以前にRallys特別インタビューにも登場いただいた「卓球界のレジェンド」宮崎義仁氏(日本卓球協会・強化本部長)の特別連載。
『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』(ポプラ社)も上梓した宮﨑氏が語る、知られざる卓球の裏側。
第二回では、現代の日本卓球界を支える、データ分析について語って頂いた。
海外の全試合をデータベース化
今では卓球の試合の映像はYouTubeなどで多数見られるが、それとは別に日本卓球協会として、過去数十年にわたる数万もの海外選手の試合映像も、全てデータベースとして保管している。
もちろんこの映像は一般の方からアクセスできないよう管理されているが、日本卓球協会の強化策として、選手は過去の数万試合の情報を、ネット環境さえあれば世界中のどこにいても見ることができる。
さらには、データベースの検索機能も優れている。
たとえば「2011年 水谷 対 ガオニン」と検索すれば、2011年のこのカードの試合が全てラブオール(0-0)から最後まで抽出される。
もっと言えば、その中で「失点パターン」と検索すれば、その試合中で水谷選手が失点したパターンのみを抽出したように編集された状態で観ることができる。あるいは、水谷選手のサービスからだけのパターンを切り取ることもできるし、左利き選手との試合だけを抽出ということもできる。
特定の選手と対戦する前に、その選手の過去の試合の中から、サービスだけを切り取って研究をしたり、自分の得点パターンだけを観てモチベーションを上げたり、さまざまな使い方ができる。
それを実現するために、協会にはデータ班が複数人いて、海外のワールドツアーにはほぼ全大会派遣している。そこにビデオカメラを持っていき、会場の全台を録画して保管している。
データから分かった張本選手の「0」
そういった情報をデータベース化して、常に細分化していっているので、我々としてもさまざまな研究に役立てることができる。3カ月に1回、細分化された選手のデータをもとに情報戦略ミーティングというものをやっている。
そのデータの項目とは、選手の世界ランキングの推移や、サービス・レシーブの分析、あるいは戦況ごとの得点率(8-8以上の接戦になったときのそのゲームを取る確率)などだ。
吉村真晴選手などは、接戦になるとそのゲームを勝利する確率がとても高い。「競れば勝つ」というのが明確な情報として表れてきているのだ。
他にも、ゲームの序盤である6ポイント目までのスコアで、リードしている率なども出るので、6本目までにどこまで離すことができているか、逆に離されているか、などを見て、練習課題に盛り込むことができる。出足が悪い選手には、出足を想定した練習に時間を割いてやってもらう。
そのように膨大なデータを見て強化策の参考にしているのだが、1年前にふと気になる数値を見つけた。
張本選手のデータを見たときに「0」という数値が目に入った。その項目を見ると、「YGサーブ」となっていた。「(張本は)YGサーブを出さないの?」とデータ班に聞いたところ、「はい、一本も出しません」と答えた。
そこで私はすぐにミーティングを開き、世界のトレンドとなっているYGサーブの取り入れを勧めた。
そこからは彼は毎日欠かさずずっとYGサーブの練習に明け暮れた。そして、そこから1年半後。彼はYGサーブを「習得した」レベルには留まらず、「エースサーブ」にまでしてのけたのだ。
普通の選手なら、練習して練習して、YGサーブを「出せるようになった」というぐらいだ。しかし彼はそれを自分のエースサーブになるまで成長させたのだから、本当にすごい。
彼は、「1」を求めたら「10」で返してくれる選手だ。なので、2年前に「0」という数字を見つけて指導していなかったら、こうはなっていなかったかもしれない。そう考えると、このデータ分析というのは非常に助かっている。
宮崎義仁プロフィール
1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校~近畿大学~和歌山銀行。現役時代に卓球日本代表として世界選手権や1988年ソウル五輪などで活躍後、ナショナルチームの男女監督、JOCエリートアカデミー総監督を歴任。ジュニア世代からの一貫指導・育成に力を注いでいる。試合のテレビ解説も行っており、分かりやすい解説が好評。公益財団法人日本卓球協会常務理事、強化本部長。卓球国際新トーナメントT2 Diamondの技術顧問も務める。
※本コンテンツは宮崎義仁氏の著書『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』(ポプラ社)の一部を引用、掲載しております。
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宮崎義仁氏の新刊『世界卓球解説者が教える卓球観戦の極意』(ポプラ社)