2020年、新型コロナウィルスの感染予防に向けた社会全体の要請により、日本の卓球界は活動の一時中断を余儀なくされた。
トップアスリートにとっては、東京五輪や世界選手権などの国際大会に加え、Tリーグや日本リーグなどの試合も中止・延期が相次ぎ一時パフォーマンス発揮の場を失った。
またインターハイに代表される学生の各カテゴリの頂点を決める全国大会と、それに紐づく都道府県予選大会も含め、当初予定されていた試合は軒並み開催できなかった。
写真:2020 卓球 デュッセルドルフ・マスターズ/提供:picture alliance/アフロ
更に、試合が行われないことでラケットやラバー、ウェアなどの卓球用品を買い替えるニーズも大幅に減り、また卓球愛好家の中にはウィルスへの警戒や家族の反対などによりプレー自体を控えざるを得ない人も大勢現れた。
だが、5月25日の緊急事態宣言解除から4ヶ月以上が経過した今、卓球界は活動再開に向け動き始めている。
大会、練習場所など卓球の現場は新型コロナウィルスとどう向き合っているのか?
活動再開の基準やガイドラインとは?
新型コロナウィルスに翻弄された2020年の卓球界を振り返り、「卓球再開」の実態に迫る。
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このページの目次
中止が相次ぐ「全国大会」 スタンス分かれる「地方大会」
新型コロナウィルスの感染拡大が全国で話題になりはじめた今年2月以降、ウィルスの影響で今夏までは多くの大会が中止となっていたが、最近では感染対策を行って開催を無事に終えているケースが全国各地で見られてきた。
今年の卓球大会の開催状況を時系列で見て行こう。
まず、ウィルスの実態がつかめていなかった2020年前半は、広範囲から不特定多数が集まる大会の開催、特に「全国大会」の開催は難しい状況にあった。日本卓球協会(以下JTTA)は主催する2020年度(2020年4月〜2021年3月)の大会30試合を公式サイトで公開しているが、既に来年2月の全国レディース四国ブロック大会を含む25試合の中止を決定している。
写真:「卓球再開」の象徴的イベントとなった「2020 Tリーグ JAPAN オールスタードリームマッチオールスタードリームマッチ」の大会風景/撮影:ラリーズ編集部
一方で、参加者の居住地が限定される地方大会では対応が分かれている。
例年6月頃に行われる中高生の夏の県総体は、代替大会を行う県と行わない県に分かれた。また大学生の大会については、春と秋に行われる学生リーグのうち春大会は全地域で中止となったが、秋大会は他地域で中止が相次ぐ中、関西学生リーグが大会開催を決め、既に全日程を終えている。
社会人プレーヤー向けの試合も各地で中止となる大会が多い中、東京都卓球連盟主催の大会では60歳以上を対象としたシニアリーグを中止する一方で、一般の社会人が参加する東卓リーグ戦や、30代以下の参加が多い全日本選手権の東京都予選は開催するなど、感染リスクの実態を踏まえた対応が行われている。
卓球トップアスリートの練習再開
不特定多数が集まる大会と比べ、メンバーを限定して行われる練習はウィルスへの対策がしやすい。それでもチーム、施設によってコロナ禍での対応は大きく分かれた。
まず高いレベルで競技力を維持しなければならないトップアスリートは、コロナ禍でどのような過ごし方をしていたのだろうか。
全国的にコロナ陽性者が増えた3月頃より、自宅から一歩も出ずにトレーニングなどの体のケアを中心に行った選手、外部との接触を断ち合宿形式で練習する選手など母体や各人の判断で対応が分かれた。また、欧州リーグを拠点に活動していた及川瑞基、英田理志は次シーズンの契約を見送り、Tリーグとの契約をするなど非常事態に母国への回帰の動きもあった。
写真:ドイツ・ブンデスリーグから帰国し、Tリーグ木下マイスター東京に加入した及川瑞基/撮影:ラリーズ編集部
