戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」。
今回は、戦術や考え方に関する話をしようと思う。実際に試合で相手と対峙したときの、考え方や戦い方について、一緒に考えてみよう。
(特に記述がない限り、右利きのシェークハンドの選手、右利き同士のペアリングを想定している)
このページの目次
ダブルスでは「対相手」と「対パートナー」の2つの考え方が必要
戦術と言うと、「いかに相手を打ち負かすか」ということばかりを考えてしまいがちだ。しかしダブルスの場合は違う。「相手のミスを誘う考え方」と同時に、「こちらがミスをしない考え方」が非常に重要になってくるのだ。
シングルスでは、こちらが得意なことをする戦術より、相手の弱点を突く戦術を優先すべきだということを、以前に他の記事で述べた。しかし、ことダブルスとなると、実はシングルス以上にこちらが得意な戦術(=ミスをしない戦術)を使うことが大事になってくる。
なにせダブルスは、あの狭い卓球台に2人で、しかも1球ごとに交代して打たないといけないのだ。ただでさえ難しく、ミスをせずにラリーをするだけでも大変なのだ。つまり逆に言えば、こちらがミスをせずにラリーを続けることができれば、相手が先にミスをして得点になる可能性が高い、と言える。
なので私の考えとしては、ダブルスはまずこちらがミスをしないことが第一だ。その上で相手の弱点を突いてミスをさせるのが第二。そのような判断基準で、ペアと話合いをして作戦を立てていくことをオススメする。
ダブルスでミスをしないための考え方
続いて、ダブルスでミスをしないための考え方を3つ解説する。
考え方①:パートナーが3球目攻撃をしやすいサーブを出す
ではより具体的に戦況のなかで考えていこう。まずはサーブだ。
ダブルスの試合で使われるサーブは、短い縦回転系が使われることが多い。その理由としては、ダブルスのサーブはフォアクロスにしか出せないことが挙げられる。シングルスのようにコースで大きく揺さぶることができないので、レシーブが待ちやすく、自由なレシーブができるのだ。そのためダブルスの場合はレシーブ側がやや有利と考えられる。
そんな状況で、順横回転、逆横回転と色々なサーブを出すと、ツッツキや流しやチキータと、逆に色々なレシーブが返ってきやすくなってしまう。さらに横回転が入ると、返ってくるボールに回転が残っていたり、回転を利用されたりするので、3球目を打つパートナーとしては非常にやりにくいのだ。
なので、ダブルスの場合はそういった不規則なレシーブが返ってこないように、短い下回転を中心とし、そこにたまにナックルを混ぜる、といったサーブの組み立てが主流となるのだ。
考え方②:ストレート攻撃を多めに使う
ダブルスではシングルス以上にストレート攻撃が重要となってくる。例えば、こちら側にサーブ権があり、あなたが3球目を打つ順番だとしよう。パートナーは短い下回転サーブを出し、対戦相手はこちらのバックサイドへやや甘いツッツキ。
ここであなたは、チャンスと捉えてバックハンドドライブでクロスへ撃ち抜く。というのが、決まればよいのだが、決まらなかったときはこちらが苦しくなる。このとき、4球目を打つ相手選手は、ニュートラルの位置に構えているので、まともにクロスにブロックされることが考えられる。
そうなると、今度はあなたのパートナーが打つ番だが、パートナーは先程サーブを出しているので、フォア側から戻ってくる途中だ。その状態で、あなたが速いボールを打てば打つほど、速いブロックが返ってくるので、パートナーとしては時間的に間に合わずかなり厳しい展開になってしまう。
図:ラリーズ編集部
もしあなたが、3球目攻撃をストレートに打っていれば、クロスにブロックされたとしても、パートナーはフォア側をカバーするのは比較的簡単になるので、5球目をさらに攻撃することができ、連打で攻め込める。
図:ラリーズ編集部
ダブルスで大事なのは、一発で自分が決めてしまおうと思わないことだ。常にパートナーに託す、くらいの気持ちでちょうどよい。十中八九決めきれるボールならばよいが、そうでないならば多少威力を落としてもいいので、ストレートを攻めて次球でパートナーに決めてもらう。その方が、2人ともの足が動いて調子も上がり、よいコンビネーションが生まれるようになるだろう。
