27日の全日本選手権、男子シングルス5回戦で日本を代表するトップ選手、張本智和(IMG)にゲームカウント1-4で敗れた村松雄斗(La VIES)。
「負けると自分の存在意義が分からなくなる。現役引退を何度も考えた」試合後、そう口にするほどの苦しみの中、何が村松を動かし続けているのか、その心根に迫った。
写真:5回戦で村松雄斗(La VIES)に勝利した張本智和(IMG)/撮影:ラリーズ編集部
「ベストを尽くしてきた。でももっと上に行きたい」
村松雄斗、日本を代表するカットマンの一人だ。
ジュニア時代は将来を期待され、ユース五輪では銀メダルを獲得。
実業団の強豪チーム・東京アートに所属し、世界選手権に2度出場した。
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
日本代表として、世界ランキング21位まで上り詰めた実力者だ。
しかし近年は長く膝の怪我に苦しめられ、思うようなプレーができない時期が続いている。
写真:張本智和(IMG)と対戦する村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
今大会は5回戦で張本に敗れ、肩を落とした。
「本当はもっと粘りたい。でも昨日(26日)より膝が痛くて、思うように動けなかった」
実は年末、医者に8週間休むよう診断されたが、1週間のみ休養を取り、痛み止めを使いながら全日本に臨んだ。
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
「年末に良い練習ができず、張本との試合も勝てなかった。ここ数年、応援してくれる人の期待に応えらず、悔しい」苦しい胸の内を明かした。
それでも、2018年のTリーグでは、日本人キラーと称される黄鎮廷(ウォンチュンティン・中国香港)に勝利し、2021年はアジア選手権日本代表権を自力で勝ち取るなど、ジュニア時代の輝きを彷彿とさせるプレーを見せてきた。
写真:アジア選手権日本代表選考会での村松雄斗/提供:長田洋平/アフロスポーツ
「目の前の試合で自分のベストを尽くしてきた。でももっと上に行きたいという思いもありました」
東京アートの休部、2度目のブンデスリーグ挑戦
そんな村松に追い打ちをかけるような事態が起きる。
2022年2月、高校卒業後から7年間所属してきた東京アート卓球部が、突然の休部を発表した。
「びっくりしました。すぐに先のことは考えられなかったけど、チャンスだと捉え直して、もう一度海外に挑戦しよう。そう思い、ブンデスリーグ参戦を決めました」
写真:東京アート所属当時の村松雄斗/撮影:ラリーズ編集部
日本でプレーするという選択肢もあっただろう。
「日本は言葉も通じるし、快適だからすごく迷いました。でもプロ選手として沢山試合に出て、結果を出したかった」
ブンデスリーグ2部昇格チームのマインツ05に加入し、4年振りのブンデスリーグ参戦を決めた。
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
迎えた2022‐2023シーズン、前半戦ではシングルス14勝3敗、10勝を挙げた2位の選手を大きく引き離し、個人成績1位に輝いた。
「結果を出して久々に注目されて、素直に嬉しかったですね」少しばかり笑顔を見せ、自身の活躍を振り返った。
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
しかし現在チームはリーグ最下位と、苦戦が続いている。
村松自身が勝ち星を重ねてもチームが勝てない、そんな状況にもどかしさを感じないのだろうか。
「チームメイトに対して、何で負けるんだよとは全く思わない。みんな常に全力だし、負けたくて負けてる訳じゃない。残りの試合も自分が勝って、チームを少しでも引っ張っていきたい」
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
自身も満身創痍ながら、エースとしてチームメイトを労いながら、前を向く。
何が村松を動かすのか
数多くの挫折を経験し、今も怪我と向き合いながらプレーを続ける村松。引退を考えることもあるだろう。
「引退を考えたことは何度もあります。怪我を言い訳にしたくないし、自分も26歳になって、年下で自分より強い選手も増えてきた」
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
それでも、村松は現役を続ける。
「今辞めたら絶対に後悔する。もう辞めても後悔は無い、これ以上は上を目指すのは無理、そう思ったら辞めるけど、まだ何か変えられる、もっと頑張れる。その思いがある限り、現役を続けます」
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
「負けても応援してくれる周りの人達や、ファンの方々がいるから、もう一度頑張ろうと思える。一人でやっていたら、勝っても嬉しくないし、負けても悔しくない。」
支えてくれる人達への思いも明かした。
「応援してくれる方々に結果を示して、期待に応えたいという気持ちが一番強い。それがプレーを続ける理由です」
来シーズンはブンデスリーグの強豪チーム、ザールブリュッケンとの契約を掴んだ。村松を必要とするチームで、また新たなスタートを切る。
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部
たとえ五輪代表でなくても。日本代表でなくても。
度重なる挫折にもがき苦しみながら、それでも上を目指し、がむしゃらにラケットを振り続ける。
その姿は、少なくとも私たち卓球ファンにとって、十分な存在意義である。
写真:村松雄斗(La VIES)/撮影:ラリーズ編集部