伊藤美誠、リオ金・丁寧にリベンジ 秘訣は"確かな技術力"と"強気な戦術転換" | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

大会報道 伊藤美誠、リオ金・丁寧にリベンジ 秘訣は“確かな技術力”と“強気な戦術転換”

2020.03.14

文:ラリーズ編集部

白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。

先日行われたカタールオープン準決勝にて、伊藤美誠(スターツ)vs丁寧(ディンニン・中国)という対戦カードが実現した。試合は4-0で伊藤がリオ五輪金の丁寧を圧倒するという衝撃の結果となった

昨シーズンの伊藤の活躍を振り返ると、ワールドツアーにおいては優勝1回、準優勝3回と安定した成績を収めており、2020年1月発表の世界ランキングでは3位と自己最高位を更新するなど、好調を維持している。

一方で丁寧との対戦成績は、3勝11敗と大きく負け越している。直近でも1月に行われたドイツオープン準々決勝で対戦し、4-1で丁寧が勝利している。前回対戦で負けている丁寧に伊藤がどのようにして雪辱を果たしたのか。前回対戦時と比較しながら解説していく。

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2020ITTFワールドツアー・カタールオープン準決勝:伊藤美誠vs丁寧


写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

詳細スコア

○伊藤美誠4-0丁寧
11-6/14-12/11-0/11-5

1.サーブからの得点率のアップ


図:伊藤のサーブ得点率/作成:ラリーズ編集部

今回の勝因の一つとして挙げられるのが、サーブからの得点率の大幅なアップである。

前回対戦(ドイツオープン準々決勝)時の伊藤のサーブからの得点率は44%(48本中21得点)であるのに対して、今回の対戦における得点率は76%(38本中29点)と大幅に向上している。そのうちサーブから三球目以内の得点は29得点中21得点である。


写真:巻き込みサーブを有効に使った伊藤美誠/提供:ittfworld

前回対戦時、伊藤は様々なサーブで丁寧を崩そうと試みていたが、今回の対戦では序盤から巻き込みサーブをメインに使用していた。この巻き込みサーブは変化が激しく、リオ五輪金の丁寧でさえもレシーブミスを連発していた。

更に、レシーブミスを恐れて丁寧は合わせるだけのレシーブしか出来ず、伊藤がスマッシュで打ち抜く場面も何度も見受けられた。このようにサーブからの展開を有利に進めることが出来たのが、今回の勝因の一つと言っても過言ではないだろう。

2.試合序盤:丁寧のバック側に徹底的にボールを集める


図:伊藤の序盤のコース取り/作成:ラリーズ編集部

ドイツオープンでの対戦で、伊藤は左利きである丁寧のフォア側繋ぎのボールを送ってから、バック側を攻める作戦を取っていた。しかし、結果的には丁寧の長いリーチを生かしたフォアドライブに押されてしまい、ラリーの主導権を握られる形となっていた。


写真:威力あるフォアドライブを放つ丁寧/提供:ittfworld

今回の試合の序盤、伊藤は丁寧のバック側を徹底的に攻めていた。しかもピッチの早いボールを送ることで、丁寧が回り込んでフォアドライブを打てないようにしていた。これにより伊藤は丁寧のフォアドライブを封じることに成功したのである。

またサーブのコースもバック前主体であった。前回対戦時はフォア前が主体であったが故に、丁寧にバック側へ厳しくレシーブされていた。バック側への厳しいボールに対してバック側へ返球するのは難しいため、丁寧にフォアドライブを打たれていたのである。


写真:レシーブに苦しんだ丁寧/提供:ittfworld

一方で、バック前のサーブに対して丁寧はバック側へ厳しくレシーブできないため、伊藤は自分の有利な展開からラリーを始めることが可能になった

こういった徹底的なバック攻めの中で、ピッチの早いボールに対して丁寧がついていけなくなり、返球が甘くなればすかさずスマッシュを決める理想的な展開で、試合序盤、伊藤は主導権を握ることに成功した。

3. 試合中盤以降:ラリーの早い段階でフォア側へ強打


図:伊藤の終盤以降のコース取り/作成:ラリーズ編集部

サーブからの速攻で大量得点を量産した第1ゲームとは異なり、徹底的なバック攻めに対して丁寧が粘りを見せ、第2ゲームはジュースにもつれ込む接戦となった。9-10の場面で伊藤は、これまでのバック側への攻めから一転してバックハンド強打で丁寧のフォア側を打ち抜いた


写真:バックハンド強打で打ち抜いた/提供:ittfworld

これ以降、ラリーの早い段階から丁寧のフォア側を強打で打ち抜く場面が多々見受けられた。これは試合序盤から丁寧にバックハンドを使わせたことでその球質に慣れ、強打出来ると判断したためであろう。

試合序盤からのバック攻めだけでは丁寧に対応され始めていたが、このフォア側への強打に対して丁寧は試合全体を通じて対応することが出来なかった。

伊藤は、前述のバック攻めで丁寧の逆襲を防ぎつつ、強打をフォア側に送るパターンで完全に試合の主導権を握ることに成功したのである。

まとめ


写真:準優勝となった伊藤美誠/提供:ittfworld

今回の伊藤の勝利は、前回対戦時からの対策と試合中盤での強気な戦術転換の賜物だと考えられる。伊藤の確かな技術力と戦術実行力、競った中でも強気の戦術を実行できるメンタルの強さが際立つ試合であった。

中国トップ選手を圧倒する試合を見せ、その実力を世界に知らしめた伊藤。今後の活躍が楽しみである。

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