考え方③:なるべくフォアハンドを使って打つ
前回の記事で、バックハンドを使って基本の動きを練習した際、フォアハンドを使うよりも難しいと述べた。その理由のひとつは、バックハンドの方が打球点が高いことだ。フォアハンドは基本的にはボールを「体の横」で捉えるのに対して、バックハンドはボールを「体の前」で捉える。
よって、台にバウンドしてから打球するまでのタイミングが早くなる為、自分が打った後にパートナーへ返ってくるボールも早くなり、時間的な余裕がなくなる、というわけだ。バックを使うと、相手に早く返球できるが、こちらにも早く返って来てしまう、ということを頭に入れておこう。
そしてもうひとつの理由は、バックハンドを使うと体が邪魔をする、ということだ。パートナーが打球している際、あなたは後ろ側にいることが多い。パートナーがバックハンドで打球をしていると、あなたの視界に見えるのはパートナーの背中だけだ。ボールが見えないと、次に返ってくるボールの予測がしづらくなり、非常に苦しい。
図:ラリーズ編集部
さらに、そのパートナーの体が邪魔になって、次球であなたが台に入るのがどうしても遅れてしまうのだ。パートナーがフォアハンドで打ってくれていれば、腕があるだけなのでそれほど邪魔にならずスムーズに入り込む事ができる。
なので先ほどの3球目攻撃のケースであった、バックハンドでクロスを狙う、というのはなるべく避けた方がよい、ということになる。できるだけ回り込んでフォアハンド、さらにストレートを狙えれば、次球を打つパートナーにとっては最善となるのだ
ダブルスにおけるレシーブ戦術
続いて、ダブルスのレシーブにおける戦術を解説する。
私が考えるに、ダブルスにおいて最も有効なレシーブはツッツキである。理由は3つだ。
まず1つ目が、ツッツキは最も相手の3球目攻撃を限定できる技術であることだ。相手のフォア側にツッツキを送れば、カットマンでない限りほぼ100%フォアハンドドライブが来るだろう。それを待っていれば、パートナーの待ち方は「クロスへのドライブ待ち」となり、「4球目をブロックをする」ということが確定する。
これが、あなたがストップをすると、パートナーはダブルストップ待ち、フリック待ち、流し待ち、ないしはチキータ待ちと、全く的を絞れなくなってしまうのだ。ダブルスでは常に、次に打つパートナーの負担が最も軽くなることを考えなければいけない。
2つ目は、ツッツキは時間的な余裕が生まれるからだ。ツッツキで相手コート深くに返球できれば、それだけ3球目のドライブのボールがこちらに届くまでに時間がかかる。その上、ツッツキ、つまり下回転のボールをドライブで打つ際は、ボールが卓球台にバウンドして、頂点からやや落ちた地点を捉えるのが一般的である。
例えば、あなたがフリックレシーブをした際は、相手はバウンドしてすぐを捉えれば返球できる。あなたのフリックが速ければ速いほど、こちらにも「速く」そして「早く」返ってくるので、パートナーの時間的余裕がなくなる。
図:ラリーズ編集部
3つ目は、ツッツキに対するドライブは回転に逆らう技術なので、難しいということだ。
初心者の頃を思い出してほしい。最初のフォア打ちは、ラケットに正しくボールを当てることができれば、それほど難なく習得できたはずだ。しかし、下回転のボールをドライブで上回転にして返球することに関しては、かなり練習したのではないだろうか。
これはボールの回転に対して「従う」のではなく「逆らう」技術なので、基本的に難易度が高いのだ。
そのため、こういったボールは、競り合いの緊張した場面などでは、相手もつい打点を落とし過ぎてボールが甘くなる、ミスをする、ということが出てくる。逆にフリックなどの上回転のボールでは、ラケットを出して当てるだけで、とりあえずは返せてしまうのだ。
以上の3つの観点から、基本的には私はダブルスではツッツキを主体にレシーブを組み立てることをオススメしている。ただしもちろん、それだけでは慣れられるので、的を絞らせない為に、ストップやフリックを何本か「見せておく」ことは大事だ。
>>【初心者必見】ブチギレの下回転を出す為の練習方法|卓球基本技術レッスン
ダブルスにおけるサーブ戦術
続いて、ダブルスのサーブにおける戦術を解説する。
