取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)
25日、2020年のTリーグ初戦を勝利で終えた張本智和(木下マイスター東京)が報道陣の囲み取材に応じた。東京五輪開幕まであと半年と迫った今、世界ランキング5位(日本人最高位)の張本は何を思うのか。
「オールラウンド」から再び「張本スタイル」へ
写真:張本智和(木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部
張本の2020年は全日本選手権から始まった。2018年大会では決勝で水谷隼を破って史上最年少優勝を遂げた張本だったが、昨年はTリーグのチームメイトである大島祐哉に敗れて3位。王者返り咲きへ強い決意で臨んだ今年も、同じくチームメイトでエリートアカデミーの先輩にあたる宇田幸矢に決勝で敗れ「タイトルを奪いきれなかったので自信には繋がらない」と悔しさをにじませた。
そんな失意の全日本を経て、張本が新たに決意したことがあるという。
「『やっぱりバックを忘れない』というのが全日本を終わって感じたこと。今日はミスをしても良いのでバックで強く打つというのを考えてプレーした」。
世界を驚かせた高速バックハンドを主体とした“張本スタイル”の復活だ。
張本は昨年のワールドツアーを転戦する中で、弱点をカバーすることに重きを置いて自身を成長させてきた。具体的には世界トップクラスのバックハンドに頼るのではなく、相手に狙われるフォアハンドや緻密な台上プレーの強化を図った。技術的に大きな穴がなくなり“オールラウンド”なプレーが可能となったことで、元々頭の良い張本に戦術の引き出しが増えていったのだ。
その結果、バックハンド主体で攻めて得点するだけでなく、フォアハンドでの得点やじっくりラリーに持ち込み相手のミスを誘うなど、新たな得点パターンが多く見られるようになり、試合結果にも結び付くようになった。
「全日本まではバックだけではなく、台上、フォア全て使うべきと思っていて、(12月の)グランドファイナルでもそれでいいプレーが出来た。でも(五輪まで)あまり時間は無い。短所をカバーするのも大事ですけど、得点が一番出来るところを一番重点を置いてやりたい。」
再び高速バックハンド主体のプレースタイルを追求するのにはもう1つ理由がある。それは、世界中のライバルたちが張本のフォアハンドを警戒しはじめていることだ。
「短所も最近はレベルが上がってきた。相手もフォアを注意してきたところで、またバックで得点が出来ると思っています」
相手の注意がフォアハンドに向けば向くほど、得意のバックハンドがより活きてくるのだ。
>>張本智和、悔しさにじむ準V 「また一からやるしかない」<全日本卓球2020>
足りなかったのは「勝つために変える勇気」
写真:水谷の戦況を見つめる張本智和(左)と丹羽孝希(ともに木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部
張本は全日本を通じて、もう一つ大きな気付きを得た。それはメンタル面についてだ。
「準決勝(戸上隼輔・野田学園高)、決勝(宇田幸矢・JOCエリートアカデミー/大原学園)は自分がずっと受け身だった。『勝つために変える勇気』が足りなかった」と追われる立場での戦い方を学んだという。
「誰も僕が高校生だと思ってプレーしてくれない。それはわかった上で今年の全日本は臨んだんですけど。相手は向かってくるのでそこは難しかったです。最後の2人(戸上、宇田)は特別高校生だったというのがあって、誰よりも向かってくる。技術もありますし、それでメンタルも良かったのでそれが揃った時に自分が立て直せなかった」。
高校生にして常に追われる立場。これは奇しくも高校時代に当時最年少で全日本チャンピオンとなった水谷隼も通ってきた道だ。そんな水谷の背中を、張本は目に焼き付けるようにベンチから見つめていた。
この2〜3年で身長もグングン伸び、今や報道陣を見下ろしながら囲み取材に応じるようになった。日本卓球界の若きエースはまだまだ伸び盛りだ。