【シリーズ/徹底分析】“心臓に毛が生えている”伊藤美誠、大逆転勝利の裏にあった2つの変化【ライオン卓球ジャパンOP荻村杯・女子シングルス準決勝】


<LION卓球ジャパン・オープン荻村杯 北九州大会、2018年6月6日〜10日、北九州市立総合体育館>
白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。

今回は、ジャパンオープン・女子シングルス準決勝の伊藤美誠(6月度世界ランキング6位・スターツSC)と陳幸同(同10位・中国)の試合に迫る。

陳幸同は2017年12月のプロツアー・グランドファイナル準々決勝にて伊藤を4-1で下し、ベスト4入賞の実績を持つ21歳で、中国の主力選手だ。

ゲームカウント0-3という圧倒的不利な状況で伊藤は何を変え、そしてどのように勝利したのか、そこには2つの変化があった。

ジャパンオープン・女子シングルス準決勝:伊藤美誠(スターツSC) vs 陳幸同(中国)

LIONジャパンオープン荻村杯2018の陳幸同(中国)。彼女は日本の平野美宇(日本生命)のコピー選手だと言われていた。
写真:松尾/アフロスポーツ


<スコア>
伊藤美誠(スターツSC) 4-3 陳幸同(中国)
8-11/9-11/6-11/11-9/11-9/11-7/11-7

変化1:回転がわかりづらいサーブを徹底して出し、甘いレシーブを誘った

サーブの名手である伊藤は同じフォームから異なる回転の種類を出すことができる。
図:ラリーズ編集部


卓球に限らず、どのスポーツでも、相手の苦手なところを徹底して突くのは鉄則だ。

序盤、伊藤は陳幸同に対してまったく歯が立たなかった。陳は「守備範囲の広さ」「ボールの威力」「安定感」と三拍子揃った選手であり、この試合でも序盤、陳の安定したプレーの前に伊藤はなす術がないように思われた。

しかし、伊藤は追い込まれながらも陳幸同の弱点を冷静に見極めていた。それは陳のバックサイド手前に来たアップサーブ(前進回転がかかり、強引に短く止めようとをすると甘く浮いてしまうサーブ)に対するレシーブの甘さである。試合序盤に伊藤は数本アップサーブを出し、効き目を実感していたのだろう。

加えて伊藤はサーブの名手でもある。同じフォームからバックスピンのかかったサーブも出せれば、球足の速いロングサーブも出すことができる。

伊藤は第4ゲーム以降、このアップサーブを要所で徹底して出し続けたため陳は困惑し、単調なレシーブが目立つようになった。陳のレシーブが甘くなると伊藤がラリーでも主導権を握るようになって来たのだ。

一見、強いサーブを出して得点する、というパターンは単調で当たり前に思えるかもしれない。

しかし一度考えてみてほしい。国際大会の舞台、ゲームカウント0-3で絶体絶命のピンチに置かれれば「同じことをずっとやっていて慣れられないだろうか」という不安な感情が誰しも出てくるのではないだろうか。そこを意志を持って相手の苦手なサーブを繰り出し続けるのは精神的にも難しいことだろう。

変化2:多様なレシーブで相手を翻弄し、レシーブでも主導権を握った

勝負のポイントはレシーブにあった。多様なレシーブで相手を翻弄した。
図:ラリーズ編集部


実はゲームカウント0-3、そして10-9と伊藤がゲームポイントを握った時、伊藤がこの試合ほとんど使っていないチキータレシーブ(ボールの横を擦り、サイドスピンをかけるレシーブ技術)を繰り出したのだ。

このボールはネットインだったため、陳はボールに触れることすらできなかったが、なぜ伊藤は今までほぼ実行していなかったレシーブをしたのか。

第4ゲーム、ややリードを奪って心理的に余裕があったこともあるが、伊藤は試合後のインタビューで、「最初から色々な技術、戦術を出したつもりだったのだけど、意外と自分では気づかなかったが、出しきれていなかった。なので第4ゲームは負けてもいいから色んなことをやって、積極的に攻めていこうと思っていた」と語っている。

実は伊藤のレシーブに注目すると、1~3ゲーム目までは、ほとんどがストップレシーブ(先に攻めさせないよう、低く短く返球するレシーブ)や、ツッツキレシーブ(バックスピンをかけて、相手のコートに深く、ゆっくりとしたスピードで返球するレシーブ)が中心で、陳の打ちやすい展開を作り出してしまっていたのだ。

これに気づいた伊藤は、

・変化のあるチキータレシーブ
・サイドスピンをかける逆チキータレシーブ
・ボールを弾くようにして速いスピードで打つフリックレシーブ

など、多様なレシーブを繰り出し、陳に的を絞らせないようにしたのだ。

これら2つの変化によりサーブ・レシーブともに主導権を握った伊藤は見事中国の主力選手に逆転勝利を飾ることができた。

しかし、「言うは易く行うは難し」ということわざがあるように、基本的に見えることでも、それを実行し続ける度胸がなければいけない。

驚くべきは、それを忠実に実践できる度胸を、たった17歳の女子高生が持ち合わせているということだ。

伊藤がドイツオープンを14歳で制した際に当時の村上恭和女子監督が評した「心臓に毛が生えている」というメンタルの強さが、今も健在であることをこの試合でも証明した。

これからも伊藤の止まらぬ進化に注目だ。

文:ラリーズ編集部
写真: 千葉格/アフロ

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