションを想定して、どうプレッシャーと向き合うかをテーマにしているんだ」。
試合前日と当日のルーティンも明確だ。
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
「試合前日には対戦相手がわかっているから、コーチとビデオ研究をして戦術を話す。そして当日はまず試合会場でスモールヨガを10分ぐらいやって心を落ち着かせる。それから練習では試合で何をするかにフォーカスして、無駄な練習はしない。
あとはとにかく考えすぎないようにしている。Think before match(試合前に考え終わっていること)が重要。」
試合本番では声を出して自らを鼓舞するファイタースタイルのグナナセカラン。試合中は何を考えているのか?
「試合に入ったらいかに自然体でいられるか。僕は常に闘志を前面に出して、吠えている時が良いパフォーマンスを発揮できる。張本ほどではないけどね(笑)。これが自然体で戦っている証拠なんだ。日本でも成功している選手はみんなそうだと思う。張本は声を出す。水谷は冷静にプレーする。どちらも自然体で戦えているから強いんだ。それを良くわかっている」。
今年から取り入れたインド発祥のヨガ
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
グナナセカランは常にルーティンを進化させている。今年1月には古代インド発祥のヨガを自身の生活リズムの中に取り入れるチャレンジをし、コロナ禍の8ヶ月でマスターしつつある。
「ヨガを取り入れて本当に良かった。とても頭がクリアになって、冷静になれる。そして試合では残念ながら負けて落ち込んでしまうこともあるけど、そんな時でも体の内側からエネルギーが湧いてくるんだ。もちろんヨガだけでは世界チャンピオンにはなれないよ。でも常に自分のベストパフォーマンスを出せるんだ」。
オリンピックは4年に1回じゃない
写真:サティヤン・グナナセカラン(岡山リベッツ)/撮影:伊藤圭
グナナセカランはインドのオリンピアンが残したある言葉を大切にしている。
「五輪は4年に1回では無い。毎日が五輪だ」
こう考えることで、試合当日だけでなく毎日が本番に変わるんだという。
ストイックなアスリート生活を楽しむコツをインドのスターが教えてくれた。
グナナセカランインタビューはこちら
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