12月以来、週の半分ほど金沢にいる。
チームの拠点を置く老舗卓球専門店・清水スポーツすぐ近くのスーパー銭湯を定宿にしている。
モーニングのバイキングのメニューは、もう暗唱できる。いまだに、朝の金沢カレーにだけは手が伸びない。昼は、大盛りで平らげるのに。
違う、プロ卓球チームを作る、という話だ。
写真:Tリーグ2022-2023ファイナル会場の代々木第二体育館/撮影:ラリーズ編集部
このページの目次
新チームの事業面を担当
石川県金沢市を拠点にした「金沢ポート」という男子プロ卓球チームが、卓球Tリーグ2023−2024seasonに新規参入することになった。
私は、その運営法人「金沢ポート株式会社」の取締役として、現在、主に事業面の立ち上げを担当している。
承認されるまでの詳しい経緯は、2022年12月の編集長コラムを読んでいただければと思う。
写真:市長面会の後に囲みインタビューに臨む西東輝監督(金沢ポート)/撮影:金沢ポート
プロ卓球チームを立ち上げるということは、貴重な体験である。
ゆっくり振り返る暇はまったく無いが、現在進行系の裏方奮闘記を伝えることで、少しでもみなさんが金沢ポートやTリーグに興味を持っていただければ嬉しい。
それが卓球専門メディア編集長を兼任しながらプロ卓球チームの経営に携わる、私の役目でもある。
写真:もちろん兼六園にも行きましたよ/撮影:金沢ポート
「金沢ポート」紹介
監督は、社長を兼任する西東輝(さいとうあきら、現在31歳)だ。
金沢市の老舗卓球専門店「清水スポーツ」の代表取締役も承継し、石川県卓球連盟の理事も務めている。
ただ、その肩書の大きさから受ける印象ほど器用な人間ではない。無骨で、真面目で、がゆえに、結構な頻度で暴走して、反省して、また元気に駆け回っている。
写真:西東輝監督(金沢ポート)/撮影:金沢ポート
①会場押さえの重要性
リーグからの新規参入承認とほぼ同タイミングで、まず必要だったものはホームマッチ会場の仮押さえだ。
「ところで、会場は大丈夫なんですよね」
申請時に、リーグ側から幾度と確認を受けた。もちろん、事前に地元関係者と丁寧に会話し、一応の段取りをつけてから、新規参入申請をした。
ただ、承認された2022年12月時点で、石川県内の2023年度の主な公共体育館・アリーナは、特に週末については、仮ではあるがほぼ埋まっていた。当たり前である。特に石川県は、新旧含めてスポーツ・文化施設の比較的多い地域ではあるが、逆に言えば利用団体が多く、常に需要があるとも言える。
そこから、キャンセル見込みや日程を少しずつ調整できたのも、西東監督をはじめ、地元の石川県卓球連盟の身内同然のサポートがあったからだ。
ただし、興行なので、ただ使えれば良いというわけではない。
リーグ関係者と共に会場視察にも回り、Tリーグの試合に必要な会場照明の照度、天井高も含めた中継可否などを確認していく。
地域特性もある。冬場の石川県で暖房設備のない施設での興行は難しいのではないか。
ほぼすべてのお客さんが車で来場するときに、この駐車場で足りるのか。限られた候補会場の中でも、繊細に会話を続けた。
何もかも初めての新チームにとっては、候補の極めて少ないホームマッチ会場であっても、簡単にGOサインを出せなかった。
写真:金沢駅の観光名所・鼓門/撮影:金沢ポート
②他チームへのヒアリングの大切さ
会場設営の方法ひとつ取っても、これまで5シーズン運営してきた他チームにヒアリングすることはとても重要だった。
それは卓球専門メディアの取材活動を通じて各チームと関係性のあった、私の利点だったかもしれない。
それでも、試合会場ができてから取材に行くメディアではわからないことばかりだった。
いかに、各チームが限られたリソースの中で知恵を絞って運営してきたか。
例えば、赤マットを自前で設営できるリソースを持つチームなのかどうかという1点だけ取っても、設営費用は変わってくる。
大型スクリーンは、その費用をかけてまで金沢ポートの考える試合興行に必要なのか。その設備を保管する倉庫をどこに持つのか。
詳細な見通しを立てる経験も知見もないのに、次々と判断は迫られる。
写真:イオンモールでのTリーグホームマッチ開催/提供:岡山リベッツ/T.LEAGUE/アフロ
そんな新規参入チームの私たちに、それまでの知見を出し惜しみせずに教えてくれたのは、各チームの面々だった。そのありがたみはずっと忘れないだろうと思う。
恩返しは、私たちのホームマッチで対戦するときに、一年目から熱にあふれた空間を作ることだと思っている。
責任企業の規模が違うチームが集っているTリーグだが、一方でチーム運営を担うスタッフの数には、そこまでの違いはない。
各チームのわずかな数の実働部隊が支えているホームアンドアウェイ興行のTリーグであることを実感した。
写真:劇場やホールでのTリーグ開催も定着してきた/撮影:ラリーズ編集部
