卓球大会報道 水谷リベンジV 「2つの張本対策」と「1分間の攻防」
2018.03.04
取材・文:川嶋弘文(Rallys編集部)
<LIONカップ 第22回ジャパントップ12卓球大会・3月3日(土)・駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場>
水谷隼が張本智和を下し、4度目の優勝
3日、全日本卓球選手権の上位進出者を中心に国内トップ選手が集うジャパントップ12が開催され、水谷隼(木下グループ)が4度目の優勝を遂げた。
<ジャパントップ12 決勝のスコア>
水谷隼4(8-11/11-8/5-11/11-6/11-9/11-5)2張本智和
水谷は昨年6月の世界卓球選手権ドイツ大会、今年1月の全日本選手権で二連敗中だった張本智和(JOCエリートアカデミー)を決勝で下し、試合後の会見では「ホッとした」「自分もまだまだやれることを示せた」と安堵のコメントを残した。
1月の全日本で完敗した張本に対し、水谷が今大会どのような戦術で試合に臨み、リベンジを果たすことができたのか、水谷、張本両選手のコメントをヒントに分析した。
徹底した2つの張本対策
1月の全日本での対戦時、水谷は張本の2つの技に苦しめられた。その2つとは水谷のサーブを強打する『チキータ(バックハンドで強烈なスピンをかけたレシーブ)』と、ラリー中の『バックハンドドライブ』だ。
水谷はこの2つの張本の武器に対し、今大会は徹底した対策を講じた。
1つ目のチキータに対して水谷は、チキータを打たれにくいサーブのみを出し続けた。チキータはサイドスピンのかかったサーブには滅法強い。サーブの回転を利用して打てるためだ。一方でサイドスピンがかかっていない低い真下回転のサーブに対しては強打するのが難しく、威力が半減する。
水谷はこの試合、得意とするサイドスピンサーブを封印し、サイドスピンをかけない真下回転系のサーブを出し続けた。
しかも、張本の”慣れ”を防ぐために、サーブのトスの高さや回転量を巧妙に変えながら出すことで、張本のチキータミスを誘った。得点源であったチキータでの失点が増えて焦った張本がフォアハンドでのフリックレシーブ(回転をかけずにボールを弾き打つレシーブ)に切り替えてミスをする場面も見られた。
これが「シンプルなサーブでチキータを封じられたのが一番の勝因」と水谷がコメントした真相だ。
また、張本2つ目の武器であるバックハンドについて、水谷は「全日本の時は(張本のバックハンドが)フォアとバックどちらに来るかわからなかったが、今回はヤマを張ってカウンターを狙った」とコメントしている。
1月の全日本ではコースの読みにくい張本の高速バックハンドに対し、水谷は台から下がってしのぐプレーで対応し、張本に連続攻撃を許していた。一方、今大会の水谷は台から下がらずにリスクを取って前陣でプレーし、張本の攻撃をカウンターで打ち返すよう心がけた。これにより張本の高速バックハンドに対する得点率が上がるのと同時に、張本にプレッシャーをかける効果もあり、優位に試合を進められた。
水谷は張本のバックハンドに対するカウンター以外にも「レシーブもいつもより半歩前に構え、得意ではないチキータを多用した」「ミスもあったがチキータがあると思わせるだけでも効果があった」と挑戦者として積極的なプレーが出来たことを勝因の一つに挙げた。
勝負を分けた「1分間の攻防」
この試合、勝負を左右した重要なシーンがあった。それはゲームカウント2対2で迎えた5ゲーム目の終盤だ。7ゲームスマッチ(4ゲーム先取)のため、このゲームを取った方が王手をかける重要な場面だ。
水谷は10-5とリードした瞬間、「この試合初めて勝てるかもしれない」と思い一瞬気が緩んだという。卓球ではリードしている方が「勝った」と思った瞬間から試合の流れが変わり、逆転が起こるシーンがよく見られる。卓球が”メンタルスポーツ”と言われる所以でもある。
このゲームを落とすわけにはいかない張本は、水谷の一瞬の気の緩みをきっかけに試合の流れを引き寄せ、3点連取で10-8まで追い上げる。この場面で水谷は、たまらず1分間のタイムアウトを取り、流れを変えようとした。
しかしそれでも一度張本に傾いた流れは変わらず10-9となる。「このままだと追いつかれる」と水谷が思った瞬間、意外な出来事が起きた。
流れを掴んでいた張本がタイムアウトを取ったのだ。
張本は試合後の会見でこのシーンについて「水谷さん相手に普通にやったら5点連取出来るはずがない。相手の考えていないようなことをしないと勝てないと思った」と強気で取ったタイムアウトだったことを明かした。
このタイムアウトの後、水谷は「張本が考えてきたことを全く外そうと思った」とのコメントの通り、それまで1本も使っていなかったYGサーブ(サイドスピンのかかったチキータのしやすいサーブ)を出した。予想を外された張本はチキータでなんとか返球するも、「張本はチキータで返してくる確率が高い」と読んでいた水谷はフルスイングのフォアドライブで狙い打ちこのゲームを11-9で制した。その勢いで6ゲーム目も11-5で取り、勝利を掴んだ。
卓球日本男子の真のエースとは?
張本は敗戦後の会見で、2月のチームワールドカップでエース起用されたことについて「真のエースは団体戦で2本取る選手。世界卓球(団体戦、4月29日開幕、開催国:スウェーデン)で水谷さんよりも勝ちたい。僕も水谷さんも2本取って、世界で勝ちたい」とコメント。水谷へのライバル意識と、勝利への意欲を示した。
会見場に入ってきた張本は疲労と敗戦のショックを隠し切れない様子だった。しかし記者の質問に答えるうちに張本の様子が変わっていく。
「羽生結弦選手もケガとか色々なことを乗り越えて、五輪二連覇して本当にすごい。僕も東京五輪まで色々なことがあると思いますが、羽生選手のような強いメンタルで乗り越えたい」と語って会見場を後にした張本の眼光は鋭さを取り戻していたように見えた。