「最後は気持ちの強い方が勝つ」勝利を左右する"気迫"について|頭で勝つ!卓球戦術 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部

卓球技術・コツ 「最後は気持ちの強い方が勝つ」勝利を左右する“気迫”について|頭で勝つ!卓球戦術

2023.09.26

この記事を書いた人
初級者、中級者向けに基本技術の説明から、戦術論や卓球コラムまでを執筆。社会人になってから5回全国に出場し、全日本卓球選手権(マスターズの部・男子30代以上の部)ではベスト64。まさに“頭で勝つ!”を体現中。
戦型:右ペン表裏

卓球ライター若槻軸足がお送りする「頭で勝つ!卓球戦術」。今回は「気迫」というテーマについて考えてみたいと思う。

スポーツは面白い。身体能力や技術力、さらにはデータや戦術といった頭脳の要素に加えて、心理面つまりメンタルといったものが絡み合って勝敗が決定される。そして卓球の場合はことさらに頭脳、そしてメンタルの部分が、他の競技よりも大きなウエイトを占めると考えられる。

この日の為に練習していた技術、リターンは大きいがリスクも大きい技術、それらを大舞台の大事な局面で出すことができるメンタル。劣勢に立たされているときも決して諦めずに、緻密に情報を整理し、着実に1点を積み重ねて逆転をするメンタル。心の強さが勝敗に大いに影響してくるわけだ。卓球は心が強くないと勝てない。

そんな心について影響するのかどうか、考えたいのが「気迫」というものである。

気迫とは大事なものなのか?

「気迫あふれるプレー」「相手の気迫に押されてしまった」そのような言葉を耳にしたことは誰しもがあるだろう。この科学が発達した令和の時代において、非科学的な根性論、がむしゃら、スポ根といったものはかなり見直されてきた。

たとえば昭和の時代のスポーツの練習では、練習中に水を飲んではいけない、といった現代では考えられないようなルールがあったようだ。あるいはかつて、下半身の筋力強化のために「うさぎとび」がよく行われていたが、こちらも現代では膝と関節を損傷する可能性が高いのでご法度とされている。

昨今のスポーツのシーンで一般的に行われているプレー中の声出しや、観客の声を出しての応援といったものも、どちらかと言えば科学的根拠には基づかない「気のもの」の部類に入るだろう。それでもやはり、応援の声や気迫といったものが大事とされていると感じずにはいられない。


写真:張本智和(智和企画)/森薗政崇(BOBSON)/撮影:ラリーズ編集部

応援からの気迫

たとえば卓球の団体戦。日本一を決めるインターハイやインカレの会場では、味方が1点を取る度に立ち上がって張り裂けんばかりの大きな声で声援を送る。失点したときも同様に声を出して選手を鼓舞する。

選手も応援に応えるように、得点ごとに大きな声とガッツポーズを繰り広げる。そういった姿はアマチュアだろうとプロであろうと関係ない。プロのチームでも同じようにやっているし、そのようにしっかりと応援をしているチームは「チームの雰囲気が良い」と称されることが多い。


写真:加山裕(日本大)/撮影:ラリーズ編集部

あるいは野球では先日夏の甲子園の決勝が行われたが、107年ぶりに優勝旗を手にした慶応高校の応援は凄まじいものがあった。ネット上では批判的な声も見られたが、あの声援が少なからず選手たちの力になったことは間違いないだろう。

それもそのはず、人間の声、いやもっと言えば「音」というのは空気の振動だ。振動がこちらまで伝わってくるからこそ聞こえているわけだ。その空気の振動がエネルギーとして伝わり、選手たちの後押しになるのだろう。

このような研究論文も見つかった。やはり応援に効果があることは間違いなさそうだ。

>>運動中の応援の効果(外部サイト)

プレイヤー自身の気迫

応援だけでなく当然選手自身からも気迫といったものを感じることができる。わたしも思い返せばこれまでの競技経験の中で、気迫を前面に押し出してくる選手と対峙したことがある。1点を取るごとに大きな声と力強いガッツポーズ。

表情にも自信が満ち溢れており、次の1点も必ず取ってやるぞという雰囲気をひしひしと感じる。何か強力なエネルギーのオーラをまとっているかのような印象さえある。

こちらは平常心を貫いているつもりでも、目には見えない「気迫」を感じて、こちらのプレーが縮こまってしまった。知らず知らずのうちに受け身になってしまうのだ。こちらは普段通りのプレーが出せず、結果的に負けてしまった。


写真:張本美和(木下アカデミー)/撮影:ラリーズ編集部

そしてこれは逆のことも言える。自分自身も声を出しているときと出さずに静かにプレーをしているときで、心理面は変わってくる。声を出して自信を鼓舞しながら戦っているときは、アドレナリンが湧き出て、より攻撃的・積極的なプレーを選択することができるようになると感じる。加えて観客や仲間も、より応援をしようという気持ちになるものである。

ただし作戦としてクールな装いをするというのはもちろん有効である。どんなプレーにも一喜一憂せずに、常にポーカーフェイスで淡々と試合を進める。相手の感情が読み取れないのは不気味で、なんともいえないやりにくさを感じるだろう。しかしやはり声を張り上げて気迫を前面に出したプレーは、相手にも自分にも、そして応援をしてくれる仲間にも影響を与えることは間違いない。

実力が拮抗している選手同士の試合ならばなおさらである。「最後は気持ちの強い方が勝つ」とよく言ったものだが、あながちこれは正しいのだと、年齢を重ねるごとに強く思えるようになった。

まとめ

今回は「気迫」というテーマについて考えてみた。気迫というものはそれだけで勝敗を決するものではないが、少なからず勝利への後押しをしうるものだと言える。

ここ一番の大勝負、絶対に負けられない戦いがそこにあるのなら、全面に気迫を出して戦うべきである。これまでは静かにプレーをしていたという方も、少し声を出してプレーすることに挑戦してみてはいかがだろうか。

若槻軸足インタビュー記事

>>『頭で勝つ卓球戦術』シリーズ著者・若槻軸足が社会人で全国5回でられたワケ

若槻軸足が書いた記事はこちらから

>>【連載】頭で勝つ!卓球戦術