写真:左から平野美宇、伊藤美誠、早田ひな(2018年世界卓球時)/提供:新華社/アフロ
卓球インタビュー 日本卓球界で20代はベテランなのか?早咲き遅咲きはあるのか?宮﨑本部長に聞いてみた
2021.03.18
「20代で、もうベテランなので…」。このような言葉が近年、卓球選手から聞こえてくる。
日本卓球界では20代を“ベテラン”とする風潮がある。全日本選手権を制した及川瑞基が「23歳とベテランの域に入ってくるので」と優勝インタビューで口にしたことも記憶に新しい。
だが、栄養学、スポーツ医科学などの進化に伴い、アスリート全体としての選手寿命は伸びているはずだ。海外では40歳のティモ・ボル(ドイツ)が男子世界ランキング11位に位置し、女子でも37歳のハン・イン(ドイツ)がTリーグサードシーズンで11勝をあげ、57歳の倪夏蓮(ニーシャーリエン・ルクセンブルク)が東京五輪代表に選出されている。
写真:40歳のティモ・ボル(ドイツ)/提供:ittfworld
20代でベテランと呼ぶのは、早すぎるのではないだろうか。
宮﨑義仁氏に2020年度の卓球界について聞く企画の第4回は「日本卓球界の20代ベテラン問題」について聞いた。
【宮﨑義仁(みやざきよしひと)】1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校~近畿大学~和歌山銀行。現役時代に卓球日本代表として世界選手権や1988年ソウル五輪などで活躍後、ナショナルチームの男女監督、JOCエリートアカデミー総監督を歴任。ジュニア世代からの一貫指導・育成に力を注いでいる。公益財団法人日本卓球協会常務理事、強化本部長。
>>宮﨑氏インタビュー第3回はこちら Tリーグ男女優勝チームを宮﨑氏が分析 「日本生命の育成はTリーグのモデルになる」
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若年齢化の進む日本
写真:伊藤美誠(スターツ)/撮影:ラリーズ編集部
近年、日本卓球界ではトップ選手の若年齢化が顕著だ。特に女子では20歳の伊藤美誠、平野美宇、早田ひなの“黄金世代”に続き、18歳の長﨑美柚、16歳の木原美悠と10代の選手も頭角を現している。
また、男子でも、小学生時代に全農杯全日本卓球選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部)で大会6連覇を果たした13歳の松島輝空が、男子最年少でTリーグデビューを果たし注目を集めた。
写真:松島輝空(左)、大島祐哉ペア(木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部
さらに小学生が大人を倒すこともある卓球において、メディアは“スーパー小学生”や“若き新星”というキャッチーなフレーズで有望なジュニア選手をこぞって取り上げる。年上が年下に一度負ければ世代交代と報じられることもある。
我々としても相対的な年齢以外の視点を社会に提供しなければならない。メディアを中心とした周囲の声によって作り上げられた空気に影響されるということを多くの選手たちが語っている。
各選手が語る“20代=ベテラン”という空気
全日本選手権で5年ぶりの優勝を飾った27歳の石川佳純は若い選手の台頭に関して「もう無理なんじゃないかって思ったこともあるし、言われることもいっぱいあった」と苦悩を明かす。
写真:石川佳純(全農)/撮影:ラリーズ編集部
また、全日本で2年連続ベスト4に入った26歳の吉田雅己(栃木県スポーツ協会)は「自分はベテランの域に差し掛かっているので、今年の全日本は最後のチャンスくらいの気持ちでやっている。去年ベスト4で『ベテランの吉田が』とメディアに書かれて意識も強くなっている」と語っていた。
写真:吉田雅己(栃木県スポーツ協会)/撮影:ラリーズ編集部
さらに同じく26歳の鈴木李茄(昭和電工マテリアルズ)は「気にしないようにしても気にしちゃうというか、自分たちの年代は、“自分はもうできないんじゃないか”と自信を失うことは結構ある」とインタビューの際、胸中を明かしていた。
写真:鈴木李茄/撮影:田口沙織
年齢に合った練習メニューで飛躍した日本卓球界
日本卓球協会の強化本部長である宮崎氏は、ホープスナショナルチームを設立するなど、幼少期から選手を育成する環境を整備し、卓球日本が再び中国に伍するところまで強化してきた立役者の一人だ。
写真:宮﨑義仁氏/提供:アフロスポーツ
「僕らがホープスナショナルチームを作ったきっかけは、年代に合った練習をやって強化するため。敏捷性のある動きは12歳までしか伸びませんから、反復練習で神経系を刺激するような練習をしっかりとやる。アンダー7(7歳以下)のトレーニングには、メトロノームを持って行って、1分間で185回の音を鳴らして速いテンポのイメージを付けたりもしています」。
写真:U7の強化合宿ではダンストレーニングも取り入れられている/撮影:ラリーズ編集部
また、12歳前後から15歳前後までは心肺機能が伸びるため、ランニングを中心としたメニューを、15歳から20歳前後までは筋力をつける年代になるので、ウエイトトレーニングを中心としたメニューを、と研究に裏打ちされた成長過程に合った最適なメニューを組んでいく。そうやって日本の卓球は幼い頃から強化し、10代20代の選手が世界へ羽ばたいている。
人生を卓球に落とし込めば、まだまだ道半ば
写真:宮﨑義仁氏/撮影:ラリーズ編集部
「卓球選手として、早咲き遅咲きはあると思います」。
実は宮﨑氏自身、選手としては遅咲きの方だった。25歳の世界選手権で初めて国際大会に出場し、27歳で世界ランキング15位に入り、29歳でソウル五輪に出場している。
年齢によって努力の方法が違うのだ、と宮崎氏は力を込める。
「20歳以降はゲームプランや戦術をしっかり勉強する。そして25歳からは体の維持。パワーアップではなく筋力を落とさないために、練習量よりもトレーニング量を多くして、40歳くらいまでしっかりやっていければ、長い選手生活が送れます」。
写真:31歳の水谷隼(木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部
「及川君が優勝したように、男女ともに世間一般に知られていない選手でも、優勝できる実力を持つ選手は日本全国にたくさんいる。ちょっとした考え方、練習のやり方、トレーニング、食事、睡眠の工夫次第では1年でチャンピオンになるポテンシャルをみんな持っている。絶対チャンスはあるので、頑張ってもらいたい」とエールを送る。
写真:及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
「選手はみんな、卓球=人生だと思ってるはず。だったら自分の人生の縮図を卓球に落とし込んで、7ゲームのゲームセットを100歳と考えてみたらまだまだ道半ば。卓球は11本の1、2本を取っただけでは勝てない。7ゲームの最後まで戦わないと勝てない。人生を卓球に落とし込んで考えていけば、自分がベテランだとか、まだまだ言える年じゃないはず。人生プランも考えながらやれば、20歳でベテランという考え方は変わっていくと思います」。
確かに、7ゲームのゲームセットを100歳で考えてみると、選手生活はもちろん、現役引退後も多くのことは道半ばだ。
長く楽しめる競技だからこそ、それぞれのステージで努力の方法が違うのだと考えたい。
宮﨑義仁氏インタビューはこちら
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取材:槌谷昭人(ラリーズ編集長)