「勝利の栄誉を称えないと衰退する」村上恭和総監督の見つめるTリーグと卓球界の未来【後編】 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:村上恭和/提供:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 「勝利の栄誉を称えないと衰退する」村上恭和総監督の見つめるTリーグと卓球界の未来【後編】

2021.05.13

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

Tリーグで男女唯一の三連覇を果たした、日本生命レッドエルフ。

日本卓球リーグ実業団連盟の常勝名門チームの地位を捨て、創設期のTリーグに参戦した。

平野美宇、早田ひならトップ選手を擁し、歴史に裏打ちされた充実の設備・指導環境を備え、ジュニア選手の育成システムも持つ日本生命。

チームを率いる元日本代表女子監督の村上恭和総監督に、後編では、Tリーグと卓球界全体への展望と課題を聞いた。

>>前編はこちら 行動基準は“世界一を狙えるか” 名将・村上恭和、貫く信念と変化する柔軟さ【前編】

参加チームを増やすことが今後の大きな仕事

「まず、チーム数が増えなかったのは残念ですね。4チームでスタートして今までにない卓球の良さっていうのを発信できたんだけど、我こそはと手を挙げるチームが、日本リーグの中から1チームも出なかった、ってのは残念でしたね」。

それは「今いる私たちの仕事でもある」と言う。
「今の4チームがいい試合をしたり、観客を集めたり、世の中で高評価を集めたりすれば自然とそうなってくると思うんです」。


写真:ファイナルで熱の入ったガッツポーズを見せる早田ひな(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

すべてのライブエンタテイメントと同じく、興行が基本であるTリーグにとってコロナの影響はとても大きい。目玉となる海外選手の多くが来日できず、そもそも無観客開催が続いた。今季についても全く先は読めない。

少しだけ間を置いて、こう言った。

「勝ったときの、チームの栄誉をもっと称えないといけない。これをしないと衰退につながる。例えば日本リーグは昭和53年スタートだけど、女子で言えば、かつて優勝したところから順番に日本リーグを脱退したことがありました」。


写真:村上恭和総監督/撮影:ラリーズ編集部

「やった、初優勝!って言っても何も栄誉がない。五輪代表も世界選手権代表もそこから選ばない、賞金が何億円もあるわけじゃない、マスコミに大々的に出るわけでもない。Tリーグがそうなるとダメなんですよ。優勝したら、企業価値、そのチームの価値を上げられるようにならないと。なんだこんなに頑張ったのに何にもなかった、ってなっちゃうよね、そのうち」。

その表情はこの先の卓球界を真剣に憂う。

「選手からすると、例えば優勝チームから一人は世界選手権の代表内定とか、もちろん難しい話なんですけど、それぐらいの価値があっていい。チームには優勝したら運営費5億円とか。サッカーだってあるじゃない」。

村上はずっと他のプロスポーツ動向を意識している。
「地域参入も望むTリーグとしては、一番上を見て、おおすごい、優勝したらすごいんだなあ、うちもやろうよと。やっぱりその目標がないと」。


写真:3連覇の日本生命レッドエルフメンバー/撮影:ラリーズ編集部

15歳で五輪に出る競技だから

一方で、Tリーグは選手の強化には確実に寄与していると話を振ると、村上は頷いた。

「中学生も高校生も大学生も、我こそはという人がTリーグにエントリーして、実際に出て勝ってますよね」。


写真:Tリーグ3季目注目を集めた木村香純(木下アビエル神奈川)/撮影:ラリーズ編集部

「例えば、木村香純選手がこれまで早田ひなと試合ができたかと言うと、全日本では対戦するまで至らないし、大学とはカテゴリーが違うし、国際大会には出ないし、一回もしないままだったと思う。それがもう4回も試合したんだよ。これはすごい強化だよね」。

木村香純はじめ、これまでの卓球界の文脈にはなかったヒロインが、Tリーグから生まれつつある。


写真:赤江夏星(日本生命レッドエルフ)/提供:©T.LEAGUE

「うちの赤江(夏星)なんかもそう。今までだったら、なかなかこのレベルの試合には出られないよ。それはやっぱり年齢やカテゴリーの垣根を取っ払ったからできること。卓球の場合は実際マイナスにはならないよね、15歳でオリンピックに出る競技ですから」。


写真:張本美和(木下アビエル神奈川)/提供:©T.LEAGUE

ま、でも20年はかかるものです。Jリーグもそうだったでしょう」

日本卓球低迷期から再び黄金期を迎えた一翼を担った自信か、あるいは30数年前、選手引退後にママさん卓球のコーチから始めた男の胆力なのか。

村上の姿勢はブレない


写真:村上恭和/提供:ラリーズ編集部

WTTについて

「練習だけが増えてくるわけです」。現在、議論が百出しているWTTについても話を聞いた。

WTTの現在のルールでは参加できる日本選手が限られ、これまでのように獲得した世界ランキングポイントで五輪代表を争う上で、公平性に欠ける。

そこで日本卓球協会は3月、2024年パリ五輪代表選考においてはWTTを対象外とし、全日本をはじめ国内大会もポイント対象とする旨の決定をした。もちろん、村上も賛成した。


写真:WTTコンテンダードーハの模様/提供:新華社/アフロ

世界一を狙うには新たな仕組みを考える必要がある、と村上は言う。

「中国選手と何回も試合ができるから伊藤美誠も頑張れたんですよ。年一回しかできてなかったら実力は上がらないですよね」。


写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

練習だけでは強くなれない

「昔の世界選手権は2年に1回です。おお、あの中国選手誰やろなあって、だいたい初出場初優勝です。情報がないから、あれ誰やろって選手が優勝するんです。対応のしようがない。今は、ジュニアから世界中を転々としてるから、もう何回も対戦したことあるよね。だから、どうやったら10オールから勝てるか、努力目標ができる。WTTがなくなるとそういう機会が無くなる。国内には留学生もいない、中国選手もTリーグに参加できない。日本人選手が世界チャンピオンを狙うときに、これは考えないといけない。平野、早田、長﨑あたりは、一年の半分くらい海外に行ってたわけだから」。


写真:ITTFグランドファイナルで優勝した長﨑美柚(左)・木原美悠ペア/撮影:ラリーズ編集部

「そのぶん国内の試合のレベルを上げて、例えばプロゴルフみたいに毎月転戦して日本ツアーやって、そこで得点稼いだら五輪に出れる、そういうシステム作るとか。国内で競争と結果を出す仕組みを作らないと、練習だけでは強くなれない」。


写真:石川佳純・平野美宇ペア/提供:ittfworld

取材を終えて

人当たりは柔らかいが、信念はブレない。
熟考するが、ひけらかさない。
気配りの人でありながら、変えるときは大胆に変える。

代表はじめ長年女子チームを率いて結果を出し続ける理由は、そんな人柄にもあるのかもしれない。

「さ、いっぱいコーチの話を聞いてやってください、うちのコーチたちは僕より優秀ですから笑」

チームの強さの理由は、指導陣の明るさの中にも見えた。


写真:村上恭和/提供:ラリーズ編集部

特集・日本生命レッドエルフ第2弾 なぜ日本生命は強いのか?

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