文:ラリーズ編集部
<ITTFワールドツアー・スウェーデンオープン 2019年10月1日~10月6日>
白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。
今回はワールドツアー・スウェーデンオープンで、長﨑美柚(10月世界ランキング50位・JOCエリートアカデミー/大原学園)が元世界ランク1位の朱雨玲(ジュユリン・中国)を破った試合を振り返る。
6月のジャパンオープンで初対戦となった両者の対決で、下馬評を覆して長﨑美柚が勝利したことは記憶に新しい。
今回のスウェーデンオープンでも、朱雨玲を下したのは決して偶然ではない。そこには17歳とは思えない完成度の“3本の刃”があった。
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スウェーデンオープン2019 女子シングルス1回戦:長﨑美柚 vs 朱雨玲
写真:朱雨玲(中国)/提供:ittfworld
詳細スコア
○長﨑美柚 4-2 朱雨玲(中国)
11-8/11-5/7-11/7-11/11-9/11-5
1.回転量が多く、コースやバリエーションに富んだサーブ
図:長﨑美柚のサーブの配球/作成:ラリーズ編集部
この試合、大きな勝因となった“1本目の刃”が質の高いサーブだろう。6月のジャパンオープンで対戦経験があるにも関わらず、朱は長﨑のサーブを思うようにレシーブできなかった。
一般的に右利き対左利きの試合では、ラケット面の角度を調整しづらいフォア前からミドル前にかけてサーブを出すのがセオリーだ。この試合でも両者はセオリー通りのサーブで攻めた。
特に長﨑のサーブは回転量が多く、相手の手元での変化が大きい。試合の序盤から長﨑は回転に変化をつけながら、徹底して朱のフォアミドル前に順横回転系のサーブを出した。順横回転の中でも下回転が強いものや純粋な横回転など様々な種類を混ぜ、ツッツキやストップが中心の朱のレシーブを乱すことに成功した。
しかし4ゲーム目は、朱が思い切ったレシーブを見せ主導権を握り、長﨑は3,4ゲーム目を奪われてしまう。
5ゲーム目以降、長﨑は朱のバック前に下回転の強い順横回転サーブを織り交ぜた。フォア側への意識が強くなっていた朱は、バック前のサーブに対し反応が遅れ、長﨑の強打を防ぐべくストップを試みるがネットミスを連発した
サーブの回転量に少しずつ変化を入れ、コースも的確に散らすことで、終始サーブを有効に使えていたと言える。
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2.先手を取るためのチキータ
図:長﨑のレシーブのイメージ図/作成:ラリーズ編集部
長﨑の”2本目の刃”は、リスクを恐れないチキータレシーブだ。
この試合、長﨑が台上プレーからラリーの主導権を握り、1,2ゲーム目を連取していた。
流れを変えたい朱は、普段多用している順横下回転サーブではなく、順横上回転や縦回転がない順横回転を多用し、ストップに偏っていた長﨑のレシーブを崩した。レシーブからの展開で優位に立っていた長﨑は、一転して先手を取れる機会が減り、一気に3,4ゲーム目を返される。
そこで長﨑が5ゲーム目から取った戦術は、フォア前の順横回転系のサーブに対して、チキータレシーブを徹底したことだ。
ミスもあるが、回転量の多い長﨑のチキータを嫌った朱は、5ゲーム目中盤から再び下回転系のサーブを増やす。そこを見逃さなかった長﨑は再びストップなどの台上プレーで主導権を握り、一気にラリー戦で優位に立った。
3.決定率の高いフォアハンドを活かすバックドライブ
図:長﨑のバックハンドの配球/作成:ラリーズ編集部
質の高いサーブ・レシーブに加え、朱を連破した“3本目の刃”は、フォアドライブを活かすバックドライブだろう。
1ゲーム目から回転量の多いフォアドライブで得点を重ねた長﨑に対して、朱は長﨑のバックに速いテンポで返球を見せる。バック対バックに持ち込み、長﨑に万全の態勢でフォアドライブを打たせないようにしたのだ。
それに対し長﨑はバックドライブを起点にフォアドライブを打てるようラリーを組み立てた。
バック対バックに持ち込んだ朱に対して威力のあるバックドライブを両サイドに打ち分け、朱の打球を甘くする。次の返球をフォアで狙い、朱のバック側を攻めた。
フォアハンド一辺倒でなく、早い打点で質の高いバックドライブを混ぜることで、朱に反撃の隙を与えず決定打のフォアを打つことができたのだ。
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まとめ
一度勝ったことがある中国選手に、連続して勝利することの難しさは誰もが知るところだろう。
ジャパンオープンで敗れているプレッシャーと、やや精彩を欠いた印象の朱だが、7月のT2ダイヤモンドでは優勝を果たしている。また8月の全中国選手権でもシングルス準優勝と、まだまだ世界の第一線を走るトッププレイヤーだ。
今回の試合では弱冠17歳の少女が、中国のトップ選手に3つの高い技術力をもって総合力で勝利を掴んだ。JOCエリートアカデミーで腕を磨く長﨑美柚の成長から目が離せない。