卓球51%理論の真髄とは?<連載:息子が読み解く世界のオギムラ#4> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:荻村伊智朗氏/提供:アフロ

卓球ニュース 卓球51%理論の真髄とは?<連載:息子が読み解く世界のオギムラ#4>

2020.01.28

故・荻村伊智朗(おぎむらいちろう)氏の現役時代の卓球ノートが自宅から発見された。

荻村氏は選手時代に世界選手権で12個のタイトルを獲得、引退後はITTF(国際卓球連盟)会長も務めた日本卓球界のレジェンドだ。

本企画では、長男・一晃(かずあき)氏が、「ミスター卓球」とも呼ばれた父・伊智朗氏の人生を、“世界一の卓球ノート”から読み解く。第4回となる今回は、荻村氏が世界一を掴むに至った「定石」と「理論」に迫る。

定石があればさらに強くなる


写真:故・荻村伊智朗氏の卓球ノート/提供:荻村一晃

1954年8月15日からこのノートは始まる。ちょうど荻村が世界選手権ロンドン大会で個人・団体で優勝した後だ。世界一のノウハウが箇条書きによって体系化して記述されていたり、下線が引かれていたりして、当時の荻村が感じていたポイントがわかりやすく書かれているので紹介しよう。

まずは“定石”について。

全ての打球動作の次、又次をプレー中に考えるのも良いことである。だが、あらかじめ考えておくのも良い。定石があっても良い。定石があればレベルが上がる

「打球動作の次をプレー中に考える」とは、動いた後にどこへ、どのようなボールを打ち、相手がどのように返球するかを把握・予測するということだ。また「あらかじめ考える」とは、相手と戦う前にラリーのシミュレーションを行っているということだ。

定石とは「このタイプであればこのような展開になる」という想定と、その展開になるように相手のプレーを限定できるボールを打つということだ。

・例1:フォアクロスでも、サイドを切るようなボールを打てばクロスに返って来やすい。
・例2:同じコースへ打つ場合でも、逆モーション(フェイント)を使えば特定のコースに返って来やすい。

こうした定石の積み重ねで荻村は勝率を高めていった。

誤解されやすいフットワーク


写真:故・荻村伊智朗氏の卓球ノート/提供:荻村一晃

続いて荻村が最も大切にしていた足の動き“フットワーク”について。荻村のノートには、“フットワークにおいて誤りやすい四つの点”との記述がある。

①かかとをぺったり床につけてしまう。
②いづれか一方の足に重心をかけてかまえる。
③つま先を揃えてしまう。
④足を組み合わせてしまう。

生前荻村(Ogi)は「卓球はゼロコンマ何秒という“時間”が大切な競技である」と言っていた。その時間を生み出すために素早く動くための方法を常に追求していたのだ。

4点それぞれの主旨はこうだ。
①は、かかと重心になると、次の動きが遅れるということ。
②は、どの方向にも瞬時に動けるように準備をする(構えておく)ということ。
③は、次のプレーを行いやすい足の形(例えば左足前など)にしておくということ。
④足をクロスさせて着地すると、動き出しまでに一動作余分に必要になるということ。

これには更に深い意図があるので、もう少し詳しく解説しよう。

①は前後の動きに大きく結びつく。
荻村は基本姿勢を作る際に、つま先寄りの重心にしておくということを、特に注意していた。レシーブの基本姿勢を取る場合は最も長いサービスに対応できる場所に位置し、前後の移動に於ける判断を「どの程度前に行くか」だけにすることが出来る。もちろんこれに左右の移動の判断が加わるわけだが、判断すべき項目を減らすことが動き出しのスピードアップになる、という考え方を荻村は徹底していたわけだ。

②は左右の動きに大きく結びつく。
構えは両足の内側に同等に重心をかけ、右(左)へ動くのであれば左(右)足でけり出す事が動き出しの早さを生むと、荻村は指導者になった後も教えていた。

