文:ラリーズ編集部
Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。
今回は9月7日に行われた琉球アスティーダVS岡山リベッツ戦の中から、朱世赫と上田仁のビクトリーマッチ(1ゲーム限りの延長戦。以下、VM)を取り上げる。
朱世赫は2003年の世界選手権・男子シングルスで銀メダル、最高世界ランクは5位と、世界最強カットマンと呼び声の高い選手。39歳となった現在は、国際大会には出場しないものの、その豊富な経験を活かしてTリーグでプレーしている。
対する上田仁は、堅実な攻めと正確なコース取りが得意な選手。岡山リベッツではキャプテンを務め、昨年のチーム準優勝に大きく貢献した。
この2人が1ゲーム勝負という特殊なルールの中、互いにどのような戦術を取ったのか解説する。
ノジマTリーグ 琉球アスティーダ 対 岡山リベッツ:朱世赫VS上田仁
写真:朱世赫が上田仁に勝利/提供:©T.LEAGUE
詳細スコア
〇朱世赫 1-0 上田仁
12-10
激闘のVMをダイジェストで振り返る
1. 上田仁によるカット攻略法 “初球ミドル攻め”
写真:上田仁のカット打ち/図:ラリーズ編集部
上田は、一貫して朱世赫のミドルを攻めるというシンプルな戦術を取った。しかしミドルの攻め方に特徴があり、カット打ちの展開では上田がほとんどの得点を挙げていた。
その特徴とは、カット打ちの初球をほぼ必ずミドルに打ち込むというもの。この攻め方をすることで、朱世赫の体勢を崩し、早い段階で朱世赫を後陣に下げさせた。
朱世赫を後陣に下げるメリットは大きく2つある。1つは広角な攻めが効くようになること。カットマンは下がった分守備範囲が広くなるため、広角な攻めに対応することが難しくなる。実際に上田は初球でミドルを突いた後、バックかフォアに攻めることを徹底していた。
後陣に下げるメリットの2つ目は、カットの弾速が遅くなること。後陣からのカットは大きく放物線を描くため、必然的にその速度は遅くなる。遅いカットは踏み込んで打つことができるため、威力のあるドライブを打ち込むことができる。
上田は限られた1ゲームという試合の中で、初球ミドル攻めの戦術を徹底した。結果は朱世赫に負けてしまったものの、カットを苦にする様子は見られなかった。
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2. 朱世赫のサーブ戦術
写真:朱世赫のバックサーブ/図:ラリーズ編集部
対する朱世赫は、上田にカットでの勝負は分が悪いと感じると、中盤で戦術を変更。それまでカットの展開に持っていくためのサーブを、攻めて点を取るためのサーブに変更した。中盤から朱世赫は3球目で積極的な攻撃を見せるようになる。
そこで上田に効いたのがバックサーブ。朱世赫はフォア前とバックへのロングサーブをうまく配球し、上田のレシーブミスを誘った。またフォア前に出す際はテンポを速くすることで、上田の合わせるだけのレシーブを誘発するなど、巧みな技術が光った。
朱世赫のバックサーブはコースが非常に読みづらく、上田はフォア前とバックへの切れた下回転ロングサーブにまさしく翻弄されていた。VMで朱世赫は、バックサーブで3本のサービスエースを奪っている。
朱世赫はまさしくベテランの技術と駆け引きで勝利を掴んだといえるだろう。
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まとめ
VMは互角の接戦となったが、サーブの巧みさが光った朱世赫に軍配が上がった。
9月7日現在、朱世赫はTリーグ個人成績2位につけている。これからもベテランカットマンの活躍に注目だ。