「卓球アスリートの低年齢化」は本当?全日本シングルスの結果から考える | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:16歳の張本智和(木下グループ)/提供:ittfworld

卓球プレーヤー向け 「卓球アスリートの低年齢化」は本当?全日本シングルスの結果から考える

2020.03.31

文:P.N 家

張本智和(木下グループ)や伊藤美誠(スターツ)、平野美宇(日本生命)の活躍によって多くのメディアで卓球の英才教育が注目されている。熱心な両親の影響を受けて幼い頃から卓球を始めたというエピソードを、その当時の写真や動画とセットで目にすることは読者も心当たりがあるのではなかろうか。

また、10代の張本や伊藤が代表の中心選手になっていることから、トップに立つ選手の低年齢化が進んでいるイメージが浸透している。

今回は「卓球の低年齢化」について全日本選手権の過去5年のシングルスに結果に基づいて検討してみる。

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女子は山型の推移


図:全日本女子シングルスベスト8の平均年齢推移/作成:ラリーズ編集部

筆者はこの調査をするまで、女子はここ5年で低年齢化が進んでいると思い込んでいた。しかし事実は意外なものだった。女子シングルスベスト8の平均年齢は、2016年では18歳、2020年では19.75歳となった。つまり5年間でむしろ入賞者の平均年齢は上がっていた。

この推移のポイントは「入賞者の常連化」にある。石川佳純(全農)、伊藤、佐藤瞳(ミキハウス)のように何度も入賞している選手がそのまま年齢を重ねているため、全体の年齢が上がっている。

2020年の結果を見ると最年少は14歳の小塩遥菜(JOCエリートアカデミー)であり、2016年に最年少であった早田ひな(日本生命)、伊藤は平均に近い値となっている。


写真:伊藤美誠(スターツ)/提供:ittfworld

比較した2016年と2020年の間に平均年齢の山がある。2018年の21.75歳がピークとなっている。この2018年は伊藤、平野美宇(日本生命)が決勝を争った年だったが、その他のベスト8は全員20代となっている。今年も決勝進出を果たした石川以外にも、石垣優香、松澤茉里奈が入賞し若手に力を見せつけた結果になっている。

これは前年の2017年にも同じことが言える。しかし、続く2019年には10代が4名入賞し平均年齢が2歳以上低下している。

男子はやや右肩下がり


図:全日本男子シングルスベスト8の平均年齢推移/作成:ラリーズ編集部

男子の平均年齢を見ると、大きく変動はないが少しずつ下がっている。やはり全日本男子を語るうえで外せないのはレジェンド水谷隼(木下グループ)の存在だ。

シングルス最後の出場でV10を達成した2019年時点で水谷は29歳。大島祐哉(木下グループ)に準決勝で敗れベスト4となった張本との年齢差は13歳だった。

水谷のシングルス出場がなかった今年はここ5年で最も若い22.25歳という平均年齢となった。改めて水谷が日本男子の卓球を引っ張ってきた事実に驚かされる。


写真:18歳で全日本優勝を果たした宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園)/提供:ittfworld

2020年の高校生でベスト8入りを果たしたのは宇田幸矢(JOCエリートアカデミー)、張本、戸上隼輔(野田学園高)の3名。10代がベスト8に入った人数として、2016年以降の結果では最多となっている。

水谷のシングルス不出場と高校生の台頭。これを世代交代と言ってしまってよいかは現時点ではとても難しい問いだと思う。東京五輪代表で、パリ五輪も視野に入れているとコメントしている丹羽孝希(スヴェンソン)を筆頭にまだまだ力を持った20代が控えている。世代交代かどうかはあくまでも結果論でしか考えられない。

それはつまり卓球日本男子は群雄割拠の時代に突入すると言えるはずだ。一卓球ファンとしては今後の結果から目が離せない。

まとめ

男女ともに、現在は全日本選手権シングルスベスト8入賞者の平均年齢が低下傾向にあるということは共通している。その要因のひとつとして考えられることは、ボールの変更だ。かつてはセルロイドボールを使用していたが、2015年の全日本からプラスチックボールに変更なった。

もちろんその後も水谷をはじめとするトップ選手達は素材の変更に対応して結果を残してきた。しかし現在の高校生や中学生の10代の選手は運動神経が最も成長すると言われている12歳までのゴールデンエイジの期間にプラスチックボールへの対応を済ませている。このことは細かな感覚がモノをいう卓球において無視することはできない差になるはずだ。

プラスチックボールで卓球をしてきた期間の方が長い選手がトップにおいて多数派になった時に、誰が日本の卓球界の上位に君臨しているのだろうか。その選手が次のレジェンドと呼ばれるのだろうか。

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