③パートナー/スポンサーセールスの大切さ
公表されてないのでただの私の体感だが、Tリーグ各チームの年間売上で入場料収入の占める割合が25%を超えるチームは存在しないのではないか。
とりわけ、都市部ではない地方拠点のチームにとって、パートナー・スポンサーセールス売上の重要性を改めて痛感する。
しかも、まだ何も始まっていない新チームだ。にも関わらず、ある程度まとまった額の提案でもある。
セールスの際に当たり前に聞かれる「平均観客動員数」も、コロナ禍の直近3シーズンを外して提案するが説得力に欠ける。これまでの1試合最大観客数5,000人、4,000人という勇ましい数字を資料に入れるが、それは私たちのチームの実績ではない。
企業ロゴの露出換算価値も、わかりやすいテレビ放送のリーチ数を求める企業にとっては物足りない。そもそも、まだ始まっていない私たちのチームには、何の根拠数字もない。
提案金額への根拠、という部分で何度もつまづいた。
写真:地元で金沢ポート主催イベントも始めている/撮影:金沢ポート
地元有力企業は既に、J2・ツエーゲン金沢をはじめ、県内他スポーツチームへの協賛実績を持つところも多い。
「もっと動員数の多いサッカー、バスケットチームの協賛金額より高いんですね」と言われ、返答に窮したこともある。
それでも、新チーム立ち上がり一年目は一度しかない。
地域密着を掲げる以上、この機に、可能な限りの有力企業に会って「なぜ卓球か」「なぜ私たちか」を語ってきた。まだ足りないが。
写真:西東輝監督と共にパートナー提案中/撮影:金沢ポート
パートナーの課題を解決できる機能を持てるか
ただ、実際やることは、先方のニーズを探り、再提案を練り、また次のアポイントを取って、会いに行き、提案して、先方のさらなるニーズを聞き、(以下続く)という、一般企業の提案営業と同じだ。
商品や媒体があるわけではないぶん、そのやりとりは繊細でなければならない。
そしてできることは小さくても、パートナーの課題を解決する機能を持つプロチームでなければ、長く伴走してもらうことはできない。
写真:エバー航空とスポンサーシップ契約を結び、石川県と台湾のさらなる交流活性化を/撮影:金沢ポート
④老舗卓球専門店に支えられて
地方ではみな、嘘のつけない距離に暮らしている。
身にしみて感じたのが、既に地元に根づいたネットワークのありがたさである。
約45年金沢市で卓球専門店を営んできた清水スポーツの中に拠点を構える金沢ポートは、その信用度や人の繋がりに助けられている。
「マーケティング担当者がジュニアクラブの教え子のお父さんだ」「あの企業は、お店にラケットを買いに来てくれたお客さんだった」「そもそも大昔、教え子だった」
卓球人の多くは皆、記憶の中に地元の卓球専門店がある。
そのアナログ性・土着性を持つ地域のお店と、Rallysのようなデジタルメディアが、力を持ち寄って地域密着型チームを作ろうとしている過程は、今の時代に理想的な形の一つなのかもしれない。いつか結果が伴えば、そう振り返りたい。
写真:金沢市の老舗卓球専門店・清水スポーツ/撮影:金沢ポート
⑤ほぼすべて対面の理由
余談だが、パートナー/スポンサーセールスについては、少なくとも決定まで、オンラインMTGというのはあまり有効に機能しない。
まだ何も存在していない新チームは、せめて足を運んで対面し、こちらの姿勢や人となりを伝えること以外に信頼してもらう方法はないからだ。
写真:槌谷昭人(金沢ポート取締役)/撮影:金沢ポート
その意味では、チーム立ち上げスタッフには、情熱と、冷静さと、あと愛嬌も必要だ。
43歳にもなって、愛嬌だと説く経営者もどうかと思うが、でも実感だ。
地域のプロ卓球チームという先の長い旅に出るのだから、パートナー/スポンサーにとっても、愛嬌がある人間と共に歩みたいのが心情だろう。
もちろん、現在の日本における卓球の認知度の高さも加わる。
「最近、卓球、日本強いよね、ほら、あの」と、トップ選手の顔と名前が数人一致する現在の状況があって、話を聞いてくれやすい環境にはある。
写真:卓球ラリーで盛り上がるスポンサーシップ締結セレモニー/撮影:ラリーズ編集部
長い航海に出る同志
それでも、まだ全然途上だ。ただ、今ならわかる。
この事業構築の厳しさの中で、プロチームはその自覚を持っていくのだ。
どのチームも、1社たりとも適当に営業したチームスタッフもいなければ、適当に決断したパートナー/スポンサーもいない。卓球Tリーグチームという、先の長い航海に出る船に乗る決断をしてくれた同志だからだ。
なんだかカッコつけそうになったところで、また次回。
あ、最後に。
そろそろ、一人目の選手の同志を発表します。
写真:清水スポーツ2階の卓球場/提供:金沢ポート
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