白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。
今回は2020ITTFハンガリーオープン決勝で平野美宇(日本生命)/石川佳純(全農)ペアが、中国香港の杜凱栞(ドゥホイカン)/李皓晴(リホチン)ペアを破り、優勝を果たした試合を振りかえる。
>>石川佳純の妹・梨良率いた青学女子卓球部 38季ぶりリーグ優勝への軌跡
2020ハンガリーOP決勝 石川佳純/平野美宇 vs 杜凱琹/李皓晴
写真:石川佳純・平野美宇と杜凱琹・李皓晴(写真右)/提供:ittfworld
詳細スコア
◯石川佳純/平野美宇 3-0 杜凱琹/李皓晴(中国香港)
11-6/11-9/12-10
両ペアともに高い攻撃力を持ち、先手を取った方が得点する場面が多かった試合となった。特に、平野と杜はバックドライブが決定打となるという点では似たプレーをした。
立ち上がり、日本ペアにとっては理想的であった。
石川の的を絞らせないサーブ・レシーブから平野のバックドライブのパターンと石川の連打で5-0と大きくリードした。勢いそのままに1ゲーム目を奪った。
写真:杜凱琹・李皓晴ペア/提供:ittfworld
2ゲーム目も平野のバックドライブを中心に5-2とリードする展開からスタートした。しかし香港ペアのサーブの変更から6-9と逆転を許してしまう。ここで簡単に主導権を渡してしまわないところに東京五輪女子団体戦最有力ペアの安定性を感じさせられた。2ゲーム目を11-9で取り優勝に王手をかけた。
3ゲーム目はそれまでのゲームと異なり、日本ペアが追いかける展開が続く。ナックルサーブを中心に台から出るボールを積極的に狙ってくる香港ペアに押された。7-9と差が詰まらないまま終盤へ進んでいった。
ここから平野のサーブ・レシーブが光り逆転し、デュースとなるが最後はピッチの早いラリーでチャンピオンシップポイントを奪い、初のワールドツアー優勝に輝いた。
写真:ガッツポーズを見せる石川佳純・平野美宇ペア/提供:ittfworld
先日のドイツオープンでは中国の孫穎莎(スンイーシャ)/丁寧(ディンニン)ペアを破り準優勝だった石川・平野ペア。昨年もワールドツアーには出場していたが、安定感が大きく増した印象が強い。少しリードを許しても簡単にはゲームポイントを落とさない。そんな印象すら与えた二人の決勝戦を解説したいと思う。
1. 先手を取らせないストップレシーブ
図:石川の先手を取らせないストップ/作成:ラリーズ編集部
先に記したように、この試合の日本ペアの得点源は平野のバックハンドだった。ではなぜレシーブからの展開でも、何度も平野がバックハンドを振ることができたのだろうか。その理由は石川のレシーブにある。
3球目で先手を取ることを狙っている香港ペアが打ちあぐねる低く短いストップレシーブを石川が繰り出しチャンスにつなげた。試合全体を通して香港ペアのサーブはナックルサーブが多かったが、石川は浮かせることなく高精度のストップレシーブで対応した。
具体的には、第2ゲームの6-9の場面。チキータレシーブを李に強力なカウンタードライブで打ち抜かれた直後のポイントだった。
ドゥのサーブを李のミドル前にしっかりとストップした。台の中央付近のストップを前に入りながら返した李のツッツキは、平野の強力なバックドライブの格好の的だった。
もし質の低いストップをして打ち抜かれてしまい6-10となっていれば、7-9とは逆転の可能性も低くなる。勢いでゲームポイントとしたい相手にとっては、嫌なポイントだっただろう。
2. 勝負所での緩急
写真:石川佳純・平野美宇ペア/提供:ittfworld
次はたった1ポイント、筆者が試合を見てこの1本が大きかったと思うポイントを取り上げる。
先に点数を言ってしまうと第2ゲーム8-9の1本だ。
6-9と香港ペアがリードしていた場面から8-9と日本が追い上げたタイミングで香港ペアがタイムアウト。タイムアウト明けの一本目だった。
石川のサーブを李が回り込んでバックでストップレシーブしようとするもそれが若干台から出てしまった。大きく出てはおらず、軌道も高くはない難しい球だった。
強力なバックハンドで得点を重ねた平野だったが、この一本だけはバックハンドでループドライブを放った。それまでスピードドライブを受けていて、いきなりあの緩急をされてはまず取れないのではないだろうか。
回り込んでまでストップしにいったところを見ると、香港ペアとしては平野のドライブを防ぎたかったことが見て取れる。そこをまともにストップさせない石川のサーブ、そして平野の落ち着きに安定感を感じずにはいられない。
写真:表彰式で笑顔を見せる石川佳純・平野美宇ペア/提供:ittfworld
試合後、平野が「フォアで強打を決めて下さるのでいつも隣にいてすごく心強い」とコメントすれば、石川は「バックハンドが美宇ちゃんはすごく上手い。勝負どころ緊張したところでいいプレーをしてくれたので、気持ち的にも思い切ってできました」と双方の技術的な長所とメンタルが噛み合っての初優勝であったことを伺わせた。
東京五輪団体戦でもペアを組むことが有力視されている石川/平野ペアの優勝で、日本女子チームにとって明るい材料が増えた。