値千金の勝利挙げた吉村真晴の徹底した戦術とは<琉球 vs TT彩たま> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:吉村真晴(琉球アスティーダ)/提供:©T.LEAGUE

大会報道 値千金の勝利挙げた吉村真晴の徹底した戦術とは<琉球 vs TT彩たま>

2020.02.18

文:ラリーズ編集部

Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。今回は2月16日のノジマTリーグ・琉球アスティーダ vs T.T彩たまから、吉村真晴(琉球アスティーダ)と神巧也(T.T彩たま)の第3マッチにスポットライトを当てる。

勝ったチームがファイナルへの切符を手にできる、どちらにとっても負けられない一戦。T.T彩たまが第1マッチ、第2マッチをともに勝利しており、早くも王手をかけていた。第3マッチで有延大夢(琉球)が勝利するも、窮地に変わりない琉球はここで勝利して何としてもヴィクトリーマッチにつなげたい場面だ。

そんな局面で迎えたのが吉村真晴と神巧也のキャプテン対決。両者ともにサービスエースが多いビッグサーバーで、15日の段階で神がサービスエース82本で1位、吉村が66本で3位につけていた。水谷隼(木下マイスター東京)にも勝利し、シーズン13勝でマッチ勝利数トップの神を、吉村は徹底した戦術で完封した。両者の命運を分けた秘訣に吉村のサーブレシーブが挙げられる。

ノジマTリーグ 琉球アスティーダvs T.T彩たま:吉村真晴VS神巧也

詳細スコア

○吉村真晴 3-0 神巧也
11-3/11-8/11-4

キャプテンの意地!崖っぷちでの大勝利をもう一度!

1.神の待ちを外すレシーブ:フリック&チキータ


図:吉村のレシーブの配球/作成:ラリーズ編集部

この試合では、吉村は重要な1ゲーム目から徹底して神のバック側を狙った。神の武器となるフォアハンドを封じるためだ。神はバックサイドもフォアハンドで回り込むことが多く、この重要な第4マッチは序盤から勢いをつけるためにフォアハンドを多用することを見透かしての戦術かもしれない。

吉村のレシーブは、フォア前~ミドル前のサーブに対して速いフォアフリック、バック前のサーブに対しては速いチキータが多く、神は打点を落とさず質の高い返球をするためにはバックハンドを使わざるを得なかった。しかし、バックハンドではフォア程威力が出ないため、吉村はバック対バックでその後のラリーで優位に立つことができた。

この展開を嫌った神はリスクを負ってでもバックサイドをフォアハンドで回り込む必要があった。そこで有効だったのがフォアへのフリックだ。これから回り込みをしようという選手の立ち位置は、両ハンド待ちの選手の立ち位置よりもバック側に偏る。そこでフォアへのフリックを混ぜられることで、フォアへの飛びつきを警戒せねばならず、結果的に回り込み・飛びつきの両方ともに3球目攻撃の質が落ちてしまう。質の落ちた3球目攻撃を吉村は見逃さずにカウンターや、ストレートへのブロックにつなげたのだ。

このようにして徹底的に神をバックにくぎ付けただけでなく、さらにフォア側への警戒をさせることで吉村は神の強みを封じたのだ。

2.神の待ちを外すレシーブ:ストップ


図:吉村のストップ後のラリー/作成:ラリーズ編集部

もう1つの有効だったレシーブはバック側へのストップレシーブだ。フリックやチキータに対してなかなか先手を取れない神はストップや、やや長いハーフロングのストップに対して積極的に仕掛けに行った。

しかし、先手を取ったつもりの打球も、吉村が台から少し離れた場所からカウンターで返球。逆にストップ対ストップでは、神が先に台から少し出してしまい、吉村は速いドライブではなく、あえて回転量の多いループドライブで返球した。このループドライブの狙いも、やはり少し焦っている神の待ちを外すことにあっただろう。タイミングを外された神のブロックをミスさせることとなった。

3.強気のレシーブをさせないサーブ


図:吉村のサーブ配球図/作成:ラリーズ編集部

吉村のサーブにも注目してみよう。この試合で、吉村のサーブはほとんど神のバックサイドに集まっていた。サーブを散らさないことには、吉村のような多彩な技を持つ選手以外が相手なら3球目を待ちやすいというメリットがある。

神のレシーブはストップやツッツキ、チキータがほとんどでバック前のレシーブはチキータが多かった。実際に吉村のショートサーブは順回転で、ミドル前とバックサイドを切るコースがほとんどであった。この2つのコースに絞ると、サーブの軌道が似ているため、フォアストップとチキータのどちらでレシーブするかを神に迷わせ、ミスを誘うことができた。加えて絶妙なタイミングでロングサーブを混ぜることで強いレシーブを防いだと言える。

まとめ

ともに高い実力を誇る吉村と神の試合は意外にもあっさりと決着がついた。その命運を分けたのは派手なラリーでの得点率ではなく、サーブレシーブのような1球目攻撃、2球目攻撃だった。

ラリー力では互角の力を見せた神だが、吉村の質の高いサーブレシーブを前にいつも通りのプレーをできなかったことが響いたのではないか。吉村のサーブレシーブが少しでも甘かったら、おそらく結果は異なっていただろう。卓球の難しさや奥深さがいたるところに見られた名試合だった。