卓球ニュース 【シリーズ/徹底分析】格上を倒し続ける伊藤美誠に多い”良いミス”とは【ライオン卓球ジャパンOP荻村杯・女子シングルス決勝】
2018.06.13
文:ラリーズ編集部
<LION卓球ジャパン・オープン荻村杯 北九州大会、2018年6月6日〜10日、北九州市立総合体育館>
白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。
今回は、ジャパンオープン・女子シングルス決勝の伊藤美誠(6月度世界ランキング6位・スターツSC)と王曼ユ(同3位・中国)の試合に迫る。
伊藤は2017年ジャパンオープンの準々決勝で王曼ユに敗れているが、さらに今年5月の香港オープン、6月の中国オープンでも立て続けに王曼ユにシャットアウトされたばかり。今大会ではなんとしても雪辱を晴らしたいところだ。
伊藤は17歳、王曼ユは19歳と世界トップクラスの大会の決勝戦はティーンエイジャー同士の対決となった。幼い頃から度々対戦を重ねる両者。手の内が分かっている中で、伊藤は何を考え、実行したのか。
ジャパンオープン・女子シングルス決勝:伊藤美誠(スターツSC) vs 王曼ユ(中国)
<スコア>伊藤美誠(スターツSC) 4-2 王曼ユ(中国)
11-7/12-10/8-11/11-7/6-11/12-10
先手を取るための徹底したストップ
伊藤が警戒すべきは王曼ユの女子選手離れしたパワーのあるフォアハンドドライブだ。少しでも甘いボールを出してしまえば、その強烈なフォアハンドドライブの餌食になってしまう。加えて、フォアハンドが強い選手を波に乗らせてしまうと、流れを断ち切るのは至難の技だ。いかに王曼ユの勢いを削ぐのかがこの試合のポイントだった。
そこで伊藤はレシーブで王曼ユのフォア前(フォアサイドのネット寄りの短いボール)へのストップ(相手の攻撃を防ぐために台の上で短く止めるように打つレシーブ)を中心に試合を組み立てていく。
王曼ユはフォア前に来たストップに対してあまり強打をせず、無難につなぎ直すことが多かったので、伊藤はその甘いつなぎを見逃さずに先手を取り、ラリーを優位に展開して行ったのだ。
リスクを背負い、相手の引き出しを潰していく
レシーブで大事なことはまずサーブをしっかり相手コートに返球すること、であるが、プロの世界ではただ返すだけでは相手の得意な展開に持ち込まれてしまう。そこでレシーバーにとって大事なのは、いかにサーブのコースを限定させて、自分の得意な展開に持っていくことができるレシーブをするのかだ。
実は伊藤は勝負所で相手サーブのコースを限定させる作戦を実行していたのだ。
ゲームカウント2-1で迎えた第4ゲームの7-4の場面、伊藤は王曼ユのバック側に来るロングサーブを予測し、通常のバックハンドでの処理ではなく、フォアハンドで回り込んで強打した。
本来この場面で回り込むことは、フォアサイドをガラ空きにしてしまう上に、スピードのあるロングサーブに対して回り込むことは、時間の余裕もなく、ミスの確率が非常に高いため、普通の選手はバックハンドで対応するものだ。
しかし伊藤はミスを覚悟で威力のあるフォアハンドを打つために回り込んだ。
王曼ユはスピードのあるロングサーブを出したので、不意を突き甘いレシーブになると思っていたのだろう。待ちが外れてあっさりポイントを取られた。
このようなポイントがあると、よほどの度胸がない限り、もう一度同じところに同じロングサーブを打つ気持ちにはとてもならない。
実際、王曼ユはこの後、伊藤のバックサイドを狙ったスピードのあるロングサーブはほとんど出せていない。
こうすることで伊藤はある程度王曼ユのサーブコースを予測することができ、試合を優位に進めることができた。
相手が実力者であればあるほど、ミスをしない。自分より安定している選手に対して、ミスしないように消極的にプレーしていては勝てないのだ。
格上に挑むプロ選手が多くミスをしているように見えるのも、実は少しでも相手の引き出しを潰すために、リスキーな攻めをしているからだ。これはある意味“良いミス”とも言えるだろう。
ミスすることは実は悪いことではない、流れを引き寄せるためにアグレッシブに攻めて出たミスは、実は試合の流れを変えるための布石になっている。
伊藤はそんな“良いミス”が多い選手とも言えるのではないだろうか。
写真:新華社/アフロ