文:ラリーズ編集部
白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。
ドイツオープン2020で接戦となった、丹羽孝希vs林高遠(リンガオユエン・中国)の1戦。丹羽の林との対戦戦績は3勝6敗。その勝利はジュニア世代の時のものだ。それ以降は勝ち星を挙げることはできていない。今回、丹羽はジュニア時代以来の林からの勝利に肉薄。その要因は何かを徹底分析する。
丹羽孝希vs林高遠 試合の概観
写真:丹羽孝希/提供:ittfworld
詳細スコア
丹羽孝希 3-4 〇林高遠(中国)
7-11/11-9/11-7/5-11/12-10/16-18/8-11
静かな立ち上がりを見せた、1ゲーム。リスキーに回り込んでフォアハンドを打ったり、バックハンドで広角に打ち分ける丹羽の攻めのプレーが目立った。林はそれに対して冷静に対処。林が1ゲーム目を先取する。
2ゲーム目。丹羽は速い打点でカウンターに加え、打点速いバックハンドを林のバックサイドに集める。要所で回り込みのフォアハンドを打ち、サーブではハーフロングで出して、林がドライブしたのをカウンターで狙い撃つ。バックサイドに狙いを絞った戦いで、丹羽は2ゲーム目を奪取した。
3ゲーム目は丹羽がサーブに変化を加え、下回転主体だったサーブの中に上回転のサーブも混ぜる。林はレシーブで失点し、混乱に陥った。畳み掛けるように丹羽がバックハンドに緩急をつけてミスを誘う。台上のストップ対ストップでも丹羽からは打ちに行かず、林のフリックを待って冷静に対応。時々厳しくバックサイドへのツッツキを送り、カウンターブロックで狙い打つ。このゲームも丹羽が有利に試合を運び、丹羽のゲームになった。
写真:林高遠/提供:ittfworld
4ゲーム目は、一転して林がバックハンドのミスを修正してくる。それに対して丹羽はバックハンドの速いピッチでのラリーをして、応戦。しかし、ミスが減った林の時折来るフォアハンドの激しい一撃で沈黙させられる。林がこのゲームを取る。
ゲームカウントが2-2で迎えた第5ゲーム。お互い慣れてきた中での戦いが始まる。丹羽はサーブからの展開で主導権を握る。フォア前とミドル前のサーブでは、再びサービスエースを重ね、ハーフロングのサーブから林のドライブをカウンター。序盤で点差を離すが、ミスが減る林とは競り合いになる。最後はネットインの幸運に恵まれる形で5ゲーム目を丹羽が取った。
第6ゲームも点差がなかなか離れないゲームに。台上ドライブでフォアサイドを狙い、バックサイドのボールに対してもフォアハンドを振り抜く積極的なプレーで林に対抗する。バックサイドで優位性を保つ戦い方は崩さず、マッチポイントを握るも奪うことはできず、勝負は第7ゲームへ。最終ゲームはミスを修正した林に対して、活路を見いだせないゲームになった。林にフォアハンドを振り抜かれる場面が目立ち、林が勝利を収めた。
丹羽の戦術 1. バックサイドに林を閉じ込める
図:丹羽の1ゲーム目のバックハンド/作成:ラリーズ編集部
図:バックサイドに閉じ込める戦術/作成:ラリーズ編集部
一貫していたのが1の戦術。中国選手の中では軽量級でどちらかと言えば鋭さが特徴の林。しかし、中国のお家芸とも言えるフォアハンドドライブは林も強みにしている部分だ。
その林にフォアハンドを満足に振らせないのが丹羽の戦術コンセプトにあったように見える。その意味では1ゲーム目は伏線になっていた。
広角にバックハンドを打ち、ミスもあったがそれは2ゲーム目以降のバックサイドに林を閉じ込める罠だった。1ゲーム目を見ていたことで、林は容易にバックサイドのボールに回り込んでフォアハンドを振れなくなった。
そこに畳み掛けるように丹羽はバックハンドに緩急をつけて林のミスを誘った。林のミスが減ってもそのコンセプトは一貫していた。これが今回接戦になった大きな要因だ。
丹羽の戦術 2. サーブレシーブで前後に揺さぶる
図:前後への揺さぶり/作成:ラリーズ編集部
加えて2つ目の戦術。サーブレシーブで前後に揺さぶる。フォア前サーブからストップされたボールをバックにツッツキを送り、ブロックとカウンターのラリーに持ち込んだ。自分からは打ちにいかず、フリックを待ち構えてカウンターを浴びせた。冷静に攻守を判断してミスをせず、林を混乱に陥れて6ゲーム目まで優位にゲームを進めた。
結果こそ敗戦だが、打点の速いラリーやカウンターなど丹羽の素晴らしさも随所に出る試合になったと言えるのではないだろうか。
林高遠の勝因
写真:林高遠/提供:ittfworld
1. バックサイドは我慢、フォアサイドのラリーで失点しない
2. 大きなラリーにして丹羽を引きずりこむ
対照的に我慢を強いられたのが林。思うようなプレーができない中でもミスしない卓球に転換して「負けない卓球」をした。
1つ目。2、3ゲームは丹羽のバックハンドに対してミスが出て、ナーバスになっていた。しかし、4ゲーム目から適応し不用意なミスが減った。バックサイドで回り込めなくても、ミスをしないようにラリーをしてフォアへ来るボールは逃さず得点。苦戦しながらも負けない卓球に徹した。
2つ目は丹羽の特徴に合わせての対応だろう。中陣でラリーになれば有利な点を生かして、ラリーになっても焦らず返し続けた。林のドライブが生きる、自分の強みを活かす戦術も併用した。
全体として林にとって苦しい試合だったが、それでも勝つのは今までの苦い経験を生かして成長した部分か。得意を出せなくても、負けない中国の強さを象徴する試合だった。
まとめ
冷静さを持ったリスキーなプレーが光った丹羽。一方で、攻守のバランスを取りながらプレーして無駄なミスはしなかった。捨て身ではなく、地に足つけた状態で中国選手に勝つビジョンが見えてきたようにも思える。相手を動かさないという戦いは勇気も必要だが、冷静さを失わずにゲームを支配した。
対する林高遠も今回のような我慢の戦いに勝ったことは収穫になっただろう。両者が今後どのように成長していくのか、次はどんな戦いをするのか楽しみだ。