それでも実業団日本一を目指す3つの理由 ファースト代表取締役社長・浜野浩 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:浜野浩 ファースト代表取締役社長(中央)とファースト卓球部のメンバー/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー それでも実業団日本一を目指す3つの理由 ファースト代表取締役社長・浜野浩

2022.06.24

この記事を書いた人
1979年生まれ。テレビ/映画業界を離れ2020年からRallys編集長/2023年から金沢ポート取締役兼任。
軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

卓球ファンなら“ファースト”という名前に聞き覚えがある人も多いだろう。

株式会社ファーストは、OA機器販売を中心としたオフィスサポート事業を手がける会社である。

浜野浩氏が1990年2月に東京の江戸川区で創業、現在では社員数130名超、大阪や名古屋、福岡などにも支店を広げる他、子会社も2社持つ。


写真:ファースト本社/撮影:ラリーズ編集部

そのファーストの持つ卓球部には、松平健太や岸川聖也らトップ選手たちが所属している。

6月30日に開幕する全日本実業団選手権大会に向けて、彼らの熱がかつてないほど高まっている。

浜野浩社長に話を聞いた。


写真:浜野浩(ファースト代表取締役社長)/撮影:ラリーズ編集部

ファーストがコロナ禍でも選手契約を続けた理由

――ファースト卓球部は、2020年に松平健太選手、21年に町飛鳥選手、そして22年に神巧也選手と、コロナ禍でも新たに選手と所属契約を結び続けましたね。なぜですか。
浜野浩 総監督:全日本実業団(6月30日〜7月3日 徳島)が一番の目標ですが、選手の居場所を作りたいという思いですね。

試合だけのために選手を獲っているわけではなく、その後もずっと契約を続けて、選手と一緒に成長していきたいと思っています。


写真:松平健太(ファースト)/撮影:ラリーズ編集部

――ファースト卓球スクールでも、元日本代表の豪華な選手たちがコーチを務めていますね。
浜野浩 総監督:ええ。やっぱり卓球をしっかりビジネスにしないと長続きもしないし、選手の居場所も作れない。綺麗事じゃなくて、絶対に仕事にしなくてはという思いで、卓球スクール事業も作りました。


写真:ファースト卓球部のメンバー/撮影:ラリーズ編集部

ほぼ全社員が応援に来た

――そして、目標に掲げる全日本実業団優勝を目指す理由は、何なのでしょうか。
大きく3つあります。

一つ目は、試合中は選手のプレーもベンチからの応援も世界選手権並みに必死になってやる、あの熱狂。

二つ目は、優勝できなくても来年こそはと誓う打ち上げ(笑)。

三つ目は真面目な話、全日本実業団の大会期間は、会社全体で応援するんです。その1週間は“試合も頑張れ、俺たち営業も頑張る”ということで、全社一丸となってキャンペーンを組みます。

コロナ前の千葉大会のときは、社員ほぼ全員の100人弱が応援に来ましたから。

――大応援団(笑)。

その一体感は企業スポーツの良いところですよね。

浜野浩 総監督:実際にお金になるわけじゃないですけれども、お客さんにも少しはPRできたり、営業しやすい部分もあるんじゃないかと思います。
――ちなみに打ち上げは現地で、それとも東京で?
浜野浩 総監督:現地です。お店探しは私の役目です(笑)。


写真:ボール拾いも担当していた浜野浩 総監督/撮影:ラリーズ編集部

――盛り上がりますもんね、全日本実業団って。
浜野浩 総監督:年に一度の大舞台が、毎年各地で開催されますからね。

有観客の頃は、各地の子どもたちがうちの選手たちに次々とサインを求め、もらって喜んでいる姿を見て、その意義も感じました。


写真:ファースト卓球部のメンバー/撮影:ラリーズ編集部

選手を選ぶ基準

――浜野さんが、所属選手を選ぶ基準って何かあるんですか。
浜野浩 総監督:変な話かもしれませんが、性格の良い選手を獲ろうと、そこは選手たちとも確認しながらやってます。

