戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお送りする「頭で勝つ!卓球戦術」。今回は前回に引き続き、前後の距離感の重要性というテーマでお話したいと思う。
相手から来るボールが深いのか浅いのか、それに対して自分のいる位置が適切かどうか、しっかり把握をすることが大事であるというお話だ。というのも左右のコースは人間の視野で捉えやすく比較的判断がつきやすいが、前後の場合は十分に把握することが難しく、ミスの原因になりやすい。
写真:田中佑汰(個人)/撮影:ラリーズ編集部
その上前後の調節が不十分だったということに気づくことすら難しいのである。
前後の距離感に着目する前提として、下回転打ちのドライブ、チキータ、バックドライブ、といったそれぞれの技術ごとによって、ボールと体の適切な距離感というのを知ること。そしてそれは各個人の体格等々によって微妙に違うので、まずはそれを知ることが大切だ、というのが前回までの内容である。
ではその上で、打球するその瞬間に「本来の距離とずれている」と判断ができた場合はどうすれば良いのだろうか。
前後の距離感のズレへの対処
まずは思っていたよりも深かったとき、つまり「詰まってしまった」場合だ。
例えばバックへのツッツキで詰まってしまった際は、バックハンドで強打するのはかなり難易度が上がる。そこでループ気味に持ち上げる、もしくは乗せる形のドライブにする、あるいはツッツキに切り替える、といった判断が必要になるだろう。
速いボールの場合はどうか。相手のサービスが思いのほか伸びてきたり、ドライブのバウンドが跳ねてきたり。もしそれがフォア側となるとかなり厳しいだろう。その場合はスイングの方向やラケット角度をとっさに調整し「なんとか入れる」ことに徹しよう。
写真:松平健太(ファースト)/撮影:ラリーズ編集部
その場での反射神経に頼るくらいしか有効な手段はなさそうだが、できることといえば普段からバックスイングを大きく取りすぎないことだ。ラケットを大きく引き過ぎていると、当然とっさの調節が難しくなる。日頃からなるべくコンパクトなスイングを心がけよう。
「詰まる」という状況とはまた違うのだが、エッジボールへの対応にも共通するところがある。ボールの軌道が変わっても、打法を一旦リセットし、咄嗟の反応でラケットを出して「なんとか入れる」ということが求められるが、これもバックスイングが大きいと難しいだろう。
逆に思っていたよりも浅かった場合はどうか。この際は前述のスイングや打法の調整ということだけでなく、「身体の位置を調整する」というのが大事になってくる。浅いと認識したらすぐさま足を動かすことを第一に考えよう。
写真:高木和卓(ファースト)/撮影:ラリーズ編集部
状況に応じて、一歩前へ出すのか、もしくは二歩動で前進するのか、あるいは大きな一歩を踏み込んでフォアハンドを打ち込むのかの判断が必要になる。ボールが浅いあるいは失速するという状況は、相手が表ソフトや粒高といった異質プレイヤーのときに多く発生する。こういった選手に勝つのが苦手な選手は、おそらくこの浅いボールへの対処が苦手なのではないだろうか。
台との距離感
もうひとつ大事なお話をしよう。中学生を指導していると特に感じるのだが、多くの選手はプレー位置が卓球台に近過ぎである。あと一歩あるいは半歩距離を取っていれば、もっと楽にラリーができるのに、と感じるケースが多く見られる。ただ前述しているように前後の距離感を把握するのは難しい。そこで考え方として、卓球台との距離を3段階で測るということをおすすめしている。
写真:張本美和(木下アカデミー)/撮影:ラリーズ編集部
まず距離1。これは台上のボールを待つ際の距離で、ラケットが台に乗る距離だ。台上で2バウンドする短いボールが来ると予測して待つのならこの位置だろう。ダブルスのレシーブの際などは特にここだ。
続いて距離2。前傾姿勢で腕を軽く伸ばし、ラケットのヘッドが台の淵にコンと当たるくらいの距離である。これはツッツキのボールをスムーズに打てる距離だ。下回転系のサービスを出したあと、この距離2に戻れば、ツッツキが来たらドライブで攻撃ができ、ストップが来たら前に入って対応が可能だ。
そして距離3。ここは腕を伸ばしてもラケットが台に届かないくらいの位置である。これはロングボールを打つ際の距離だ。自分が早いロングサービスを出したあとの戻りの位置、あるいはツッツキを送り、相手から来るドライブをブロックする際はこの距離3が適切な位置だろう。
これよりも後ろの位置は、いわゆる中陣というプレー領域になる。ドライブの引き合いやカットなどはこの距離で行うが、今回の話では割愛する。
シンプルにこの3段階で考えると、非常にクリアになる。最初は距離1にいて、そこから距離2、距離3と意識的に位置を調節をする必要がある。上手な選手はごく自然にできているであろう前後の調節だが、そうでない多くの選手は上回転のラリーになっても、ずっと距離2にいるのだ。台に近過ぎるが故に厳しいコースに対応できないし、ブロックもうまく収まらない。
写真:及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
適切な距離の把握と移動を意識して行うだけで、相当プレーがしやすくなるはずである。ただ、距離1距離2などというのはあくまで目安であって、選手個人の体格やリーチ、身体の使い方などでそれぞれ変わってくる。
覚えておきたいのは、人間は前に進むのは得意だが、後ろに下がるのは苦手ということである。後ろ向きに走る方が速いという人は居ないはずだ。そのため、ゆとりを持って台との距離を取り、ボールに合わせて、前方に微調整をする、といったイメージでいるとスムーズにいくだろう。
まとめ
いかがだっただろうか。前編と後編に分けて、前後の距離感についてのテーマでお話してみた。卓球が強くなりたい!と想うと、どうしても新しい技術を覚えたり、左右のフットワーク練習をしたり、というところに目が行きがちである。
しかし強くたりないのなら、この前後の距離感にしっかりと気を配ることは絶対に避けることはできない。試合でどうも上手く勝てないという選手は、もしかしたらここに原因があるのかもしれない。しっかりと向き合ってみてはいかがだろう。
若槻軸足インタビュー記事
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