文:石丸眼鏡
2021年全日本選手権男子シングルスは、及川瑞基(木下グループ)の初優勝で幕を閉じた。
今大会の男子シングルスは、宇田幸矢(明治大学)、吉村真晴(愛知ダイハツ)、丹羽孝希(スヴェンソン)、張本智和(木下グループ)ら優勝経験者がいずれもベスト8までに姿を消し、準決勝に残った4選手の誰が勝っても初優勝という誰もが予想しない展開となった。
写真:及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
初優勝を目指す4選手の激戦を制したのが及川だ。吉村、張本の王者2人を下して勝ち上がった新星が、全日本チャンピオンの称号を勝ち取った。
特に張本に勝利した準々決勝は、及川自身も「勝てるとは思っていなかった」と語る今大会最大のサプライズとなった。
今回はこの一戦のデータを基に及川の強さを紐解いていく。
躍進の及川、Tリーグでも好調を維持
及川は2020年全日本選手権男子ダブルスで優勝を飾るなど、徐々に頭角を現しつつあった。
そして今シーズン、満を持してTリーグにも参戦。加入したのはリーグ2連覇中の絶対王者・木下マイスター東京だ。厚い選手層を誇る木下の中でも、及川の活躍は目を見張るものがある。1月19日現在、シングルスでチーム2位の6勝(1位は水谷隼の8勝)、リーグ全体でも5位の成績を挙げており、新加入ながらチームの主力として活躍している。
写真:及川瑞基のサーブシーン/撮影:ラリーズ編集部
Tリーグのスタッツをみると、及川の成績にある特徴がみられた。それは、「サーブ時ポイント獲得率」の高さである。
サーブ時ポイント獲得率とはその名の通り、「自分のサーブから始まったラリーで自分が得点した割合」を示すものだ。この指標で及川は現在リーグ1位の56.8%という数字を残している。
昨シーズンのTリーグ全選手のサーブ時ポイント獲得率の平均は53.0%。及川の成績はこの数字を上回っている。及川の武器は「思考する卓球」だ。相手を分析し、サーブから展開を作って得意なラリー戦に持ち込むスタイルがTリーグでも発揮されているようだ。
準々決勝・張本戦を徹底分析
写真:及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
全日本の張本戦を詳細に見てみよう。準々決勝・及川対張本の試合データは以下の通り。
サーブ時ポイント獲得率
及川:61.9%
張本:46.5%
サービスエース数
及川:4
張本:8
レシーブエース数
及川:4
張本:3
Tリーグでも好成績を残しているサーブ時ポイント獲得率はなんと61.9%。チキータレシーブを得意とする張本を相手に、圧倒的な数字を残した。一方の張本のサーブ時ポイント獲得率は46.5%に留まっており、サーブ側でもレシーブ側でも及川が有利に試合を進めたことがわかる。
写真:張本智和(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
更に注目したいのがサービスエース数だ。この試合で及川のサービスエースは4本だったのに対して、張本は倍の8本。
サービスエース数でこれだけの差がついたにも関わらず、サーブ時ポイント獲得率は全く逆の数字になっている。この結果は、ラリー戦で及川が張本を大きく上回っていたことを顕著に示している。
写真:及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
レシーブエース数に関しては、張本はたったの3本となった。この試合で張本がレシーブでチキータを試みたのは19回で、割合にして45%。レシーブの半数近くでチキータを試みたにも関わらず、得点には繋がっていない。いかに及川が張本のチキータに対応し、ラリーに持ち込んだかが数値としても如実に表れている。
写真:及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
及川は、一歩も引かない強気のラリーで終始試合をリードした。終わってみればゲームカウント4-1の快勝、準決勝以降に大きく弾みをつける会心の試合となった。張本のサーブへの対応に苦しむ場面も多くみられたが、自分のやるべきことを徹底し続けた及川の戦術が光った一戦。新王者の強さは、しっかりとデータにも表れている。
写真:及川瑞基(写真奥)と張本智和(ともに木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
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