③④は次の動きへの準備に大きく結びつく。
フォアハンドを次に打つのであれば、フォアハンドを打ちやすい形で着地する。動いている時は足がクロスしていても、着地の時には戻しておく。常に次の動きを考えながらプレーする、と言うことを前提とした考え方をしていた。

カットマン徹底分析


写真:故・荻村伊智朗氏の卓球ノート/提供:荻村一晃

カット攻略を考える場合も、まずカットの分析から始める。しかもそれを体系化し、一目で認知出来るように整理していた。

具体的には以下のようにカットへの対応をAからTまでの20種類に整理し、一つ一つへの対応を考えていたのだ。まず、以下のようにカットマンのスイングの種類について大きく4つに分類する。

(1)強いボールを強く切る時
(2)弱いボールを強く切る時※
(3)強いボールを切らぬ時
(4)弱いボールを切らぬ時
※自筆のノートには「弱く切る時」と記載があり書き間違えたものと思われる

そして、更に細かく場合分けしていく。例えば、(1)の「自分が強打し、相手がカットを切る」ケースについては、自身の球種をA~Eの5種類に分類する。

A:トップスピン
B:右廻スピン
C:左廻スピン
D:バックスピン
E:回転かかっていない

これを(2)(3)(4)と続け、A~Tまで20種類に場合分けしている。

さらに弱いボール5種類を加え、基本的なスウィングの変化は25種類と続き、複合形や中間などを含めると何万種類でもあり得ると結んでいる。

カットマン攻略の「旧理論」

荻村(Ogi)のカットマン分析はこれで終わらない。カットの攻略法について3つの理論に分類していたのだ。

その3つとは「旧理論」「現理論」「将来の理論(もし可能ならば)」とノートには書かれている。現在と時代背景が違うので補足として「当時のカットマンのタイプ」を明確にしておくと、Ogiの時代ではカットマンの積極的な攻撃は少なく、カットの粘りと変化で相手にミスをさせるのが得点源だった。

相手が攻撃してこないことを前提にOgiはカット攻略の「旧理論」として「粘り負けない。ミスをしない。=失点をしない」ことを挙げている。

たとえ粘ると言ってもただ相手コートに返球し続けるだけではなく、「コース=左右・長短」「球速」「回転」「高さ」など、粘りながら変化をつけていくことになる。これらの変化も、打つ際の「強さ(強弱)の選択」「打法の選択」「打球点の選択」を考えると無限の可能性があると書かれている。

荻村伊智朗、51%理論とは

そして続く「現理論」は大きく言えば「積極的に点を取りに行く」ことになる。

理由としては「粘り合いはカットマンの土俵である」「促進ルールになったら最後は攻撃せざるを得ない」「粘り合いでは体力的に不利になる」といった考えがあった。従って「旧理論」をベースに発展させたと言うことで、全く新しい考え方というわけではない。

ここでOgiの有名な「51%理論=勝負球が51%入れば勝てる」が出てくるわけであるが、この理論には大切な二つの絶対条件がある。

条件1:勝負球以外はミスをしない。
条件2:勝負球が入ったら、それが決定球=得点となる。

この「現理論」に関して当初はコーチ達からの反対があったが、条件1の勝負球以外はミスをしないということを練習で実証し、コーチからの承諾を得た。

残念ながらノートの中には「将来の理論」に関しての記述はなかったが、Ogiが現役を退いた後、指導者になってからは、サービスと攻撃の上手なカットマンとの対戦時に、「相手をカットマンと思うな。ツッツキとカットを多く使う攻撃選手と思って対戦しろ。」と選手たちにアドバイスをしていたので、それに近いのではないかと想像する。
(続く)

>>【連載】息子が読み解く“世界のオギムラ” ~卓球ノート#1~
>>【連載】息子が読み解く“世界のオギムラ” ~卓球ノート#2~
>>【連載】息子が読み解く“世界のオギムラ” ~卓球ノート#3~

企画協力:Labo Live