令和元年度の秋季関東学生卓球リーグ男子1部で、5シーズンぶり30回目の優勝を果たした専修大学。第6戦の明治大学との試合を勝利したことで、リーグ1位の座を確定。最終戦を待たずして優勝を決めてみせた。
4年の及川瑞基・三部航平の“ダブルエース”がシングルス負けなし(及川6戦全勝、三部7戦全勝)の成績でチームを牽引したことはもちろんだが、秋季リーグの優勝は「及川、三部以外の活躍があってこそ」だと、専修大男子卓球部・高宮啓監督は話す。
リーグ制覇を成し遂げるまで、チームはどのような成長を遂げていったのか。実際に練習場にお邪魔し、専修大卓球部の進化に迫った。
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高宮啓監督が掲げる「パワー卓球」の真髄
写真:専修大学卓球部練習風景/撮影:佐藤主祥
専修大といえば、水谷隼や丹羽孝希を輩出した明治大学と肩を並べるほどの強豪校だ。
2015年からのチーム成績を見ても、リーグでは上位に入り、3度の優勝を飾るなど、つねに上位に君臨し続けている。
練習場では、強さを裏付けるハイレベルな卓球が繰り広げられていた。どの選手も眼光鋭く、集中力の高い練習を行い、長時間にわたってラケットを振り続けていた。
この「質」と「量」を同時に高める練習メニューの“原点”は、実は高校の卓球名門校である青森山田高校と希望が丘高校にある。というのも、高宮監督が有望選手の勧誘を兼ねて両校を訪ね、練習を見学した際、その全国レベルのチームから得た“学び”を持ち帰ってメニュー考案の参考にしているからだ。
また、Tリーグ・木下マイスター東京の邱建新(キュウ・ジェンシン)総監督と親交があり、同じ川崎市内に練習場があることから、世界トップレベルの技術・戦術指導法を学んでいるという。
「やはりトップチームの練習内容や卓球に対する考え方はものすごく参考になるので、積極的に取り入れている」と高宮監督は話す。選手の持続的な成長を目指し、練習の幅を広げるため、意識的に外部にアンテナを張ることを、高宮監督は欠かさない。
近年、全体のテーマとして掲げている「パワー卓球」にもその姿勢が如実に表れている。
専修大では、3年前から定期的にウエイトトレーニングを導入。バスケ部とバレー部を兼任するトレーニングコーチを週に一度招き、肩とお尻回りを重点的に鍛えるウエイトを練習に組み込んでいる。
写真:専修大学男子卓球部・高宮啓監督/撮影:佐藤主祥
筋力アップの効果により、SNS上で「専大卓球部=パワー」と意味付けられる投稿が目立ち始め、高宮監督は「周りに専大の力強さを印象付けられた」と手応えを感じたという。
「パワーあるボールを打たれるのは、相手からすれば脅威です。ただ、強打を確率よく決めなければ意味はない。だからこそ、関東の大学ではトップクラスの練習量をこなすことで、力強さに加え、プレーの安定感も生み出していく。それが専大が重要視する“パワー卓球”の真髄です」
卓球という枠を飛び越え、他競技のトレーニング要素も取り入れ始めた高宮監督。さまざまなスタイルを柔軟に吸収する方針を継続していけば、チームとして今後さらなる飛躍が期待できるだろう。
チーム力を引き上げる“エース級”の存在
近年、さらなるパワーと安定感を身につけている専修大だが、つねに優勝争いができるチームを構築できている要因は他にもある。
それは、メンバーを引っ張る“エース級”の存在だ。
ここ数年でも、Tリーグ・木下マイスター東京に所属する兄の田添健汰、弟の響、実業団・リコーに進んだ郡山北斗が精神的支柱としてチームを牽引。そして現在は、水谷を輩出した名門・青森山田高出身の及川・三部と、脈々と次世代にエースのバトンが受け継がれてきた。
写真:専修大学ダブルエースの1人・三部航平/撮影:佐藤主祥
