戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」
今回は、カットマンの選手が守備範囲を広げるために練習すべきポイントというテーマでお話していく。
これまでも、カットマンを攻略するための攻めるべきポイントや戦術についてお伝えしてきた。今回はそれをふまえて、カットマン側からの目線に立って鍛えどころを考えてみよう。
カットでなかなか勝てないという方や、チームにいるカット選手の実力をなんとか引き上げたいと考える指導者の方はぜひご一読頂きたい。
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このページの目次
カットマンが守備力を高めるために必要なポイント①ミドル処理
まず第一に重要なのが、ミドルに打ち込まれたボールの処理だ。
カット打ちに限った話ではないが、攻撃側が最も簡単に点数を取れるコースは紛れもなくミドルだ。右利きならパンツの右ポケットのあたり、フォアとバックどちらで打つかの判断が非常に難しいコースだ。ことカットマンならば、徹底的に攻められることが予想される。
写真:庄司有貴(中国電力)のカット(写真は2020年後期日本リーグ)/撮影:ラリーズ編集部
カットマンの練習は、フォアツッツキからバックカット、バックツッツキからフォアカットのように、前後左右に大きく動く練習に注力しがちだ。もちろん大切な練習だが、ミドルのボールを処理する練習を多く取り入れるべきだと筆者は考える。
やり方は、まず多球練習から始めるのが良いだろう。バックサイドからドライブボールをミドル含めた全面に送ってもらい、それをしっかりとカットで返す。バックカットで返球する際はしっかり足を使って動くことを、フォアカットを使うときは右足を素早く引くことを意識して対応しよう。
写真:庄司有貴(中国電力)のフォアカット(写真は2020年ファイナル4決勝)/撮影:ラリーズ編集部
ある程度返球ができるようになってきたら、ツッツキも織り交ぜてもらって、より実戦に近づけていこう。
そしてもちろん、バック側からだけでなくフォア側から送球してもらうパターンも同様にやってみよう。ひとくちに「ミドルを狙われる」といっても、バック側からの打球とフォア側からの打球でボールの性質が変わるのは当然である。両方にしっかりと対応できるように練習しよう。
写真:牛嶋星羅(昭和電工マテリアルズ)のバックカット(写真は2020年後期日本リーグ)/撮影:ラリーズ編集部
カットマンが守備力を高めるために必要なポイント②前陣での処理
次にお伝えしたいポイントが、前陣での処理だ。
写真:ハン・イン(トップおとめピンポンズ名古屋)/提供:©T.LEAGUE
言うまでもなくカットマンの主戦場は、中陣から後陣だ。そのため、普段の練習でも台から離れた位置でボールを捌く練習を誰しもやっていることだろう。ただ、実際の試合では、前陣にいるときに威力あるボールで決められることも多いはずだ。
ツッツキで前に寄せられて打ち込まれたり、あるいはショートサーブからの3球目攻撃など、前陣で守りが手薄な段階でラリーを終わらせられるパターンだ。カット攻略が上手い選手ほど、とにかくカットマンに万全に守りの準備をさせない。
たとえば、ドイツのハン・イン選手は、前陣でのしのぎが非常に上手い。それほど足の動きが速い選手ではないので、前陣に寄せられ、バックを詰められる場面が多く見られる。しかし、そんなときでもラケット面の角度を合わせて、低い軌道で相手のチャンスにならないようなボール返球する。これが非常に上手いと感じる。
写真:ハン・イン(ドイツ)/提供:ittfworld
前陣で1本しのげるかは、試合に大きく関わってくるので、ぜひとも鍛えておきたい。
これも同様に多球練習で、前陣に構えてドライブを打ってもらい、しっかりと返球することのできる角度を覚えることから始めよう。ある程度角度がつかめてきたら、全面に送球してもらうなど、少しずつ実戦に近づけていいこう。
カットマンが守備力を高めるために必要なポイント③球質を増やす
最後のポイントとしては、球質を増やすことだ。
バックに来たボールはバックカット、フォアに来たボールはフォアカット、というやり方では一辺倒になるので攻撃側も慣れてくる。そのため、できるだけ返球するボールのバリエーションを増やしたい。
写真:英田理志(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
例えば、フォア側に来たボールはカットだけではなく、ドライブやフィッシュなどの上回転での返球も混ぜてみよう。相手としてはカットの下回転への対処と、上回転のボールへの対処では、ラケット角度やスイング、卓球台との位置などを調整する必要が出てくる。そのため当然、ミスを誘いやすくなるのだ。
また、そもそもフォアに浅く入ってきたドライブに対してはカットで低く返球するのが難しい。なので返球のしやすさという点でも是非覚えておきたい。
写真:フォアのカーブロングでの得点も目立つ侯英超(ホウエイチョウ・木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部
あるいはフォア側に来たボールも、足を使ってバックカットで処理するのも良いだろう。バック面には粒高ラバーを貼っている選手が多いため、フォア面とバック面の球質の違いで、相手にミスを誘うことができるだろう。
ちなみにフォア側もバックカットで処理することの利点としては、攻撃に転じるときの武器になるとうことが挙げられる。
相手のツッツキやストップがフォア側に浮いて返ってきた際を想像してみてほしい。チャンスだと思い、素早く前陣に駆け戻ってフォアドライブで攻めようとするのは良いが、実はこれが意外と難しいのだ。これはフォア側をフォアハンドで打つため、卓球台が邪魔で窮屈になっているからだ。ラケットを台にぶつけないようにしないといけないし、台が邪魔で大きく踏み込むこともできない。
そこでバックハンドの出番である。フォア側のチャンスボールを、回り込んでバックハンドで打つようにすれば、台が邪魔にならないため、スイングも制限されず、大きく踏み込むこともできる。相手からも、コースを読むのが非常に難しく有効な技術だ。
ただし、攻撃面はあくまで延長線上として、まずはカットでしっかりと粘って得点ができるようになることを最優先に考えよう。どこに打たれてもまずは返す。その上で相手にミスをしてもらう確率を上げるために、球質を増やすという考え方が大切だ。
まとめ
いかがだっただろうか。今回はカットマンが守備力を高めるためのポイントについて考えてみた。
カットマンで強い選手を想像すると、T.T彩たまで活躍する英田理志選手や、全日本選手権で張本智和選手をあと一歩まで追い詰めたシチズン時計の御内健太郎選手など、攻撃力のある選手がどうしても目立つ。憧れる部分もあるだろう。
写真:御内健太郎(シチズン時計)/撮影:ラリーズ編集部
ただ、カットもしながら攻撃もする場合、並外れた身体能力が必要で、普段から練習すべきことが相当増えてしまう。もちろん攻撃も最低限は必要だが、まず目指すべきは主力の武器であるカットの守備力を上げることだ。そのうえで、攻撃面も少しずつ強化していけば良い。
トッププロのレベルでは、守りだけで勝つのは相当厳しいので、攻撃の割合を増やしていく必要がどうしても出てくる。しかし初級者~中級者レベルであれば、そこまでせずとも十分に勝ちを重ねることは可能だ。優先順位として最も大切なのは、どれだけ打ち込まれようと守って守って守り抜いて勝ち切ることができるまで、守備力を高めることだ。
今回の記事が悩めるカットマンや指導者の助けとなれば幸いである。
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若槻軸足インタビュー記事
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