文:山本零士(ラリーズ編集部)
3月21日に全国高校選抜(以下、高校選抜)が閉幕した。高校選抜の学校対抗では、第1、第2、第4、第5マッチがシングルスで第3マッチがダブルスの5本勝負になっている。そして、第1マッチにダブルス、第2~第5マッチはシングルスで行われるTリーグの解説では、ダブルスが特に重要だという話をよく耳にする。
今回は、そんな「ダブルス」の重要性について先日の高校選抜の決勝トーナメントを基に分析を試みる。
ダブルスは重要ではない?
写真:白山亜美(写真左)と青井さくら(ともに明徳義塾)/撮影:ラリーズ編集部
>>ダブルスを制す者がTリーグを制す 卓球団体戦のキーは1番ダブルス
過去のTリーグを分析した記事によれば2019-2020シーズンのTリーグでは、ダブルスを制したチームが72.6%の確率で白星を挙げている。しかし、ダブルス以外の試合でシングルスに出場する選手全員の勝率を50%と仮定して単純計算すると、ダブルスを制したチームが勝利する確率は68.75%と(※)となる。
※ダブルスを取ったチームが1-3で負ける確率:(1/2)^3=1/8
ダブルスを取ったチームが2-3で負ける確率:3×(1/2)^3×1/2=3/16
ダブルスを取ったチームが勝つ確率:1―(1/8+3/16)=11/16=68.75%
72.6%との差はわずかしかなく、ダブルスが特別重要ではなく単純に選手層が厚いチームがダブルスで勝っていただけではないかという疑問が生じる。
また、Tリーグと選手層に差がある学生卓球ではどのような違いがあるのだろうか。
ダブルスと勝率の関係
写真:中村煌和(写真左)と吉山僚一(ともに愛工大名電)/撮影:ラリーズ編集部
まずは高校選抜でダブルスを制したチームの勝率を調べる。すると、男子は73.3%(11勝4敗)、女子は83.3%(15勝3敗)という結果になる。この数字はTリーグの数値と比較してもかなり高い勝率となっていることから、本記事では以下の仮説を立てる。
「Tリーグではダブルスに出場した選手の片方しか第4マッチまでのシングルスに出場できない(ビクトリーマッチを除く)。しかし、高校選抜ではダブルスに出場した両選手ともシングルスに出場できるため、強力な選手が2人いればダブルスとシングルス2試合の合わせて3試合に出場させられる。よって、ダブルスで勝つチームはシングルスでも勝ち星を挙げやすい」
仮説の分析
写真:静岡学園(静岡)と出雲北陵(島根)の対戦スコア/出典:栃木県高体連卓球専門部
この仮説を分析するために、ダブルスの得失ゲーム差(静岡学園の例:ダブルスは2-3で敗れているため-1)と、ダブルスに出場した選手のシングルスの得失ゲーム差(静岡学園の例:ダブルスに出場した田中京太郎、溜大河が、シングルスでは田中が3-1で勝利しているため+2、溜が1-3で敗れているため-2。よって、2選手の合計は0)を計算した。
分析結果
写真:男子分析結果/作成:ラリーズ編集部
※ダブルスに出場した両選手がシングルスに出場せずに終わった場合は集計の対象外
※散布図で点が2、3、4点重なった点はそれぞれ紫、緑で塗りつぶしている
写真:女子分析結果/作成:ラリーズ編集部
※散布図で点が3、4点重なった点はそれぞれ緑、赤で塗りつぶしている
基本的には主力選手がダブルスとシングルスに出場するため、どちらのグラフも正の相関を示している。しかし、男子と女子では相関の強さに差があり、男子の相関係数(1に近いほど正の相関が強い)は0.19であるのに対して女子の相関係数は0.61で、女子の方が正の相関が強い。
つまり、男子は女子に比べてシングルスの結果とダブルスの結果の関連性が小さいと言える。
結果の考察
女子は背景が黄色の部分に多くの点が集まっていることから、多くの選手がシングルスとダブルス両方で好成績を残していることが分かる。一方で、男子は緑や紫にも点が分散している。このような結果となった要因としては戦力層と戦術の違いが挙げられる。
写真:横井咲桜(写真左)と大藤沙月(ともに四天王寺高)/撮影:ラリーズ編集部
戦力層についてだが、女子はトップレベルの選手が各校に分散し、各校で主力として活躍していることが多い。例を挙げると、四天王寺(大藤沙月、横井咲桜)、明徳義塾(白山亜美、青井さくら)、桜丘(野村光、小林りんご)などだ。
次に戦術についてだが、女子はレシーブ時にシングルスと同様に下回転系のレシーブ(ストップやツッツキ)をして相手のミスを誘うことが多い。それに対して、男子はチキータやフリックなど攻撃的なレシーブが多い。
写真:伊佐和真(写真左)と山本竜太郎(ともに松徳学院)/撮影:ラリーズ編集部
これはダブルスの場合サービスのコートが半分に制限されているため、シングルスに比べてチキータを狙いやすいことや、ストレートのコースにロングサービスを出されない等の理由がある。
Tリーグでも、チキータのような台上での攻撃的なレシーブを得意とする曽根翔、篠塚大登(ともにT.T彩たま)、宇田幸矢(琉球アスティーダ)らが過去にベストペア賞を受賞している。このことから、男子の場合チキータ等のダブルスで使いやすいレシーブが得意な選手が、ダブルスで活躍しやすいと言える。
写真:篠塚大登/曽根翔ペア(T.T彩たま)/提供:©T.LEAGUE
一方、女子は男子に比べてダブルスもシングルスに近い戦術で戦うため、シングルスで強い選手がダブルスでも活躍しやすくなっていると推測される。
まとめ:ダブルスは番狂わせが起こりやすい
今回は高校選抜のダブルスとシングルスの結果の相関を中心に考察した。
写真:宿敵を破った水谷隼/伊藤美誠/提供:ロイター/アフロ
1+1が2以上にも2以下にもなる可能性を秘めているのがダブルスだ。そんなダブルスでは、自分よりも格上の相手であっても戦術次第で勝つことができる。そういう意味では、“格上の相手を倒すために”ダブルスは非常に重要だと言えるだろう。