前後の距離感の重要性とは?前編|頭で勝つ!卓球戦術 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:田中佑汰(個人)/撮影:ラリーズ編集部

卓球技術・コツ 前後の距離感の重要性とは?前編|頭で勝つ!卓球戦術

2023.12.05

この記事を書いた人
初級者、中級者向けに基本技術の説明から、戦術論や卓球コラムまでを執筆。社会人になってから5回全国に出場し、全日本卓球選手権(マスターズの部・男子30代以上の部)ではベスト64。まさに“頭で勝つ!”を体現中。
戦型:右ペン表裏

卓球ライター若槻軸足がお送りする「頭で勝つ!卓球戦術」。今回は前後の距離感の重要性というテーマでお話したいと思う。

卓球において、失点には色々な要因がある。速いボールを打たれて届かなかった、相手の回転が複雑で取れなかった、あるいは自分の打球スイングに問題があってミスをしてしまった等々。

まず前提として卓球はどこにボールが来るか分からない。そしてもちろんラケットがボールに届かなければ返しようがないので、ボールの位置に自分の身体を運ぶ必要性がある。そういった場面においてよく起こりうるのが、「前後の距離感のミス」というものだ。

何かというと、ボールのバウンドが卓球台のネット際に落ちたのか、エンドラインギリギリに落ちたのか、そしてそのとき十分な体勢で打てる位置にいるのか、といった状況が関係するミスのことである。右か左かといった横方向については人間の視野で捉えやすいので、比較的判断がつきやすい。

しかし前後の場合、言い換えれば奥なのか手前なのか、といったことを捉えるのは目の作り上難しく、ミスをした後であっても、「前後の調節が不十分だった」ということに気づきにくいのである。今回はそんな前後の距離感をどううまく合わせるかということのお話だ。

技術ごとの適切な前後の距離感の把握

まず前提として、技術ごとに適切な打球位置というのを把握しておくことが非常に重要である。これが定まっていないとどれだけ練習しても上達しないだろう。いくつか具体例を挙げて説明する。

私自身の経験だが、チキータあるいは台上バックドライブを狙うが、どうも安定しないのが悩みであった。しかし練習中とのある瞬間に、いつもよりもほんの数センチ、台に入り込んでみると格段に安定感が上がったのだ。そして力の入れ方もスムーズになり、ボールに威力を伝えられるようになった。


写真:曽根翔(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

つまりこれまでずっと、チキータをする際の適切な位置に身体を運べていなかったということが判明したのである。戻りを意識してなのか単に横着だったのか、要因は様々だが、半歩入り込みが浅かったわけだ。チキータが上手くできる前後の適切な位置というのが把握できたので、それ以降は意識的にしっかりと台へ入り込むことを意識するようになった。

もうひとつの事例を挙げてみよう。ペンホルダーの選手の悩みとして定番なのが、片面使いだったところから裏面を貼ったものの、試合のなかで上手くバックハンドが振れない、というものだ。この要因のひとつにも前後の距離感が関係している。裏面でのバックハンドは、シェークハンドのそれとほぼ同じで、腕を曲げてしならせるようにスイングする。


写真:松下大星(クローバー歯科カスピッズ)/撮影:ラリーズ編集部

一方、片面ペンで行うバックショートの場合、肘を前方に伸ばして押し込むような形を取る。つまり適切な打球位置は、裏面バックハンドよりもバックショートの方が体の前方にあるということだ。そのため裏面でバックハンドを振るときは、ショートのときよりもややボールが懐に来るのを待って、打球する必要があるのだ。これを理解していないと、いつまでも裏面で上手にボールが捉えられるようにならない。

またもうひとつの事例としては、下回転をフォアでドライブする場面。気持ちとしてはしっかりと攻撃的なドライブをしたいのに、上方向のスイングで、ループに近いような山なりのドライブになってしまう、ということは誰しも経験があるだろう。「だめだ、上じゃなくてしっかり前に振らないと」と、自分に言い聞かせたりする。


写真:早田ひな(日本生命)/写真:YUTAKA/アフロスポーツ

ただそれは、スイングの方向が間違っているとか、弱気だから上に振ってしまっている、といったことではなく、「前後の位置取りに問題がある」ということが往々にしてある。つまりこの場合の多くはボールと身体が詰まっているので、上にしか振ることができない状況なのだ。しっかりとボールとの距離を保っていれば、踏み込みながら前方向へのスイングができて、攻撃的なボールが送れるはずである。

まとめ

事例を使ってお話してきたように、まずはそれぞれの技術ごとの前後の距離感を把握することが不可欠だ。その上で、それぞれの状況で卓球台に対しての自分の位置、そして来たボールが浅いのか深いのか、失速するのか伸びるのか、これらをまずは認識できるようになろう。

ただしそれがなかなか難しい。ミスをしたあとの振り返りで初めて分かることも多い。「あ、今のボールは思っていたよりも浅いボールだったから、ミスしてしまった」「今のは伸びてきたから詰まってしまった」というような具合だ。ただ残念ながら、中高生などを指導していると、そこに考えが行き着かない選手がほとんどである。「自分のスイングが悪かった」といったように別の部分に原因を定めてしまうのだ。

なので、まずは前後の距離感がミスに大いに直結することを認識するのが、第一歩だと考えている。次回は後編として、それを認識した後の、調節するやり方や、初心者でも分かりやすい距離感の目安についてお話する。

若槻軸足インタビュー記事

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