トップアスリートが公に活動再開を宣言出来るようになったのは6月頃だった。日本代表チームが6月22日より味の素ナショナルトレーニングセンターで練習を再開した。また、信号器材や十六銀行などの実業団チームは6月中旬からチームでの練習を再開したとインターネットで報告している。
ただコロナ前と同様の練習は現時点では行えていない。日本卓球協会が作成したガイドラインに基づき、選手同士の距離が近いダブルスの練習を控えたり、同時に大人数で練習することを避けるなど対策が続いている。またチームを跨いでの交流などもかなり慎重な相談に基づいて行われるようになった。
練習メニューについても、6月頃はステイホーム期間の練習量低下を考慮し、ケガの無いよう少しずつフットワークなどの練習負荷を上げる選手が多かった。
卓球場、公共施設は早期に営業再開。部活動は再開遅れる
一般の卓球愛好家にとって、真っ先に練習場所として開放されたのが私営の卓球場だ。
卓球場を経営するオーナーは、家賃や人件費を賄うために売上を上げる必要があることもあり「どうやって安全を確保しつつ、営業を再開させられるか」という発想になりやすかったとも言える。実際4月11日から5月6日の緊急事態宣言期間とその前後数週間を除いて営業をしていた所が多い。
また、公共の体育館(地域のスポーツセンター、公民館等)も概ね6月〜7月頃には卓球台の個人利用が再開されるなど、ステイホーム期間に運動不足を余儀なくされた卓球愛好家に門戸を開放した。
では学校の部活動はどうだろうか。教育機関として授業が最優先となる学校では、「学業以外の課外活動で生じる感染リスクは下げたい」という発想から、部活の再開まで時間がかかった学校が多かった。6月初旬には部活動を再開していた学校がある一方で、9月現在でも未だに部活動の再開を認めていない学校もある。この学校毎の部活動再開方針の違いにより、大会開催の可否にも影響があった。
卓球の再開基準はどう設定すべきか?
それでは、全国の部活動やクラブチームはどのような基準で練習を再開すべきなのだろうか。
結論から言うと「日本卓球協会(JTTA)作成のガイドラインを参考にしつつ、各自治体・学校の感染防止方針に則ったルールを各施設・チーム内で決める」ことが望ましいと言える。
JTTA作成のガイドライン「日本卓球協会における新型コロナウィルス感染症対策」は、日本スポーツ協会が作成した「スポーツイベントの再開へ向けた感染拡大予防ガイドライン」をもとに、卓球の競技特性を加味されたものだ。
最新の情報をもとに適宜改定が行われており、既に多くのプレーヤーの指針となりつつある。
写真:「卓球再開」の象徴的イベントとなった「2020 Tリーグ JAPAN オールスタードリームマッチオールスタードリームマッチ」の大会風景/提供:長田洋平-アフロスポーツ
ガイドラインには「練習再開」と「大会再開(主催者、参加者、文書雛形)」に分かれて感染防止策が示されており、ここでは「練習再開」に絞って内容を紹介したい。
練習参加の判断基準は?
JTTAのガイドラインには、練習施設の利用再開の大前提として、「都道府県知事の感染防止方針に準拠すること」と明記されている。地域によって感染者数のバラツキがあり、対応スタンス異なるからだ。
練習参加者については、良好な健康状態であることを前提としたうえで、会場の上限人数を設定し、氏名・連絡先を把握することを推奨している。これにより、万が一練習参加者の感染または濃厚接触等が発覚した場合に、速やかに感染拡大を防止できる。
写真:「卓球再開」の象徴的イベントとなった「2020 Tリーグ JAPAN オールスタードリームマッチオールスタードリームマッチ」の大会風景/提供:長田洋平-アフロスポーツ
逆に練習参加を見合わせを求める人の基準としては、過去2週間以内に感染リスクが高い状態にあった人が該当する。2週間以内に37.5度以上の発熱などの新型コロナウィルス感染が疑われる症状があった場合や、ウィルス陽性者との濃厚接触があった場合、政府から入国制限がある国への渡航をした場合などは練習参加を避けるべきとしている。
続いて消毒や換気、マスク着用の要否など、具体的な練習環境について見ていく。
マスク、消毒はどこまでやればいい?