ダブルスではサーブはフォアサイドにしか出してはいけない。しかし「サーブはフォアに出しておけばいいんだ」とだけ考えていたのでは、ダブルスで上達することはできない。
私が高校時代、京都の強豪校へ練習試合に行った際、監督さんはダブルスのサーブのコースを「9点」で考えるようにという指導をしていた。ただでさえ半面だけなのに、そこからさらに9つものエリアに細かく分けて考えるのだ。
図:ラリーズ編集部
右利きの選手に対して、最も有効なのはセンターラインギリギリにサーブを落とすことである。上記のイメージで言えば、3、6、9の位置だ。基本的に相手はフォアハンドでレシーブをしようと待っている。センターライン付近へ出すことで、相手は必ず詰まって窮屈な形になる。さらにはレシーブ後に逃げる際に、フォア側から逃げるにも距離が長くなるし、バック側から逃げると相手パートナーの目の前を遮る形になるので、相手の4球目攻撃の精度を下げることができる。
相手がそれを嫌がってバックハンドでレシーブをするそぶりを見せれば、すかさずロングサーブを出して詰まらせよう。こういった「センターギリギリを狙う」という一見地味な戦術も、試合が進むに連れてジワジワと効いてくる。これを日頃から意識するのとしないのとでは大きな差が出てくるだろう。
>>【初心者必見】ダブルスの右・左ペアの動き方と練習方法|卓球基本技術レッスン
試合全体を通してのダブルスの戦術
最後に、試合全体を通してのダブルスの戦術を紹介しよう。
戦術①:3・4球目まででほとんどのラリーは終わる
最後に、試合全体で見たときの考え方についてだ。基本的にダブルスはシングルスよりも「返球する」ことが難しいので、ラリーが続かない。8割以上は3球目、4球目でラリーが終わると思ってよいだろう。なので、シングルス以上にサーブレシーブにおける戦術や技術の精度が重要になってくるのだ。基本的には先程の考え方で、深いツッツキを主体に組み立てていこう。
戦術②:2ゲーム目までに相手の弱点を探る
ただその一方で、相手の弱点を探っておくことも大事だ。2ゲーム目までで、相手のB選手はフォア前ストップの処理が下手だ、とか、バックへの回り込みは苦手そうだ、といった情報は蓄積していかなければならない。
そのような弱点を突いて、片方の選手の調子を崩すことができれば、もう一方の選手は「自分が無理をしてでも決めなければならない」という心理状態に陥り、焦って余計にミスを重ねる、という好循環が生まれるのだ。
何度も言うように、ダブルスはミスをしないことが重要だ。ラリーになっても、無理をして決めに行こうとせず、7割くらいの威力で確実に入れて、パートナーを信じて託す。そして常に、どういうボールを送ればパートナーが次の球を打ちやすいかを第一に考えよう。そしてなるべくはしっかり動いてフォアハンドを使おう。
戦術③:「見せ球」を有効に活用する
ただもちろん、全てを安全に入れればいいというわけではない。ことレシーブにおいては、ゲーム中盤までの万が一ミスをしても致命的にならない局面で、一発で決めにいくような攻撃的ボールを「見せておく」のだ。そうすることで、相手の頭に「レシーブから強打されるかもしれない」というイメージを植え付けることができるので、後々に効いてくる。
9-9の場面でいきなり、それまでしてこなかったレシーブ強打を試みるのはリスクが高いので、くれぐれもそのようなことがないようにしたい。
>>【初心者必見】卓球・ダブルスの動き方と練習方法・メニュー 右利き編|卓球基本技術レッスン
まとめ
2回にわたってダブルスにおける戦術について、初心者から中級者の方向けにお話をした。もちろん上級者やプロの世界では、ツッツキは一発で撃ち抜かれてしまうことが多いのでストップ主体で展開されたりもするが、根本的な考え方としてはそう大きくは変わらないだろう。
繰り返しになるが、最も大事なのは「パートナーにつなぐ」という意識だ。難しいことはなるべく考えずなるべくシンプルに。サーブレシーブにしっかりと神経を注いで、ラリーになったら動いて確実に入れる。これらができるだけでも、ある程度は勝ち進めるはずである。
ダブルスは1+1が3にも4にもなる、非常に奥が深い種目だ。さらに団体戦ではダブルスの内容が試合結果に大きく左右する。ぜひ今回の記事を参考に、ダブルスが上手な選手を目指していこう。