取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)
長らく日本のスポーツ文化を支え続けてきた「部活動」。少子化の影響や顧問教諭の長時間労働が問題視され、これまで部活の天王山だった“夏の総体”の廃止や中学の部活動を「希望者入部制」にする地域がちらほら出てくるなど、その存続が危ぶまれている。
「今の部活はいずれ無くなる」と断言し、次世代を見据えたスポーツ指導を行うのが原田隆雅氏(39)だ。東京都・江戸川区で礼武卓球道場を経営する同氏は、外部コーチとして都内の中学高校の部活指導も行い、部活動の実態を熟知している。
テレビCMの卓球技術監修を行うなど、プロコーチのパイオニアである原田氏に「部活動と日本のスポーツの未来」についてお話を伺った。
>>前編はこちら 「厳しく教える時代は終わった」転換期迎えるスポーツ指導の現場<卓球・原田隆雅#1>
部活動の縮小傾向が顕著に
ーー日本のスポーツを支えてきた部活動にどのような変化が起きていますか?
原田隆雅氏(礼武卓球道場、以下原田):教育の一貫として始まった部活が、色んな理由から成り立たなくなってきています。一番は先生たちの労働時間の問題。学校によって異なりますが、中学生が部活をやる時間について昔よりも相当制限がかかっている。少なくとも卓球の場合は、青春を懸けて本気で取り組みたい子にとっては、部活だけでは本気でのめりこめない状況になっている。大多数の先生は部活による負荷を減らしたいと思っていて、一部の部活熱心な先生はやりたいのにできない。皆さん悩んでいますね。
ーー部活だけでは物足りないという子が礼武卓球道場のようなクラブチームに来るのですか?
原田:学校の部活を終えてからうちのクラブに練習に来る子もいるし、学校では部活に出ない子も昔よりだいぶ増えてきた印象です。
ーー部活動には一定の教育的要素もあったと思うのですが。
原田:日本社会で常識とされている組織の中での先輩後輩関係、礼儀、ルール、リーダーシップやフォロワーシップを学ぶ場として部活はこれまで機能してきたと思います。我々世代はその中で育ってきた。でも今は部活にも親が出てくる時代。何かを言うと叩かれるので先生も相当肩身が狭い。その結果、トラブルが起こる可能性のあるところをカットしていくという発想にどうしてもなってしまって、部活も削るしかないと。
写真:礼儀を重んじる生徒たち(礼武卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部
ーー外部指導員の派遣により顧問の先生の負担を減らそうという仕組みもあると聞きます。
原田:橋下徹氏が大阪市の市長を勤められていた時に、部活動の外部指導について、数年にわたり携わった事があります。礼武の卒業生でも外部指導員をやっている大学生もいますが、学生アルバイトでは週に1~2回の指導はできても毎日の管理監督や土日の試合引率までは難しい。そういう事情もあって、部活を教育として学校でやろうという時代が終わりつつあります。10年後には本当に無くなっているかもしれない。卓球は特にですが、スポーツの習い事として学校の外でという流れになってきているように感じますね。
もし部活が無くなったら?
写真:原田隆雅(礼武卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部
ーーもし、仮に部活が完全に無くなったらどうなるのでしょうか?部活に熱心な先生の存在や、部活への加入が日本のスポーツ人口を支えてきた事実もあると思います。
原田:確かに中学に入ったら何か部活に入らなければいけないから卓球部を選んだという人は意外と多いかもしれない。先生も部活の顧問になりたくて必死に教職を取って先生になった人も沢山いるし、今でも熱心に活動している。
でも何も悲観する必要はありません。
時代の流れに合わせて、表向きは変わるけど実態は変わらないんじゃないかというのが私の考えです。部活が無くなっても卓球をやりたい生徒も熱心に教えたい先生も全国各地に一定数いる。学校の体育館には卓球が出来る環境があって、公共施設なので市民はそこを使う権利がある。であれば、放課後に学校の体育館で地域のスポーツクラブとして活動すればいい。税金で作られた中学校が全国に約1万校もあるわけですから。複数の中学が合同でクラブを作ってもよいし、行政のスポーツ推進課がそれを主導してもよい。もちろんクリアしなければいけない課題はありますよ。
先生が指導する際に副業解禁として指導料を取るのか、ボランティアでやるのか。学校を開放する際のセキュリティはどうするのかなどなど。でも逆に新しい仕組みさえ作ってしまえば、意外とスムーズに移行できるような気もします。スポーツが楽しくてやりたい人、うまくなりたい人はいっぱいいるわけだから。
ーー地方予選から全国大会までピラミッド構造になっている大会についてはどうなるのでしょうか?
