卓球ニュース 【シリーズ/徹底分析】“中国キラー”張本が逆転優勝飾った2つの秘訣とは【ライオン卓球ジャパンOP荻村杯・男子シングルス決勝】
2018.06.12
文:ラリーズ編集部
<LION卓球ジャパン・オープン荻村杯 北九州大会、2018年6月6日〜10日、北九州市立総合体育館>
白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。
今回は、ジャパンオープン・男子シングルス決勝の張本智和(6月度世界ランキング10位・JOCエリートアカデミー)と張継科(同102位・中国)の試合に迫る。
張継科は30歳を迎えるベテランプレーヤーで、2011年・13年世界卓球2連覇、ロンドン五輪金メダル、2011年・2014年ワールドカップ優勝など、華々しい戦績を持つ。
準々決勝で絶対王者・馬龍(同2位・中国)、準決勝で韓国のエース・李尚洙(同8位)に勝ち、勢いに乗っていた張本。加えて決して張継科は勢いだけで勝てる選手ではない。一体張本は勝負所で何を考え、実行していたのか。
ジャパンオープン・男子シングルス決勝:張本智和(JOCエリートアカデミー) vs 張継科(中国)
<スコア>張本智和(JOCエリートアカデミー) 4-3 張継科(中国)
9-11/8-11/11-9/11-4/10-12/11-7/13-11
打点が早く、スピードのあるバックハンドを送り、コースを限定させる
試合序盤、張本は元世界王者の安定感に苦戦。ミスが目立ち、2ゲームを先取されてしまう。ここで消極策に追い込まれれば待っているのはさらなる窮地だ。ここで張本はシンプルながらも思い切った作戦に出る。張継科は張本のチキータや威力のあるバックハンドを封じるために、サーブ・レシーブともにフォア前(フォアサイドのネット寄りの短いボール)を狙っていたこともあり、張本は、思い切った攻撃ができていなかった。序盤はこれを繋ぎ返したり、回転をかけて安定したボールで返すことが多かったのだ。
ゆっくりとしたボールは確かに安定性は高いが、張継科からするとタメを作って打てるため、格好の餌食になってしまう。
そこで、第3ゲーム以降はこのフォア前に来たボールを張継科のバックに強打するように変えたのだ。スピードのあるボールを出すことで、相手が余裕を持って打てる時間を無くし、返してくるコースを張本のバックサイドに限定することができる。
張本は、こうして張継科の返球コースをうまく限定し、その球を待って、バックハンドでストレートに攻撃したり、回り込んで強打したり、自分の思うような展開を作り出して行くことができた。
勝負所で相手の球を見極める
「見極め」や「選球眼」は卓球では大事なスキルだ。だが言うは易く行うは難し。実戦でこれを行うのはプロでも至難の技だ。だが張本がやってのけたシーンが2つある。ゲームカウント3-3、11-11の場面で、張本が張継科のロングサーブを読んで、バックサイドにあらかじめ回り込んでフォアドライブしたのだ。
通常、バックサイドに来たボールは、バックハンドで打球するのが鉄則だ。回り込んで打つと、フォアサイドがガラ空きになるため、リスクが高いからだ。
しかし、張本は体全体を使って威力が出せるフォアハンドを使うことを選択したのだ。
張本は試合後、このポイントについてこう語っている。
「張継科選手は経験豊富な選手で、競った時こそ思い切った戦術を取ってくると読んだ。それが(張本の)バック側にロングサーブだと予測したので、回り込んで待っていたら、そこに球が来ていた」
とても14歳とは思えぬ冷静な分析である。そして、それをワールドツアー決勝の舞台、4,000人もの観客が張本を見守る中でやってのけたのは尋常ではない。
また張本の勝負強さを表していたもう一つのポイントがゲームカウント3-3、9-10と張継科にマッチポイントを握られた場面だ。プレーヤーなら誰しも、このポイントで何をするか迷うだろう。
しかし張本は一味違った。この試合張継科の得意なチキータレシーブを封じるために張継科のフォア前にサーブを集めていたのだがここでバック前(バックサイドのネット寄りの短いボール)に思い切り回転をかけたサーブを出したのだ。
張本渾身のサーブであったと同時に、今まであまりバック前にサーブをされてこなかったからか、張継科の反応が少し遅れ、甘いレシーブになったのだ。張本はそこを見逃さず、得点した。
試合後張本はこの場面を振り返りこう語った。「驚異的なメンタルを誇る中国選手に今までやってきたことをしても仕方ない。ここはミスしてもいいから今まであまり出してこなかった思い切り回転をかけたサーブをあのコースに打とうと思った。」
その度胸に驚嘆する他ない。
張本はまたこう語る「自分は中国選手とボールが合っているので得意な方だ」と。しかし、そこにはただ技術的な進化以上に、「同じことをしていても最後の最後で勝てない」という張本の勝負師としての直感があったのではなかろうか。
張本が世界の頂点に立つ日はそう遠くないかもしれない。
写真:松尾/アフロスポーツ