「やめる勇気、開催する勇気」2020年度後期日本卓球リーグ、戦いを終えて | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:日本リーグ通算100勝を飾った吉田海偉(東京アート)/撮影:ラリーズ編集部

大会報道 「やめる勇気、開催する勇気」2020年度後期日本卓球リーグ、戦いを終えて

2020.11.16

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

全国規模の大会は、2020年度はこれが初めてだった。
日本リーグが、参加する全選手・スタッフ429人にPCR検査を実施して臨んだ本大会。

5日間の大会期間中に発熱者を一人も出さず、無事に閉幕を迎えた関係者たちに話を聞いた。

佐藤真二専務理事「心温まる支援に感謝」

日本卓球リーグ実業団連盟の佐藤真二氏は開口一番、地元熊本の関係者に感謝した。

「地元のみなさんの協力がなければ開催できなかった。熊本の卓球協会、行政、県や市の医師会、保健所など、みなさまからの心温まるご支援に感謝したい」


写真:佐藤真二 日本卓球リーグ専務理事/撮影:ラリーズ編集部

「熊本モデル」とは何か

“熊本モデル”を端的に言えば「換気」と「除菌」の徹底であった。

約1時間毎の換気。


写真:1コマ終了毎にスタッフ・選手で必ず換気を行った/撮影:ラリーズ編集部

除菌についても、至るところに除菌ボトルが設置され、スタッフ・関係者は自分が座ったパイプ椅子の座面を毎回拭いた。


写真:自分が座った椅子を除菌するスタッフ/撮影:ラリーズ編集部

「口酸っぱくマイクでアナウンスをし続けて、スタッフも選手も文句一つ言わず実施してくれたことが、発熱者を一人も出さずに成功裏に終わった大きな要因」と佐藤氏は振り返る。

「一番簡単なのは、開催をやめること。でも、この熊本大会は“やる勇気”で決断しました」

そこには40余年、日本の卓球界を支えてきた日本卓球リーグとしての矜持も見える。

「企業スポーツが一年間大会に出ないで活動をしていたとなると、各企業での卓球部の評価や、存在意義にも影響が出るかもしれない」


写真:女子1部優勝の中国電力メンバー/撮影:ラリーズ編集部

withコロナ時代に、いかにして大会が開催できるか。

「熊本モデル」は、社会生活と卓球の接点を作り続けてきた日本リーグが、まずその挑戦の口火を切った形と言える。

卓球ファンがいなくなるかも

地元の熊本県卓球協会も、日本リーグの思いに全力で応えた。

理事長の加藤憲二氏は、特に、発熱者が出た後のシミュレーションを綿密に行った。地元の医師、行政などにも相談、連携し、大会開催までに熊本市の発熱患者専用ダイヤルが開設された。

「やってくる選手・スタッフには、熊本にかかりつけ医はいませんから」

準備期間の中でも感染状況は刻一刻と変わった。
あらゆるシミュレーションをしつつ、でも最後は責任者が肚をくくれるかだ、と笑う。


写真:熊本県卓球協会の加藤憲二理事長/撮影:ラリーズ編集部

加藤氏は、日本卓球協会の常務理事であり、現在、協会の総務部長も務める。

地元・熊本で長年卓球界を守ってきた男の思いがある。

“もし来年も応援ができなかったら、卓球ファンがいなくなってしまうかもしれない”。

「協会に加入している人だけが卓球ファンじゃない。孫の試合を観に来るおじいちゃん、おばあちゃん、仕事を休んで引率してくれるお父さん、お母さん、みんな卓球ファンなんです。一時的かもしれないけど、その芽を摘んじゃいけない」加藤氏は力を込める。


写真:熊本県卓球協会の加藤憲二理事長/撮影:ラリーズ編集部

やめる勇気

一方で、やめる勇気もある。

熊本県卓球協会と連携して感染対策に万全を期したものの、大会期間中に発熱者が一人でも出たら、佐藤氏はその時点での中止も視野に入れていた。

再びコロナ感染が拡大局面にある今、12月開催予定のファイナル4は「生命と健康を第一優先に考えながら判斷する」と表情を崩さない。

熟成させるか、進化させるか

一方、試合内容についてはどう見たのだろうか。

佐藤氏は「新人の選手たちが溌剌とプレーをしていたこと」を印象として挙げた上で、「(大会のなかった)この10ヶ月間、卓球にどう取り組んでいたかが出た大会だった」と振り返る。


写真:新人賞を獲得した松平志穂(サンリツ)、田口瑛美子(昭和電工マテリアルズ)/撮影:ラリーズ編集部

良い結果を残したチーム、選手に、佐藤氏は2つのタイプを見る。

熟成させるか、進化させるか。

「例えば、今大会6勝の吉田(海偉)、高木和(卓)など、多くの勝ち星を挙げたベテラン選手は、今の自分の卓球をより安定させ、スタイルとして確立させる練習をやりこんできたのだろう」。


写真:7戦6勝とチームを牽引した主将・高木和卓(東京アート)撮影:ラリーズ編集部

「もう一つは、新しく進化させた選手。10ヶ月という時間は自分の卓球を変化させるには十分な時間。協和キリンで言えば、松平(賢二)、渡辺(裕介)、平野(友樹)あたりは、バックハンドで先手、得点が取れるスタイルに変化して、今大会に登場した」


写真:最高殊勲選手賞の平野友樹(協和キリン)/撮影:ラリーズ編集部

「久しぶりに見た試合ということもあって」と前置きした後、奇しくも前の時間に取材した加藤氏と同じ言葉で、この大会を総括した。

「楽しい大会でした」


写真:佐藤真二 日本卓球リーグ専務理事/撮影:ラリーズ編集部

大会取材を終えて

試合会場での選手たちの躍動ぶりは語るまでもない。
ロビーでは、選手が泣いている姿を何度か見かけた。
ある選手は嬉しくて、ある選手は不甲斐なさで。

「試合勘はどうですか」途中から、その質問をやめた。
今あるもので全力で戦う選手たちに、なんだか的外れな気がしたのだ。

「これが最後です」大活躍した選手は、自ら既に引き際を決めていた。
2部では40代の選手が大学生に闘志むき出しで挑む姿があった。
表彰式では若い選手たちが久しぶりに会う面々と、嬉しそうに写真を撮り合っていた。


写真:今年度で引退を決めている土`田美佳(中国電力)/撮影:ラリーズ編集部/撮影:ラリーズ編集部


写真:46歳の渡部将史(琉球レオフォルテ)/撮影:ラリーズ編集部

ここには国の威信をかけた戦いはない。
でも、人生と卓球、社会と卓球の交点を常に問い続け、戦い続ける選手たちの姿があった。

日本リーグが“サステナブル”を掲げていることをふと思い出した。

「楽しいですよ。大会が無いとつまらなかった」
今大会、日本卓球リーグ通算100勝を飾った吉田海偉のひと言が耳に残っている。


写真:熱いガッツポーズを見せる吉田海偉(東京アート)/撮影:ラリーズ編集部

「Rallysが日本リーグをこんなに報道するんですね」
会場で多くの選手や監督に声をかけて頂いた。

来週も来月も来年も、選手がプレーできて、ファンが応援できるために。

この5日間、高い緊張感の中で戦ったすべてのチーム、関係者、スタッフの皆さんに敬意を込めて。

楽しい取材でした。


写真:土`田美佳(中国電力)/撮影:ラリーズ編集部

2020年度後期日本卓球リーグ熊本大会記事


写真:男子1部優勝の協和キリンメンバー/撮影:ラリーズ編集部

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