文:てふてふ
<世界卓球選手権ダーバン大会2023>
5月28日に閉幕した世界卓球2023ダーバン大会。多くの名勝負が生まれた中で、全ての卓球人の心を一際強く奮い立たせた試合があった。
全日本女王・早田ひな(日本生命)が当時世界ランキング3位の王藝迪(ワンイーディ)を1時間以上にわたる死闘の末、フルゲーム21-19で破って銅メダルを勝ち取った1戦だ。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
世界卓球2021ヒューストン大会でも同じ相手に敗れた早田。それ以降、2度目の全日本選手権優勝を筆頭に、パリ五輪選考レースでも圧倒的首位を独走し、確実に実績を残してきている。
今大会でのプレーは、中国選手と同水準まで迫ったと言えよう。今回は、そんな早田の王藝迪戦の勝因について徹底分析していく。
世界卓球2023女子シングルス準々決勝
〇早田ひな(日本生命)4-3 王藝迪(ワンイーディ・中国)
4-11/11-3/11-9/6-11/11-9/8-11/21-19
注目の3つのポイント
この試合では早田の高い基礎技術力が際立ったが、その中でも注目したいのが「サービスの変化」、「フォアの緩急」、そして「クロスへのバックハンド」だ。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
1つ目は、早田のサービスの細かな変化だ。中国選手相手にも主導権を握らせなかったサービスの変化について解説する。
2つ目は、この試合の趨勢を決めたとも言える隠れたポイント「フォアの緩急」だ。特に際立ったのは第3ゲームであり、試合後半の展開を作る上で不可欠な要素と言える。
3つ目は、拮抗したバック対バックの展開を打開した「クロスへのバックハンド」だ。これにより王の強力な回り込みフォアドライブを封じると共に、ミドル攻めによってミスを誘発した。
それぞれのポイントについて詳しく見ていこう。
第1のポイント「サービスの変化」
第1ゲームは王のフォア前のサービスに対し、厳しいレシーブを送れなかった早田。レシーブミスこそほとんどなかったものの、3球目以降の王の厳しい攻めに翻弄され、あっという間に4-11でゲームを落とした。
嫌な流れで始まった試合だったが、第2ゲーム1−3で迎えた早田のサービスから早くも試合展開が動いた。
写真:早田ひな(日本生命)のサービスシーン/提供:WTT
第1ゲームから早田のフォア前サービスに対して積極的なバックハンドでのレシーブを見せた王に対して、早田はバックへのロングサービスを出したのだ。
甘くなった王のレシーブを早田がストレートのバックドライブで鮮やかに得点した。
この1点を皮切りに、これまでフォア前のショートサービス中心だった早田は、フォアサイドのハーフロングサービスも多く出すようになった。王はロングサービスを警戒して回り込めない上に、回り込んでもハーフロングサービスに対して詰まる形となり、厳しいレシーブを送れず、早田が驚異の10点連取。ゲームカウント1−1とした。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
早田のサービスの球速が速く、サービスの長短の判断が難しいことも、サービスで主導権を奪えた要因であろう。
バックサイドへのロングサービス打数はわずか2本だったが、王に深く印象付けることで、以降のゲームで終始バックの強いレシーブを防ぐことに成功した。
第2のポイント「フォアの緩急」
第2ゲームでサービスの変化に加え、王のフォア前サービスに対してチキータを使い始めた早田は、第3ゲームも序盤からチキータと逆チキータを交えて王にプレッシャーを与えた。
対する王は早田のフォアからミドルにかけて強打を打ち込んでいく。ここで早田が選択したのは回転をかけた山なりのフォアドライブで粘るプレーだった。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
回転をかけて王のバックに高く深く入る早田のフォアドライブは決定力こそないが、王にフォア側が抜けないイメージを植え付けることに成功し、さらに中陣から許昕(シュシン・中国)さながらのカウンタードライブで得点したため、王は得点パターンを見つけられなくなったのだ。
このプレーが功を奏し、以降の展開で早田はバック反面を中心に王の強打に対応に専念できたと言える。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
第3のポイント「クロスへのバックハンド」
第3ゲーム、第4ゲームで早田のフォア側への強打をほぼ完璧にいなされた王は、早田のバックに徹底して打球を集めることで、得意のラリー戦に持ち込む戦術転換を見せた。
加えて、早田のバック前への縦回転サービスを中心にサービス戦術も大きく転換。早田はバック対バックで対等に勝負するも、バックに集まったボールを要所で王に回り込みフォアドライブで決められる展開が増えた。
両者ともに得点パターンが一致し、同様の展開が続きながらゲームカウントは3−3となった。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
勝負の第7ゲームで早田が最後に切ったカードは、王のファアサイドを狙う戦術であった。
王のフォア側を攻めることのメリットとしては、
①王の回り込みフォアドライブを減らすことができる
②広角に攻めることで王のフォア強打後のバックハンドを狙い打ちする
③両ハンドの切り返しを意識させることでミドル攻めが活きる
などが挙げられる。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
第7ゲーム序盤から王のバックへのツッツキや温存していたロングサービスを出し惜しみなしにたたみかけ、5−2と早田がリードした。そこからはバック対バックで早田がミスさせられ、気がつけば8−10で崖っぷちに。
しかし、これまで直接得点に結びつかなかったフォア攻めがじわじわと効き始め、ラリー戦でわずかに王を上回る。王の9度のマッチポイントを凌ぎ、最後は王のフォアカウンターをフォアサイドにノータッチブロックで劇的勝利を収めた。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
早田ひな vs 王藝迪まとめ
写真:世界卓球2023女子シングルス表彰式の様子/提供:WTT
全体を通して早田の良さが十二分に発揮された試合であったが、1本でも戦術の選択を誤れば全く逆の結果にもなり得ただろう。
そんな紙一重の勝負を見事勝ち切った自信を備え、今後更なる成長が見られることが早くも楽しみだ。