原田:カテゴリーや大会を選ぶ時代になるのではないでしょうか。
特に卓球の場合、プロアスリートを目指すには本当に小さい頃からの特別な指導が必要な時代となってきた。昔は部活の延長でトップアスリートが生まれたのかもしれないけど、今は世界のトップを狙うのか、そうでない中で上手くなることを目指すのかを分けて考えるべき。卓球の場合はもう分かれていて、そもそもトップは部活でやらないし、インターハイにも出ない時代になっている。
Tリーグとか実業団を見ていても、ワールド・ツアーに出ない選手も沢山いて、競技者としてはいい意味で自分の限界を決めていて、だからこそ長く楽しく卓球を続けられる。そういう選手が沢山いることが日本の卓球を支えていますよね。
今までは中学の部活に入れば強制的に地区予選に出て、県大会、地方大会、全国大会と続いていた。これからは自分のレベルに合った大会、カテゴリを選ぶようになるのかなと。卓球に限らずですが、何でも自分で選んで決めていく時代になっていくのかなと思います。
地域コミュニティの真ん中に卓球を
写真:原田隆雅(礼武卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部
ーーそのような環境変化を見据えて、今後原田さんはどのようなアプローチをされるのでしょうか?
原田:地域密着の卓球場として、卓球人口を増やしたい。これに尽きます。
今、このままでは卓球人口が増える気がしないと感じていて、危機感を抱いています。そもそも少子化の中で、卓球をはじめる、続けるきっかけの一つになっていた部活動が厳しくなっている。それに加えて、卓球人口を支えている主婦層についてもこのままでは増えないと思っています。
ーーいわゆるレディース、家庭婦人と呼ばれる卓球愛好家層ですね?
原田:実は主婦層には小学校のPTAをきっかけに卓球を始めたという人が多い。
「PTA卓球」と呼ばれているのですが、父母同士の交流のために小学校の体育館を開放して、卓球をやる文化があるんですね。その中から生涯の趣味としてプレーをはじめたり再開する人が結構多いんですよ。ただ、少子化を考えるとPTAの活動自体が盛んじゃなくなるのかなと。これも「学校×スポーツ」が小さくなってしまう例の一つです。部活もPTAも縮小していくと卓球の入り口がどんどん無くなってしまう。
ーー5年後、10年後のスポーツ人口、卓球人口を増やすために具体的に考えていることはありますか?
原田:魅力的な場作り、コミュニティづくり。町の中心に卓球があって、そこに人が集まるということをしていかないとと思っています。
幸いにもこの道場には地元の人も沢山来てくれていますが、実は「居心地が良い」「ここでの卓球が楽しい」という理由で千葉や茨城から、県をまたいで毎週来てくれる人もいるんです。また、我々が大会を開けば平日でも300人以上がわっと集まって、告知をすればすぐにエントリー枠が埋まる。
それだけの魅力や集客力が卓球にはあるし、我々もここまで10年かけて基盤を作ってきた。なのでここから3〜4年はどんどん情報発信をして、行政とも組みながら、東京の東の方から卓球をツールに地域を盛り上げますよ。
ーー今後の活動が楽しみです。ありがとうございました。