まずマスクについては、練習中の着用は「必ずしも必要としない」としている。これは、新型コロナウィルス対策という観点ではできる限りマスク着用が望ましいが、熱中症等を引き起こすリスクも鑑みる必要があるからだ。
一方で練習場へのマスクの持参は必須とし、練習中以外の時間や会話中にマスク着用を求めている。また指導者には練習中でも極力マスク着用を推奨している。
写真:「卓球再開」の象徴的イベントとなった「2020 Tリーグ JAPAN オールスタードリームマッチオールスタードリームマッチ」の大会風景/提供:長田洋平-アフロスポーツ
また、消毒についてだが、手指消毒薬(70%アルコールなど)を練習場入り口に配備し、手洗い場やトイレには足踏み式手指消毒器の設置を推奨する他、手洗い後に手を拭くタオルは参加者持参のものか、使い捨てのペーパータオルの用意が望ましい。定期的に消毒できる環境を用意し、複数人での共用物を減らすという対応が重要だ。
また、密になりやすい更衣室の利用は原則としてせず、練習が出来る服装での来場を推奨している。飲食についても2m以上の距離を取り、会話を避けて同じ方向を向き、向かい合わないようにするなどの記載がある。
換気や距離感の基準は?
感染リスクを下げるための選手同士の距離感や、換気ルールについても見て行こう。
まず練習場の広さに応じて、練習参加者の人数を制限する。具体的には2m以上の間隔が維持されるという目安の表記がある。
また、卓球台の間隔も4m以上を推奨しており、卓球台の横幅2台半分が目安となる。(卓球台の横幅は1.525m)
写真:2020 卓球 デュッセルドルフ・マスターズ/提供:picture alliance/アフロ
換気については、当初2時間ごとに窓を開けての換気をするとの記載だったが「30分ごと」に変更されているほか、「2方向の窓を常時できるだけ開けて連続的に室内に空気を通す」など換気を十分に行う必要性が謳われている。施設環境によってできることは異なるが、屋内競技の卓球だからこそできる限りの空気の入れ替えをしておきたいところだ。
尚、複数名が触れる箇所(ドアノブ、ロッカーの取手、テーブル、椅子等)についての消毒は推奨しているものの、ボールや卓球台の消毒方法については完璧なものは判明しておらず、各メーカーのWEBサイトを参照することとの記載がある。
例えば、卓球台の製造販売を行う株式会社三英では「卓球台の除菌には台所⽤⾷器洗剤を使⽤した除菌がお勧め」との見解を示している。手の消毒用アルコールで卓球台を拭くことに関しては「古い卓球台では台の表面を傷めることになってしまうため推奨しない」とコメントしており、慎重な対応が必要だ。
>>【関連記事】卓球台は「台所⽤洗剤による除菌」を推奨 安心・安全に卓球を楽しむために
練習方法について
最後に練習時の注意点についても見て行こう。
まず第一に「モノの共用を避けること」が感染リスクを下げる。そのため、ボールの複数コートでの混在を避けるほか、タオル、飲料の共用をしないことが大切だ。
また卓球プレーヤー特有の癖として、手汗を台で拭く、スリップ防止のためシューズの裏で手を拭くという行為があるが、いずれも衛生的によろしく無いため禁止すべきだ。またボールに触れた手で顔を触らないことも重要だ。
来年の全日本選手権でも大会種目から外れたダブルスについては、基本的には「練習を避けることを推奨する」との方針だ。再開をする場合には地域の感染状況を鑑みながら検討することも併せて推奨されている。
尚、以前ガイドライン内に表記されていた「練習中のチェンジコート、チェンジエンドは行わない。」という文言は、削除されている。
各チームでルールの作成と共有を
いかがだっただろうか?本記事で参照したJTTAのガイドラインは、感染リスクを抑えながら、できる限り従来どおりの練習を行うための指針であり、いずれも常識の範囲内とも言える内容だ。
大切なのは各チームの練習環境に合わせて個別にチーム内のガイドライン・ルールを決め、練習参加者全員が共有し遵守することだ。
特集第2回「卓球名門校は部活をどう再開したか?」、第3回「コロナに立ち向かう卓球場は今」では、部活動、卓球場の現場でどのように活動を再開しているのか、具体例に基づいて解説する。
参考文書:日本卓球協会ガイドライン
ガイドライン「日本卓球協会における新型コロナウイルス感染症対策(2020年9月17日版)」
http://www.jtta.or.jp/Portals/0/images/association/guidelines/20200530_NTCguideline.pdf.pdf
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企画協力:慶應義塾大学卓球部