「コミュニケーションに限界なし」生徒たちで創り上げる"令和版部活動"埼玉栄高校卓球部に潜入 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:埼玉栄高校卓球部のメンバー/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 「コミュニケーションに限界なし」生徒たちで創り上げる“令和版部活動”埼玉栄高校卓球部に潜入

2022.05.26

この記事を書いた人
Rallys副編集長。学生卓球を愛し、主にYouTubeでの企画を担当。京都大学卓球部OB。戦型:右シェーク裏裏

埼玉栄高校卓球部はどこか気になるチームだ。Twitterでの発信も盛んで、県大会から全国大会まで結果を事細かにツイートしているし、イベントがあればブログが頻繁に更新される。

もちろん卓球の実力も全国レベルで、2022年3月末の全国高校選抜では7年ぶりにベスト16入りした。インターハイ学校対抗にも現時点(2022年5月)で22年連続出場している。

今回は埼玉栄高校卓球部の練習に潜入し取材した。高橋裕樹監督に話を聞くと、今の時代に合った“令和の部活動運営”の姿が見えてきた。


【埼玉栄高校卓球部】埼玉県の卓球強豪校。インターハイ学校対抗には22年連続出場(2022年5月時点)。関東大会、関東選抜ではともに学校対抗優勝4回を誇る。2022年の全国高校選抜では予選リーグを突破しベスト16に入った。最近では一般受験を通して大学進学する選手も出ており、慶應義塾大学、明治大学、高崎経済大学などに進学者を出している。

若森前監督から引き継いだ高橋監督


写真:高橋裕樹監督(埼玉栄高校)/撮影:ラリーズ編集部

――高橋監督が埼玉栄高校卓球部に就任する経緯から伺わせてください。
高橋裕樹監督:私は埼玉栄高校の卒業生なのですが、國學院大學に進学し、1年大学院にも行きました。

結果的に大学院1年目に県立高校の採用試験に合格をして採用され、上尾鷹の台高校というところで教員をさせてもらいました。

――最初から埼玉栄高校ではなかったんですね。
高橋裕樹監督:はい、上尾鷹の台高校には5年間勤め、卓球部の顧問もやらせてもらいました。

何とか工夫しながらそこにいる子どもたちと一緒に力をつけて、最後埼玉県で3位になって関東大会に出られるまでいきました。


写真:高橋裕樹監督(埼玉栄高校)/撮影:ラリーズ編集部

高橋裕樹監督:その様子を見てた、私の恩師である若森先生から「自分もあと数年で誰かに監督を引き継がないといけない。母校に戻って監督をやるのはどうか?」という話をいただいて、何か自分ができる事があればということで埼玉栄高校の教員に着任しました。

1年間はコーチとして卓球部に関わっていたんですけど、1年経ったところぐらいからだんだん監督に移行して、現在に至るというところですね。

若森先生は監督を勇退された今も教員として働いていて、顧問も一緒にやってるんですけど、監督が私に変わったという感じです。


取材時にも若森均前監督(埼玉栄高校)は練習場にいらっしゃいました

――若森前監督から引き継いで、高橋監督が変えた部分は何かありますか?
高橋裕樹監督:一つは生活の管理でアプリを導入しました。朝昼晩の食事や睡眠時間、体調を入力してコンディションを常にデータ化して見られるものです。ただ、僕が管理してるというよりは、選手が自分で自分のことを確認できるように導入した感じです。

合わせて実は動画分析アプリも採用して試合の分析に使っています。あとトレーニングやストレッチは細かくメニューを決めて、必ず練習の最初と最後に入れていますね。

――データやトレーニングなど細かい現代的な部分を採用した感じですね。
高橋裕樹監督:ナショナルチームやジュニアナショナルチームがやってることの真似事でも良いから、何かできることはないかと思って始めました。


写真:埼玉栄高校卓球部のメンバー/撮影:ラリーズ編集部

「コミュニケーションはどんなに取っても終わりがない」

――監督が指導される際に意識しているポイントはありますか?
高橋裕樹監督:最初の頃はどうしても指導者としてやりたいことを選手たちにやらせようとするスタイルでした。

それが上手くいかないというところで、どうしたら良いかなと考えたら、「コミュニケーションを取ること」という結論に至りました。


写真:取材中も頻繁に生徒とコミュニケーションを取っていた高橋裕樹監督(埼玉栄高校)/撮影:ラリーズ編集部

高橋裕樹監督:生徒たちは、もともと卓球が好きでやりたくて、実績を出したいと思っていたはずです。モチベーションを下げてしまうのは、指導者側が選手のやりたくないことや気分が乗らないことをやったからです。

そうならないようにするため、こちらが何かをやった時に選手の反応を見て、違うなと思ったら聞くようにしています。

コミュニケーションはどんなに取っても終わりがないと思っているので。


生徒と練習メニューについて会話する高橋裕樹監督(埼玉栄高校)

