戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお送りする「頭で勝つ!卓球戦術」今回は「全日本男子シングルス決勝から学ぶ有効なサーブの組み立て」というテーマでお話していく。
全日本選手権の男子シングルスの決勝戦、世界ランキング日本トップの張本智和(IMG)と、前回王者の戸上隼輔(明治大)が対峙し、多くの卓球ファンが待ち望んだ好カードとなった。結果は戸上選手が、得意の攻撃力を存分に発揮して4-2で勝利。
写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部
この試合は右利き同士の対戦ということもあり、我々が参考にできるヒントをたくさん見つける事ができた。今回は戸上選手が使っていた、シンプルかつ最も効果的なサービスの戦術についてのお話だ。
このページの目次
戸上選手のサービス戦術
フォア前とバックロング
戸上選手のサービス戦術は徹底していた。フォア前への短いサービス、そしてバックへの速いロングサービス。この2つのサービスの組み合わせで常に戦況を優位に支配していた。簡単に解説しよう。
まずフォア前への短いサービスというのは、選手の体から一番遠い場所である。レシーバーは上手にコントロールするのが難しく、かつしっかりと近くまで動いて返球する必要がある。
強力なレシーブが返ってきにくい、最も狙うべきコースである。(基本的にはフォアハンドでレシーブするのがセオリーだが、一定上のレベルになると、大きく動いてバックハンドでチキータで攻め込む、というのも珍しくなくなっている。)
写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部
そしてそのフォア前のショートサービスをより効かせる為に使うのが、バックへの速いロングサービスである。単純にロングサーブを出すだけでは、トップのレベルであれば一発で撃ち抜かれてしまうことも多いが、フォア前との組み合わせで使うことで、ロングへの対応を遅らせることができる。
「フォア前かもしれない」と思わせることで、バックへのロングが効き、同時に「バックロングかもしれない」と思わせることでフォア前が効くという、相乗効果が期待できるわけだ。フォア前とバック奥という対角線上の遠い2点を狙うことは、どのレベルであっても共通して有効な戦術の一つなのである。ぜひ身に付けてもらいたい。
出し方のポイント
この戦術を私達も実践するときに注意すべき点について考えよう。まずなるべく低く出すこと、そしてできるだけ卓球台のギリギリの厳しいコースを狙うことは言わずもがなだ。
そしてより意識してほしいのが、分かりにくさだ。できるだけボールを打つ寸前まで、相手にフォア前なのかバックロングなのかを悟らせないように工夫する必要がある。そのために同じモーションで2つのコースへ出し分けられるように練習しよう。
写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部
例えば巻き込みサーブを出すのなら、フォア前とバックロングをできる限り同じモーションで出し分けるようにならなければいけない。フォア前に出すときは巻き込みで、バックに出すロングサーブは順横のサーブというのでは、打つ前に読まれてしまうので効果は半減である。
基本的にひとつのサーブでフォア前とバックへ出し分けられるようになることは必須であると言える。例えばバックサーブを出したいのなら、フォア前とバックロングはセットで考えよう。逆に、回転というのはそれほど意識しなくともよいと私は考えている。
ナックルで構わないので、きっちりと台上で2バウンドする短さでフォア前。そして低く速く、できればバックサイドを切るくらいの厳しいコースへロング。これらが出せるようにしっかりと練習をしよう。回転を出し分けられるようにする、といったことはその後からでもかまわない。
サービスを出した後の展開
そしてもちろん、サービスは出して終わりではないので、その後の3球目以降の展開もあらかじめ頭に入れた上で使うことが重要だ。全日本の決勝の話に戻ると、戸上選手がとっていた戦術はこうだ。フォア前へのショートサービスを出したときは、張本選手のストップレシーブに対して、バック奥あるいはバックミドルへ深いツッツキを送る。
それを張本選手が持ち上げ気味にバックドライブで対応したのを、カウンターで攻め込むというパターン。ネット際に相手を寄せておいてから、バックの深くへツッツキを差し込むことで相手を詰まらせ、甘いボールを打たせて5球目で攻める、という戦法だ。
写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部
次にロングサーブを出したときだが、ここも同じく張本選手はバックドライブで対応、しかもほとんどはクロスへの返球であった。戸上選手は3球目でバックハンドを使って攻め込む、あるいはストレートに振って、フォアの打ち合いに持っていく、という展開が多かった。これらの戦法を駆使していたわけだが、試合を通じて戸上選手が戦術的にも精神的にも優位に立っていたように感じられた。
もちろんこれは日本のトップレベルの戦いなので、我々が実践したとき、同じような展開になるとは当然言えない。ただそれぞれのレベルによって、「このサービスを出したときはたいていはこう返ってくる」といったおおよその予想は経験則からできるはずである。それも頭に入れた上で、試合全体を組み立てていってみよう。
まとめ
いかがだっただろうか。今回は全日本の決勝でも使われるほど有効で、しかも誰にでも真似できる戦術として、フォア前とバックへのロングサービスの組み合わせについて考えてみた。よく「サービスは一球目攻撃」と呼ばれ、いかに強く分かりにくい回転で相手があっと驚くサーブが出せるか、といったことに注目されがちである。
ただし、一球目攻撃ではあるが、一球だけ打つわけではない。1ゲームで11点、それを3ゲーム取るのならば33点の半分、少なくとも16回はサーブを出すわけだ。強力なサービスひとつで勝ちきるのは難しいが、単独ではシンプルなサービスであってもそれらを工夫して組み合わせることで、試合の最後まで効く武器になるわけである。
フォア前とバックへの出し分け、それを着実にある程度の質で使いこなせるようになれば、今よりも確実に勝利に近づくこと間違いなしである。
若槻軸足インタビュー記事
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