戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」。
このシリーズでは初心者向けに卓球の基本的な技術についての説明や、そのやり方、対処法などについてお話していく。実際のプレイヤーはもちろん、テレビなどで観戦される方にとっても、頻繁に出てくる用語が登場するので、知っているとより卓球の面白さが分かるだろう。ぜひ参考にしていただきたい。
さて今回はこれまでの技術的な話とは少し変わって、コラム的な内容となる。
普段の仲間とのプレーや試合会場での会話の中で、「あの選手はセンスがある」といった言葉を聞くことがないだろうか。普段からなにげなく使う言葉ではあるが、おそらく初心者の方にとっては、この言葉に対する理解があまり深くないのではないだろうか。とはいうものの私自身も日頃なんとなく使っているし、明確な定義があるわけではない。
なので本日は、「センス」がある、というのはつまりはどういうことなのか、について改めて考えてみたいと思う。もちろん異論や反論などは大歓迎なので、コメントに寄せて頂けると嬉しい。
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「センスがある」と呼ばれる選手とは
写真:松平健太/撮影:ラリーズ編集部
ではまず、プロ選手のなかで私が「センスがある」と聞いてイメージする選手を挙げてみた。
・カラカセビッチ
・ワルドナー
・松平健太
・丹羽孝希
もちろん他にもたくさん居るが、ひとまず瞬間的に思いついたのはこの面々であった。ではこれらの選手に見られる共通のポイントについて見ていこう。
台上技術が上手い
写真:丹羽孝希/撮影:ラリーズ編集部
まず必ず言えるのが、ボールが台の中で収まる場合の細かい技術が総じて上手い、ということだ。卓球は基本的にこの台上のプレーから始まることがほとんどだ。そしてこの台上プレーは、卓球の中でも最も難しく奥が深いと言っても過言ではない。
常に複雑に回転するボールに対して、回転の種類と強さを瞬時に見極め、適切なラケット角度を出し、相手コートへ収まるように返球をする。少しでも回転を見誤ったり、ラケット操作に失敗したりすると、簡単にミスになる。たとえミスにならなくても、送球がネットよりもわずか5cmほどでも高くなれば、一発で打ち抜かれてしまうこともしばしばだ。
そんな難易度の高い台上技術で光るものがある選手は、センスがあると呼ばれることが多い。ネット際にピタっと止まるストップや、相手の予測とは反対方向に送る、逆モーションの流し。これらは確実に「繊細なボールタッチ」を必要とする技術である。自らで強い力を加えるのでなく、ボールの回転を見極めた上で、それをうまく利用するボールだ。それらには類稀なる「センス」が必要となる。
たとえばワルドナー選手と対峙した選手は、試合後にしばしば「レシーブで何をしてくるのか全く分からない」というコメントを残している。
そこで先手を取れれば、必ず優位な展開を作ることが出来る。
コース取りが匠み
写真:丹羽孝希/撮影:ラリーズ編集部
次に挙げたいのが、コース取りだ。これについては、シンプルに「ストレートコースの使い方が上手い」と呼ぶことが出来るだろう。
まず大原則として、卓球はクロスコースが使われることが多い。なぜなら、クロスの方が卓球台の距離が長く、ミスをする確率が格段に少ないからである。ストレートだと距離が短いため、ミスをしやすい。なので、卓球では相手の返球は概ねクロスに返ってくるだろうと考えて待つのがセオリーなのだ。
ということは、そのセオリーを破ればいい。相手がクロスで待っているところをストレートコースへもっていけば、相手の予測の逆を突くことができる。
一般的にストレートはミスをするリスクが高いのであまり多用はしない傾向にあるが、センスのある選手達は類まれなるコントロールで、距離の短いストレートコースでもミスなくボールを台に収める能力が高い。
カラカセビッチの閃光のようなに突き刺さるバックハンド、松平の大きく飛びついての両ハンドのドライブ、いずれもストレートコースで相手を抜き去るシーンをよく見ることがある。
球種が多い
写真:サイドスピンをかけたブロックなどトリッキーなプレーを見せる松平健太/提供:ittfworld
卓球は、互いに目の前の1ポイントを奪い合うゲームだ。しかし、目にも留まらぬ剛速球のスマッシュでも1点。何往復にもわたる超絶なラリーの末に得点しても1点。相手のサーブミスでも1点だ。バスケットボールのような3ポイントシュートはない。
初心者の方などはどうしても、速いボールが打ちたいと思って、そればかりを練習しがちである。しかし卓球は、速いボールが全てではない。スピードはないが、相手の意表を突くドロップショットや、ぐにゃりと曲がるカーブボールなど、多種多様だ。
「センスがある選手」は、そういったあまり一般的ではない独創的なボール、いわば「変化球」をたくさん持っている。
松平の、手首を大きく旋回させてサイドスピンをかけたバックブロックは彼だけの得意技だ。また丹羽の、カウンターと並んで代名詞となりつつあるカットブロックも、多くの対戦相手を苦しめている。こういったものは、柔軟で独創的な発想と、それを実現出来る技術力があってこそ成り立つ。
まとめ
今回は私なりに、「センスがある選手」とはどういうことなのか考えてみた。もちろんこの他にも細かくを挙げていけばたくさんあるだろう。予測能力や反射能力が高く、ブロック主体でもゲームを作れるとか、すべてのボールタッチが柔らかいとか、「いなし」がうまいとか。逆にセンスがあると感じる選手と対峙する際は、今回の内容を踏まえて対策してみるといいだろう。
つまり
・台上での戦いをなるべく避けて、ロングサーブを主体として大きいラリーの展開に持っていく
・ストレートを多いことを頭に入れて、いつもよりもストレート待ちの比率を高める
・多様な球種のボールが来ることを頭に入れて、翻弄されないように心がける
といったところだ。試合前に頭に入れておこう。
センスがある選手はかっこいい。センスとは練習だけではなかなか身に付くものではない。だからこそ、私達はあこがれを抱くし、羨望の眼差しを向ける。だが、卓球はセンスだけで勝てるものではない。
次回は、センス以上に重要な、「試合に勝つ」ということについてお話したいと思う。