――コミュニケーションは終わりがない、とはどういうことでしょうか?
高橋裕樹監督:今、スポーツの世界ではパワハラや体罰が問題になっていますよね?競技としては勝つためには厳しくすることも必要です。ただ、厳しくするとどこかでそういう方向性になりがちです。

その方向を追求していくのは難しいんですが、“コミュニケーションを取る”ということだったらどんなに突き詰めても限界がない。


写真:埼玉栄高校卓球部の練習風景/撮影:ラリーズ編集部

高橋裕樹監督:モチベーションが上がってる時、人間関係で悩んでる時、生徒たちのいろんな様子を見ながらコミュニケーションを取っていく。

これには終わりがないし、やればやるほど面白い。どんどん良くなっていく可能性があるなと思っています。

そっちに走った方が、例えばこれから何十年間指導をして、継続的に活躍する選手が出てくる環境を作ることができるんじゃないかと考えていますね。

高橋監督にメンタル面を学び成長

ここで主将の杉山勝大にも話を聞いた。


写真:杉山勝大(埼玉栄高)/撮影:ラリーズ編集部

――主将から見て埼玉栄高校卓球部はどういうチームですか?
杉山勝大:卓球をやらされてる感がなくて、自分たち主体で本当に伸び伸び卓球をやらせてもらえてるので、そこは特徴の一つかなと思います。
――確かに自由な雰囲気が伝わってきます。

高橋監督の指導はどうですか?

杉山勝大:高橋先生は自分に親身になって色々とアドバイスしてくださったり、相談に乗ってくださったり、卓球以外のところでもサポートしてくださるので本当に有り難いなと思ってます。


写真:杉山勝大(埼玉栄高)/撮影:ラリーズ編集部

――どういうアドバイスが印象に残っていますか?
杉山勝大:自分はメンタルが元々弱くて、その点で相談に乗ってくれたり、メンタルに関する本を貸してくださったりしました。

メンタル面を高橋先生から学んで、試合に活かせています。そのおかげか高校2年生のときはフルゲームの試合をほとんど勝つことができました。


後ほど聞くと高橋監督は、選手のメンタル強化のためにスポーツメンタルトレーナーの資格を取得したとのこと

――チームとしては今後どういう目標でやっていきますか?
杉山勝大:ここ最近関東大会では3位や準優勝でなかなか優勝できていないので、最後の夏で関東大会優勝を目標にしています。

インターハイはベスト8入れるように頑張っていこうかなと思ってます。

地域の卓球を盛り上げられる応援されるチームへ

最後に高橋監督に今後作っていきたいチーム像について伺った。


写真:高橋裕樹監督(埼玉栄高校)/撮影:ラリーズ編集部

――今後、埼玉栄高校を長く率いていくにあたり、どういうチームにしていきたいかも教えてください。
高橋裕樹監督:埼玉栄高校に着任した理由にもなってるんですけど、地元や地域の卓球競技自体を盛り上げたいという思いもありますし、地域を盛り上げていきたいという気持ちもあります。

なのでTwitterやブログで発信していて、地域の人に応援してもらったり、地域の卓球を活性化させたりできればなと。

いろんな人に知ってもらって、応援してもらって、それを受けて子どもたちが頑張れる。そういうイメージでチームを作っていきたいなと思っています。

――地域密着のプロチームのような考え方ですね。
高橋裕樹監督:そこまで大掛かりでなくても、小中学生がうちの学校の選手を見て、「ああいう風になりたいな」と思ってもらえて応援してもらえるとか、保護者やクラブの人たちに「頑張ってね」と言ってもらえるとか、応援されて信頼されるチームというイメージでやっていきたいなと思ってます。

――監督と頻繁にコミュニケーションを取っていることもあると思いますが、今回取材させていただいて、自由な雰囲気ながらも生徒たちは自ら考えてしっかり部活に臨んでいるなと感心させられました。
高橋裕樹監督:自由だから遊んでるということではなく、自分たちで考えた上で僕と一緒に運営しているというような感覚に近いと思います。

実際彼ら彼女らはたぶんここに来るのが楽しいと思うんですよね。ずっとここにいて活動していたいと思ってもらえるような雰囲気にはなってるんじゃないかなと思います。


写真:埼玉栄高校卓球部の練習風景/撮影:ラリーズ編集部

高橋裕樹監督:実際に彼らが社会人になったときに「高校時代の部活動であれだけ自分たちが満足していて、頑張ろうという雰囲気を作れたのは、たくさんコミュニケーション取って、自分たちのやりたいことをお互いに伝え合っていたからだ」と考えてできるようになるんじゃないかなと。

そうすれば今の時代が求めてることや世の中が求めてることに合っていく。

“令和版の部活動”と言えるような、全国大会に出ていくようなチームでも厳しいことだけじゃなく、自分たちで創っていく部活動というのができるんじゃないかなという風には思ってます。

取材動画はこちら

動画では、高橋監督のより詳しい話や選手のプレー、モノマネなどもありますので、ぜひご覧ください!

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