文:石丸眼鏡
このページの目次
国際大会を引退する松平 今後は国内で現役選手を継続
Tリーグ・T.T彩たま所属の松平健太がInstagramで国際大会からの引退を発表した。
松平といえば芸術的なブロックやしゃがみ込みサーブなど多彩な技術が印象的だ。16歳で世界選手権日本代表に選出されるなど、早くからその才能に注目が集まり、天才の名を欲しいままにしていた。
2013年の世界選手権パリ大会では北京五輪金メダリストの馬琳を破り、シングルスベスト8の成績を収めるなど世界の舞台でも活躍してきた選手だ。
今回の発表の意図を松平本人に尋ねると、以下のコメントが返ってきた。
「僕の中で、もうずっと(国際大会に)出ないのに何も発表しないのも変。区切りをつけるために発表した。Tリーグと国内の大会がメインになる」。
今後はTリーグをはじめとした国内大会に参戦し、現役選手を継続するとのこと。あくまで国際大会からのみ身を引くということのようだ。
写真:サイドスピンをかけたブロックなどトリッキーなプレーを見せる松平健太/提供:ittfworld
国際大会を退く理由とは
日本のスポーツ選手でも、サッカーやラグビーでは代表引退という形で国際大会を退いた選手が数多く存在する。
2018年のFIFAワールドカップ終了後には、長谷部誠や酒井高徳など今も現役選手として活躍するプレーヤーたちが日本代表引退を発表。
先日行われたラグビーワールドカップで素晴らしい活躍を見せたWTB福岡堅樹も、15人制ラグビーの代表から退く意思を表明している。
国際大会を退く決断にはどのような意図や背景があるのだろうか。
国内と海外を両立する難しさ
国内の所属先での試合と、国際大会の両方に出場し続けることは選手にとって非常に難しい。第一に考えられるのは、体力的・精神的な負荷の高さだろう。国際大会への出場は、頻繁な長距離移動があり体への負担が大きい。
現に今年の卓球界のスケジュールをみてみると、そのハードさが浮き彫りとなっている。
写真:各地を転戦する1年を送っている丹羽孝希(写真はT2ダイヤモンド)/撮影:ラリーズ編集部
例えば、五輪代表枠を争っている丹羽孝希はワールドツアーやTリーグで世界中を転戦。今年の下半期だけで、マレーシア、ブルガリア、チェコ、パラグアイ、スウェーデン、ドイツ、日本、シンガポール、オーストリア、中国で試合に出場している。
シンガポールでのT2ダイヤモンドの試合後には「もう体はボロボロです」とこぼし、エントリーしていた12月4日からのノースアメリカンオープンも首の痛みを理由に欠場した。
代表クラスの選手がこなす試合スケジュールが如何に厳しいものかよくわかる。年齢を重ねるに連れて、疲労の蓄積という問題が表面化してくることは想像に難くない。
国内国外両方の試合に出場すると過密スケジュールになってしまうことも多い。疲労がある中で、数多くの試合をこなし続けるモチベーション維持が難しくなってくることも考えられる。
こういった体力面や自身の年齢を考慮し、国際大会という経験の場を後進に譲るという選択をする選手も存在する。
写真:丹羽はTリーグの試合にも出場している/撮影:ラリーズ編集部
国内国外で試合を両立する難しさはそれだけではない。
国内の所属先での試合と国際大会を両立したくても、日程が重複しどちらか一方の出場を諦めざるを得なくなることも少なくない。また、試合の連続でまとまった練習時間の確保が困難となり、調整が十分にできないという懸念もある。
ここに長距離移動が加わってくると、常に万全の状態で試合に出場し続けることは不可能といっても過言ではないだろう。
>>【最新版】卓球・世界ランキングの決め方は? 規定が2020年を目前に改定、そのポイントとは
国内に専念することにはメリットも
国内での活動に専念することは、選手生活をより長く続けられたり、チームでの試合にこれまで以上に貢献したりすることができるという点ではメリットもある。
国際大会に出場するために使っていた時間を、練習や調整にあてることができれば、試合でよりよいパフォーマンスを発揮することができるかもしれない。
スケジュールにも余裕が生まれ、落ち着いた環境で充実した練習を続けることができ、結果的に自身の現役生活が長くなるといったことも十分に考えられる。
国内のファンに自分のプレーを見せる機会を増やすことができるという点も付け加えておきたい。
Tリーグの存在は新たな現役生活のきっかけとなるか
写真:松平(写真奥)はT.T彩たまを引っ張る活躍を見せる/撮影:ラリーズ編集部
今回の松平の選択大きな一因には、Tリーグの存在があるのではないか。
2018年10月に開幕したTリーグの存在は、選手が現役のプロ選手であり続けるための新たな選択肢となりうるものだ。
卓球に専念できる環境を維持すつつ、ハイレベルな選手と戦う試合機会も数多く得られる。
従来は、トップ選手であっても、日本で現役の卓球選手として活動する道はそう広くはなかった。チームに所属するならば、実業団である日本リーグが主な選択肢だ。個人で活動するとしても、日本代表として国際大会に出場しない選手が十分なスポンサードを得ることは難しい。
チームでの活躍が認められれば、現役引退後のコーチや監督としてのセカンドキャリアもみえてくる。チームのある地域で指導者として活躍するもよし、タレント活動をするもよし、Tリーグから広がる新たなキャリアへの道は広い。
写真:単複両輪で活躍する松平健太/撮影:ラリーズ編集部
松平自身も、11月24日の木下マイスター東京戦後のラリーズ編集部からの取材に対し「国際大会にしろ国内にしろ常に全力でやるのが当たり前。なので気持ちは変わらない」と今後のキャリアに対する前向きな思いを語っている。
いずれにしても、我々ファンは選手が現役としてプレーする姿を少しでも長く見ていたいし、引退後も充実したキャリアを歩んで欲しいと願っている。
そのカギはTリーグにあるのかもしれない。