伊藤美誠がカットマンに滅法強いワケ 中国キラー・佐藤瞳戦の緻密な戦術 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:カットマンキラー伊藤美誠(スターツ)/提供:ittfworld

大会報道 伊藤美誠がカットマンに滅法強いワケ 中国キラー・佐藤瞳戦の緻密な戦術

2020.03.11

文:ラリーズ編集部

白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】

先日行われた2020ITTFワールドツアープラチナ・カタールオープン2回戦にて、伊藤美誠(スターツ)対佐藤瞳(ミキハウス)という日本人対決が実現した。試合は4-1で伊藤が佐藤を圧倒する結果となった。

この勝利により伊藤は、佐藤との国際大会での対戦成績を10勝1敗とした。2019年韓国オープン・2回戦での対戦から今回の対戦まで、佐藤に対して7連勝中ということになる。

伊藤は今シーズン、先日行われたハンガリーオープンでは優勝、カタールオープンでも馮天薇(フォンティエンウェイ・シンガポール)、丁寧(ディンニン・中国)を破り、決勝進出するなどその勢いは止まる気配がない。

一方佐藤も、2019年12月に行われたワールドツアーグランドファイナルで丁寧(ディンニン・中国)を破るなど、中国選手に対して相性が良く、昨シーズンは中国選手に対して6勝5敗と勝ち越している中国キラーだ。

中国選手にも強いカットマンである佐藤をどのようにして攻略したのか。そこには緻密に練られた戦術があった。

>>伊藤美誠が“楽しむ姿勢”貫くワケ

2020ITTFワールドツアー・カタールオープン2回戦:伊藤美誠 vs 佐藤瞳


写真:天敵・伊藤美誠に苦杯を喫した佐藤瞳/提供:ittfworld

詳細スコア

○伊藤美誠4-1佐藤瞳
11-7/11-4/11-5/10-12/11-7

伊藤の戦術の軸:回転量に変化をつけたドライブからのスマッシュ


写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

今回の試合で伊藤は、最終的にスマッシュで決めるために、回転量に変化をつけたドライブで佐藤を崩すことを軸に試合を組み立てていた。その具体的な戦術を解説していく。

1.回転量の少ないスピードドライブをタイミング早くストレートへ送る


図:伊藤美誠の戦術①/作成:ラリーズ編集部

一般的に、カットマン攻略の方法といえば、強烈な回転を掛けたドライブで相手のカットを打ち抜くことをイメージする人が多いかもしれないが、伊藤が行った戦術はその逆である。

少しフラット気味で回転量の少ないスピードドライブをタイミング早く送ることを攻撃の起点としていたのである。


写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

カットマンが最も変化がつけやすいのは、ある程度回転量のあるゆっくりとしたループドライブである。なぜなら、時間的な余裕があり、万全の体勢で自在に変化をつけたカットができるためだ。

勿論、回転量の多いドライブの勢いを殺すのは簡単ではないものの、異質ラバー(粒高や表ソフト)を使用している場合、相手の回転を利用して、より変化のついたカットで返球することが出来る。

また、いくらスピードがあっても、回転量の多いドライブに対しては、異質ラバーの性質から当てるだけで変化のついたカットで返球することが可能である。


写真:異質ラバーの使い手でもある佐藤瞳/提供:ittfworld

一方で、早い打点で送られた回転量の少ないスピードドライブに対しては、変化をつけたカットで返球できない場合が多い。これは回転量の少ないボールに対しては、回転を利用することが難しいためである。

加えて、早い打点で打たれると、スイングできず当てただけのカットでしか返球できない場合が多い。こういった理由から、回転量の少ないスピードドライブに対して当てただけで返球すると、緩い下回転が掛かっただけの甘いカットになってしまう。

伊藤はこの甘いカットを引き出し、スマッシュへと繋げていたのである。


写真:伊藤美誠(スターツ)/提供:ittfworld

更に、ストレートへとドライブを送ることも佐藤を崩すには効果的であった。距離が短く、時間的な余裕がなくなってしまうストレートに送られたボールをカットするには、しっかりと体勢を組み替える必要がある。

これにより万全の体勢でカットし続けることが難しくなり、最終的にカットが甘くなり、浅く浮いてしまうのである。

2.回転量に変化のつけたループドライブを早い打点でミドルにつなぐ


図:伊藤美誠の戦術②/作成:ラリーズ編集部

すべてのボールに対してスピードドライブを打つことは難しく、深いレシーブに対しては繋ぐ必要がある。このボールに対して伊藤は、回転量に変化をつけた浅いループドライブで返球していた。

回転量が一定のループドライブに対しては、佐藤も変化をつけられるが、回転量に変化のあるループドライブに対して変化をつけたカットで返球することは難しい。


写真:佐藤瞳/提供:ittfworld

特に、回転量の少ないボールに対しては緩い下回転の掛かったカットでしか返球することが出来ない場合が多い。加えて、浅いボールに対して高い打点でカットすることは難しいため、ラリーが続いていくとカットが浮いてしまう。

また、ミドルに来たボールというのは返球が難しいうえに、早い打点で打たれると時間的な余裕がないため、浅く浮いたカットになりやすい。

伊藤はこの浅く浮いた変化の少ないカットをスマッシュするパターンで試合を有利に進めていたのである。

3. スマッシュは両サイドに打つ


写真:得意のスマッシュが炸裂した伊藤美誠(スターツ)/提供:ittfworld

浅く浮いたカットに対して伊藤は、佐藤の両サイドにスマッシュを打って得点していた。

一般的に、カットマンのミドルに強打を打つのがカットマン攻略のセオリーの一つだが、カットマンのレベルが上がっていくと、ミドルに強打を打つと逆に変化のついたカットで返球されてしまうことがある。

これはミドルのボールに対しては横回転を加えたカットで返球しやすいからである。


写真:佐藤瞳(ミキハウス)/提供:ittfworld

一方で、両サイドに来たスマッシュに対しては、返球自体はしやすいものの、変化をつけることは難しい。事実、両サイドに打たれたスマッシュを何度も佐藤が返球するも、最終的には伊藤が打ち抜く場面が多々見られた。

伊藤は一発のスマッシュで打ち抜くのではなく、何度も連続してスマッシュするパターンで得点を重ねていたのである。

まとめ


写真:伊藤美誠(スターツ)/提供:ittfworld

今回挙げた伊藤のカットマン攻略法は、変化のついたカットを見極めて攻撃するのではなく、いかにして相手に甘いカットをさせてスマッシュに繋げるか、緻密に練られた戦術であった。

読者の皆さんの中でもカットマンが苦手な方がいるかもしれないが、相手の変化カットを攻略するという意識ではなく、相手に変化をつけさせず、自分の得意なパターンに持ち込むという意識で是非参考にして欲しい。

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