試合のためだけに短期的に獲る気持ちはないので、一緒に成長していきたい、一緒にビジネスをし、一緒に卓球界を盛り上げていきたい、そんな思いが一致した選手とやりたいと思っています。


写真:浜野浩 総監督(左)と大矢英俊(右)/撮影:ラリーズ編集部

中堅世代の選手たち

――ファーストの各選手は20代後半から30代と、現在の卓球界では中堅世代ですね。なにか理由があるんでしょうか。
浜野浩 総監督:うちの選手は、必然的に今まで成績を残した選手が多いです。例えば岸川聖也君なら、うちに所属したときは日本代表選手、それからプロリーグ参戦、コーチ、そして監督という流れですね。

選手のステージが変わっていくときに、そこからの生き方をサポートできればと思っています。

――選手のデュアルキャリアを考えても、そういう場所と時間があるのは理想的ですね。


写真:岸川聖也(ファースト)/撮影:ラリーズ編集部

ベンチコーチも命懸け

浜野浩 総監督:選手が、うちに所属した瞬間にみんな成果を挙げてくれるんですよ。聖也君も日本代表になったり、大矢もいきなり社会人で初優勝したり、健太も今回の全日本で決勝まで行って。
――確かに。それはなぜなんでしょう。
浜野浩 総監督:私はずっとベンチコーチに入ってますが、技術的な指導というのは、プロ選手に向かってほとんどできません。

私ができることといったら、一緒に戦うという意識、相手に対する闘争心を持つことくらい。選手も本当に命懸けなので、私も命懸けで戦います。大きな大会だと体重2、3キロ減ります。

でも、手前味噌ですが、自分がベンチコーチにつくと勝てる、という強い気持ちはあります。


写真:ベンチから選手を見つめる浜野浩 総監督/撮影:ラリーズ編集部

――その闘争心は、浜野社長が元々持っているものですか。
浜野浩 総監督:そうですね。私も会社を一から立ち上げた人間なので、どんなにつらくても手を離したら会社はなくなってしまうという状態も経験してきました。そこで培ってきた精神が、そのまま出るんでしょう。

あれだけのプロ選手が、プロ意識を持って命懸けで戦っている姿を見ると、やっぱり私も闘争心が自然と湧いてきます。

――でも、普段お話ししているときは、とても穏やかで冷静な印象ですね。
浜野浩 総監督:なるべく、いざというときだけにするよう気をつけてます、会場でよく注意もされるので(笑)。


写真:浜野浩/撮影:ラリーズ編集部

コロナでも卓球事業を辞めようとは思わなかった理由

――でも、2020、21年と2年連続で全日本実業団は中止でしたよね。
浜野浩 総監督:毎年、中止が決定したときはがっくり来てました(笑)。
――長引くコロナ禍で、卓球事業を辞めようという思いはよぎりませんでしたか。
浜野浩 総監督:全く思いませんでしたね。
――なぜなんでしょう。
浜野浩 総監督:一度続けたことというのはずっと続ける性格でもありますし、やっぱり卓球事業を続けるためには、本職の会社を頑張らなきゃいけないというのは自分でわかっているので、会社を頑張る闘争心にもなりますからね。


写真:浜野浩 総監督/撮影:ラリーズ編集部

私の満足で終わらせてはいけない

取材終わりに、悲願の優勝を果たしたらどうしますか、と尋ねてみた。

「そこで終わらせてはいけないなと。私の満足で終わらせてはいけないんです。選手たちにとってもそこがピリオドではない。次は総合団体を狙ったり、連覇を狙ったり」

そう言った後、浜野社長は、ふと気づいたように笑った。

「ま、1回も優勝してないのに言うことじゃないんですけどね」

ファーストが悲願の優勝を目指す全日本実業団は、2年の中止を経て、徳島県鳴門市のアミノバリューホールで6月30日に開幕する。

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