「その世代のトッププレーヤーがいることで、『一緒のチームでやりたい』とポテンシャルの高い選手が続々と入学してくれるようになった」と高宮監督。自身の監督就任初年度(2014年)に希望が丘高から田添健汰が加入して以降、選手たちの練習に対する姿勢、プレーの質が急激に変わったという。
「田添健汰がいた時代もそうですが、及川と三部がいる今も同様です。やはり彼らがいるといないとでは練習の質や、場の雰囲気が全然違う。今も海外遠征で世界トップクラスの選手たちと戦っていますから、2人の存在は他の選手に大きな刺激を与えてくれているんです」
写真:全日学で優勝した及川瑞基/撮影:ラリーズ編集部
及川に関しては、11月中旬のオーストリアOPでの世界ランキング1位・樊振東(ファンジェンドン・中国)との試合映像から、突出して基本レベルの高いプレーを抜き出し、選手に共有しているという。
世界No.1プレーヤーの強力な打球、爆発的なスイングスピードを映像を通して見せることで、「パワー卓球」の意識づけをする算段だ。
卓球界の頂点に君臨する樊と同じ土俵で戦う及川の姿は、選手たちの心を突き動かしたことだろう。
歴代のエースたちが、専修大のチーム力を間違いなく引き上げている。
秋季リーグ優勝につながった、“エース依存”からの脱却
しかし、エースの存在は、時にチームの成長を妨げてしまうこともある。
ずば抜けた能力で圧倒的な勝率を誇る選手がいれば、「この人に任せればいい」「彼が勝つから例え自分が負けても大丈夫だろう」と依存してしまう。それによって、その選手が抜けたときや不調に陥った際に窮地を迎えてしまうのだ。
3位に終わった今季の春季リーグ戦でその傾向が見られたと、ダブルエースの1人・三部は振り返る。
写真:三部航平/撮影:佐藤主祥
「僕ら以外の選手は、個人戦では勝っても、団体戦では負けていて。僕と及川のどちらか1人でも崩れたらダメっていう感じがあったんです。それを春季リーグが終わった後に気づいて、みんなで話し合いました。秋季リーグには、春の反省を踏まえて、一人ひとりが『俺は負けられない』という意識を持って臨めたと思います」
写真:明治大戦で貴重な勝ち星をあげた吉田海斗/撮影:佐藤主祥
その結果、秋季リーグは開幕から5連勝。勝てば優勝が決まる明治大戦で1対3と相手に王手をかけられるも、5番手・吉田海斗が出雲卓斗に対し3-0のストレート勝ち。6番手の三部も勝利して3対3のタイに持ち込むと、菅沼湧輝との最終戦を蛭田龍が3-2で制して大逆転勝利。先に追い込まれたが、チーム一丸となってこの窮地を脱し、念願の団体戦での優勝を勝ち取った。
後がない場面でコートに立った吉田は「(6番手の)三部さんに回さないで終わりたくはなかった。特に緊張もなかったので、自分のことだけに集中して臨めた」と振り返った。
写真:明治大戦でラストでチームを優勝に導いた蛭田龍/撮影:佐藤主祥
優勝が決まる大一番で勝利を飾った蛭田は、団体戦でのラストという位置に関して「緊張が直接プレーに影響するタイプではないので、相性のいい順番」だという。
また、自身の出身校・青森山田中の先輩である及川・三部の“ダブルエース”に対して「今の大学4年生の世代で間違いなく一番強い。だからこそ、団体戦のタイトルを取らせてあげたかった。先輩たちを目指してここまで頑張ってきたというのもあるので、一緒に優勝できたことはすごく嬉しい」とその想いを語った。
来季は、希望が丘高から共に卓球人生を歩んできた吉田・蛭田の2人が、及川と三部からバトンを引き継ぎ、新チームの中心を担っていこうと意気込んでいる。
“エース依存”から脱却し、一致団結できるチームづくりへ。
毎大会「全員が殊勲賞」と言えるよう、さらに団結力を深め、常勝チームへと押し上げていく。
歴代のエースたちが「俺は専修大学で育ったんだ」と、“この場所”を誇りに思ってもらえるように。
次回は「>>9連覇逃した卓球インターハイ 絶望の敗北から三部航平が得たもの #1」を公開いたします。