卓球界のレジェンド・松下浩二氏が、卓球観戦のための書籍を発売した。
その名も「卓球超観戦術」。
張本智和の強さの理由や、「なぜ日本は強くなったのか」という多くの人が抱く疑問まで、幅広く網羅された内容の中から、印象的な部分を全4回連載でお届けする。
>>「どうせ無理」を超えろ すべての挑戦者たちへ【Rallys×VICTAS#3 松下浩二】
カットマンの魅力は”華”
観ていて最も面白いプレースタイルといえばカット型でしょう。私自身がカット型なので少々手前味噌の感はありますが、その魅力について紹介します。
カット型とはカットを主戦に戦うスタイルで、そういう選手のことを「カットマン」とも呼びます。カットというのは、相手のドライブなどの上回転のボールに対して、上から下にラケットを振り下ろして下回転をかけて返球するテクニックです。基本的には相手の攻撃的な打球に対して使う技術なので、スピードに対応できるよう台から距離をとって戦います。とにかく相手の攻撃を拾って、拾って、拾い続けて、相手のミスを誘って得点する「粘り強さ&我慢強さ」が必要なスタイルです。
写真:松下浩二氏/提供:YUTAKA/アフロスポーツ
カット型のラリーは長く続きやすいので、そういう意味で観戦向きのスタイルともいえるでしょう。粘って、粘って、相手の攻撃をしのいで、チャンスを作ったらすかさず前に出てスマッシュ。守備と攻撃の融合がカットマンの魅力で、そのプレーは非常に華があり、カットマンの試合は他のどの戦型よりも盛り上がります。ただし、カット型対カット型の対戦になると、お互いにツッツキでつなげるだけになってしまい、かなり地味なラリーになってしまいます……。
大きく2つのタイプに分かれるカット型
そんなカット型も、カットで粘り強く戦うタイプ、ドライブやスマッシュも積極的に使う攻撃的なタイプの大きく2つに分けることができます。
粘るタイプは、自分からはあまり攻めないで、相手の攻撃をカットで拾って、ミスを誘うプレーを得点源とします。基本的には女子選手に多いのですが、私自身もどちらかというとこのタイプでした。
写真:カットマンの朱世赫(チュ・セヒョク)/提供:©T.LEAGUE
攻撃タイプのカット型、特に男子選手の場合は、フォア側のボールに対してはカットせず、ドライブで返球するスタイルが多くなります。サービスからの3球目攻撃も攻撃型と同じように狙っていき、「甘いボールは攻めるぞ」と相手にプレッシャーを与えることでカットのラリー展開を有利にするのです。近年は用具も進化し、相手のドライブ攻撃がより厳しくなっているので、粘るだけのカット型はなかなか勝てません。守備一辺倒にならず、攻めのプレーを織り交ぜることが現代卓球のカット型には求められています。
現在、世界最強のカットマンは日本人女子
世界のトップレベルになると守りのスタイルよりも攻めのスタイルの方が勝ちやすいのが現実で、現在世界のトップ20の中には、男女合わせても1名しかカット型はいません。実はその一人が、日本の佐藤瞳選手(ミキハウス)。彼女は日本選手では世界ランク4番目、まさしく世界最強のカットマン。中国選手にも非常に強く、リオ五輪女王の丁寧選手(中国)からも勝利をあげています。
写真:佐藤瞳/提供:ittfworld
<張本のバックハンドは中国を凌駕する【松下浩二の「卓球超観戦術」#2】に続く>
松下浩二氏プロフィール
1967年8月28日生まれの愛知県出身。日本卓球界初のプロ選手として国内で活躍し、その後、海外にも視野を広げ日本人初となるドイツ・ブンデスリーガ、フランスリーグ、中国超級リーグでプレーをした。バルセロナ五輪から4度のオリンピックに出場。現役時代はカット主戦型として粘り強く戦った。現役引退後は日本初のプロリーグ化を目指して尽力、2018年に「Tリーグ」を創設し、初代Tリーグチェアマンとなる。2020年7月をもってTリーグチェアマンを退任、Tリーグアンバサダーに就任した。10月1日より卓球メーカーの(株)VICTAS代表取締役社長に就任。